冬の手紙

 荷物を整理して俺は家を出た。雲は多いが太陽も顔を覗かせている。突然降り出す事はないだろう。

 畑病院は患者でごった返している。診察の合間に俺は藤丸の診察室に滑り込んだ。


「今度は何処に行く?」


「また東の方へ戻る。冬が明けるまでは都あたりに留まるつもりだ」


「そうか。何かあれば手紙を出す」


「わかった。それじゃあ行く。達者でな」


「ああ、変なところでくたばったりするなよ」


 いつも通りの会話をして、病院から城下町方面へと向かう。

 ここに帰ってきてから神社に参っていない。出発前に挨拶をして行く事にした。

 店で供物を買って、城山の麓から伸びる千本鳥の階段を登って行く。

 登り切った先には手水があり、そこで手と口を清める。

 朱色の綺麗な本殿、整備された敷地は趣がある。

 供物を供えて、作法通り手を合わせる。

 挨拶だけ済ませて、俺は南の山を越える街道へと歩みを進めた。

 



 時が経ち、雪が降り積もる日に手紙が届いた。


拝啓

 カミノマ殿。師走の候、いかがお過ごしか?貴様の事だから、珍品探しに奔走しているのだろう。

 

 さて、こうして手紙を書いたのは粟木氏の事だ。

 貴様が町から旅立った後、粟木氏の病状は改善しなかった。所詮はカビ団子。未知の病に効く事はなく、堀井様に切断する事を伝えた。流石にあの方も折れて粟木氏の足を切断する許可が出た。

 切断手術は成功させたが、粟木氏の身体は蝕まれていた。

 切断部は化膿し、身体は熱を持ち、咳を酷くするようになった。我々もできうる限りの処置をしたが、先日逝去された。

 念の為書いておくが、粟木氏が逝去されたのは貴様が[黒鉄の丸薬]が原因ではない。ましてや、見つけ出すのが遅かったからでもない。

 これは、堀井啓造の我儘故、我々の力不足故に起きた事だ。気にする事のないように。


                  敬具


               藤丸 紫郎

カミノマ様

 


「後味の悪い事だな……」


 寒寒とした風が、宿の窓を鳴らした。

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