上陸

 船に揺られて眠っていると何やら上の方が騒がしくなってきた。換気用の小窓から顔を覗かせてみると西洋風の綺麗な街並みが広がっている。


「ほお。北の大地は随分と近代的だな。これだと鉄道も整備されているのかねぇ?」


「そりゃあ鉄道くらい通ってるさ。炭鉱がわんさかあるんだからな」


 頭上から声が聞こえて上を見上げると若い船員が立っているのが見えた。


「炭鉱……成る程。その輸送に使う為か」


「国中回ってるってのに知らなかったのか?あんた」


「北の方にはあまり寄らなかったもんでね」


「そんなもんかい?まあいいけどよ。……そうだ、そろそろ港に着くぜ?準備しときな」


「そうかい。そりゃあどうも」


 鉄道があるというのは有難い。問題は何処まで繋がっているのかというところか。

 元々歩いて行くつもりだったのだから多少楽ができて運が良いと思っておくくらいが丁度良いだろう。


「さて、まあ焦らず気ままに行きますか」


 船は北の大地にたどり着いた。



 船から降り立つと清々しい風が吹き抜けた。 少々肌寒いが非常に気分がいい。ずっと船内で缶詰だったからだろうか?


「赤毛」


 船上から腕を組んだ船長がこちらに声をかけた。


「ああ船長、世話になった」


「そりゃいいが、赤髪の。とっとと行かねぇと盆までに成芥子のお屋敷に戻れやしねぇぞ」


「うん?あー……多分間に合うだろう。一応約束破ったことはなくてね」


「ああそうかい。ま、達者でな」


「そっちこそ、お達者で」


 船長に別れを告げて、空を見ると日が傾きかけている。近場で宿を探して今日は休んだ方が良いだろう。それに、まだこの大地の地図を持っていないので、何処かで入手しなければ流石に迷ってしまう。

 港から北に向かって歩いて少し街中に入るとすぐに宿屋が見つかった。最近建てられたばかりの西洋風の建物でなんともハイカラな感じだ。

 

「まあ、ここにするかね」


 建物に入ると20畳ほどの受付ホールとなっている。上を見上げると吹き抜けになっており開放感がある。


「いらっしゃいませ」


「旅のものだが、一晩泊まりたい。部屋は空いているか?」


「はいお客様」

 

「では泊めさせてもらうとしよう。いくらだ?」


「10円になります」


「うん」


 料金を支払うと205と書かれた木札のついた鍵を手渡された。


「お部屋は2階の205号室となります。それではどうぞごゆっくり」


 ロビーから伸びる階段を上り突き当たりを左にいくと205号室が左手に見えた。

 扉を開けるとベットが隅に置かれ、窓近くに手机と椅子が置かれている。


「少々割高な気もするが、まあ良いだろう初日くらい」


 明日からはひたすら北へ向けて歩く。今のうちにしっかり英気を養っておくべきだろう。背負子を下ろすとすぐにベットに横たわり目を閉じた。

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