第5話 Afterschool 3

「喉渇いたね。なんか飲む?」

彼女が聞いてきた。何か飲んだほうが良さそうだ。が、ふと思う、バス代節約する彼女が、果たして喫茶店に行くとかあるのだろうか?

「そうだね、でもどこかの店でも行くの?」

俺が問いかけると、マイは、

「んじゃ、ここかな?着いてきて。」

そう言うと歩き出し、着いたところは、シャッターの閉まったお店らしきところだった。そのシャッターの横に、やや年季の入った自動販売機がある。

「ここ、ちょっと安いんだよね。」

確かに、ここの自販機、ジュース1本の値段が安かった。商品のラインナップは、他と余り変わりないようだった。彼女がコーヒー(甘そうなやつ)を買ったあと、言った。

「はーくん何飲む?折角だから、今日は、アタシが奢ったげる。ここまで頑張って歩いたご褒美と、付き合ってくれたお礼。」

呼吸は落ち着いては来たが、やはり疲労感はあった。そんな状況で目に入ってきたのは、青い缶のスポーツドリンクだった。

「ああ、じゃあ、あのスポドリで。」

「オッケー!スポドリね。はい、つーか、本当に疲れてるんだね。」

音を立てて落ちてきたスポドリの缶を彼女が俺に手渡した。手に取ると缶の冷たさが、手に伝わってきた。

「じゃ、飲もうか。」

お互いが飲み物に手にして、缶を開けると、彼女が持っている缶コーヒーを俺が持っているスポドリに近づけてきた。俺は一瞬戸惑ったが、何故か、彼女の意図がわかって、俺もスポドリの缶を彼女の缶コーヒーへと近づけていった。互いの缶がコツンと音を立てたところで、予想は確信に変わった。こうなれば、言うべき言葉はこれしかない。

『カンパーイ』

タイミングは驚くほどピッタリだった。

『うわ、ハモってる。』

これまた、タイミング一致。互いの飲み物に口をつけたあと、俺とマイはしばらく笑っていた。

「あ、そう言えばアタシ、スポドリってあんまり飲んだことないだよね。一口ちょーだい。」

マイの申し出に、俺は特に何も考えず、持っていたスポドリを手渡していた。手に取った缶を彼女は何の躊躇いもなく口に持っていき、一口飲んだ。彼女は、

「ありがと。」

と言って缶を俺に返してきた。

「爽やか甘いね。ひさびさのスポドリだあ。」

爽やか甘い。面白いけど、何故か、しっくりくる言葉だ。

「良かったら、はーくんもアタシのコーヒー、飲んでみる?」

あまりにも自然に渡してきたので、俺も普通に受け取り、口に運んだ。まずクリームと砂糖の甘さが来て、最後にほんのり苦みが残る、そんな感じの味だった。

「甘くて、ちょっと苦いね。」

俺が感想を述べると、彼女は言った。

「そうだね。でも、アタシはそういうのが好き。」

何だか、深そうな言葉だ。しかし、その後続けて、

「つーか、ブラックだと苦すぎて飲めないんだよね。」

そう言うと、ペロリと舌をだした。それを聞いて俺は思わずコケそうになった。深くなんかなかった、むしろ浅い。でも、そんな彼女の素直さに俺は、好感が持てた。

二人の飲み物が空になり、缶をゴミ箱に捨てる。空がやや夕焼けみを帯びてきていた。

「そういや、マイちゃんこの後どうすんの?俺は、帰ろうかと思うけど。」

彼女は、言った。

「うーん、今日は、アタシも帰ろっと。」

「いつもはどうしてるの?」

「ん、バイトだけど。スーパーの品出し。」

「頑張ってるね。」

「ありがと。シフト多く入ってるから。家帰るのは普段はもっと遅いよ。」

「ご両親は心配しない?」

「ああ、うち片親なんだ。母子家庭ってやつ。」

彼女はサラリと重いことを言った。

「あ、ごめんなさい。知らなくって。」

「いいよ。気遣わないでって。で、ママはめっちゃバリバリ働いてる。アタシより帰り遅いもん。」

彼女は明るく話しているが、中々大変な生活だ。そんな話を聞いていたら。俺もいつしか真顔になっていた。

「あー、家の話すると、こうなっちゃうんだよ。ヒクよね。おかげで、アタシは友達いないんだよ。」

俺は、自分が如何に恵まれた環境であることを痛感した。両親にも感謝しなきゃならない。でも、これだけ大変な中でも、明るく振る舞うマイは凄いと思った。まあ、色々あったけれども、彼女と過ごした今日の放課後は物凄く楽しかった。だから、また、これからも一緒に過ごしたいと、素直に思った。

「今日は楽しかったよ。時間があるときは、また一緒に、帰ろうよ。」

俺の言葉に、彼女の表情はさらに明るさを増した。そして、声を弾ませて言った。

「こっちこそ、また一緒したい。今日はほんとにありがとね。」

その後、俺たちは取りあえず連絡先を交換した。

「なーんだ、はーくんもsnsやってんじゃん。」

その事実にマイは少し驚いていた。まあ、登録だけしてて、全然使ってなかったんだけど。

お互いの電車の方向は違うので、今日のところはそれでお別れとなった。電車に乗り、俺は鞄の中の本を取り出した。その瞬間思い出した。さっき飲み物飲んでた時のこと、あれって間接キスって奴じゃん。俺は顔が真っ赤になった。本の内容が全く頭に入らないまま地元駅までの時間が過ぎた。

その日の夜、マイからsnsでメッセージが来た。俺は、十数分程かけて返信した。




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