再会

 車窓から見える景色は綺麗な街並みからどこまで続いているような平原へと変わっていった。西洋化はそう進んでいないよだ。

 汽車に乗っているのは作業員のような恰好をしている。本当に炭鉱に行く者が多いようだ。給料がいいというのは聞いたことはあるが死の危険が常にある。私にはあまり割に合う仕事には感じない。


「もし、隣に座ってもよろしいか?足が悪いもんで立っておるのはきついのだ」


 声をかけられて窓から視線を離す。すると初老の男の顔が眼前にあり驚いた。


「……どうぞお構いなく」


「それじゃあ失礼」


 初老の男はゆっくりと腰を下ろして一つ大きな息を吐いた。


「いやはや、本当に助かりましたわ。ここまで席が埋まっておりましてな。ほとほと困り果てておってな」


「それは、お困りだったことでしょう」


「本当に困っていた。ところであんたさん、何処かで見た顔だね?名前を何という?」


「カミノマという」


 初老の男は手で顎をさすり思い出そうとしている。しばらく考え込むとはっと顔を上げてこちらに顔を近づけた。


「ああ、そうだそうだ!覚えておらんか?儂だ、円城寺だ。円城寺孝徳。覚えておらんか?」


「ああ!あなた円城寺孝徳殿ですか!すっかり顔が変わっていてわからなかった」


「そうであろう。なにせ9年経つ」


「おお、なんとお久しぶりです」


 円城寺孝徳は四ノ国の渦潮の町で以前世話になった。彼こそが僕に行商人の仕事を教えてくれた人である。かつて会ったときはまだ若々しかったため一目ではわからなかった。


「どうしてまたこんな北の大地に?」


「知り合いに呼ばれましてな。あんたさんは?」


「ナリゲシの花を探しに」


「ほう、聞いたこともない花だ。誰かに頼まれたのかい?」


「成芥子のお嬢様に頼まれましてね」


「はあ、藤吉郎の娘か。そりゃあご苦労なことだ」


「藤吉郎さんとはお知り合いで?」


「以前、病気になったときに治療してもらったことがある。ありゃあいい医者だ」


「そりゃあ、医師の名家の出ですから」


「そうだな。……しかしナリゲシか。この大陸の者でなければわからんだろうな」


「そうなのです。それで困っている。とにかく北の岩山に咲くという話しだけを頼りに今旅しておるのです」


「そうか。……うむ、それなら儂の知り合いの元に共に行こう。このあたりの者とも親しくなったと言っておったからきっと役に立つ」


「そうですか。それはありがたい。是非とも頼みたい」


「ならば。これからしばらくともに行動しよう。9年ぶりにな」


「そうしましょう」


 ここでの円城寺殿と再会できたことは幸運であった。これでナリゲシの情報を手に入れることができれば盆までに灯台の町まで余裕で戻れる。この幸運は生かさねば損だ。

 汽車は炭鉱に向け進み続けている。

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