1-11・なんか手に持つものが欲しい
右側のクルミと、左側のワタルに「はい」「はい」と、どうぞどうぞ、という感じで、異世界人っぽいことをやることを勧められたミドリは、困ったな、という感じで、左手で鼻の横をなでた。
異世界魔法っぽいものが一番できそうなのは、確かに宮廷魔術師を兼任している文官のミドリだろう
「それじゃ、ちょっとだけやってもいいんだけど……どうもなんか手に持ってないとやりにくいんよ。だいたいの魔法使いとか魔術師って、杖みたいの手にしてるやん」
「ワンドとかロッドとかタクトとかいうやつですね」と、ミナセは言った。
「その、ワタルのコーヒーカップの中でぐるぐる回ってるマジカルスティックじゃだめなの?」と、おれは聞いた。
マジカルスティックは、放っておいてもずーっと回っている魔法具の一種だから、これそのものが魔法のシンボルみたいなものかもしれない。
「いや、これは私が本気出すと壊れちゃうし、もともと使い捨て的なマジックアイテムだしねぇ……それにワタルは猛烈に嫌がっている」
確かに、ワタルはものすごい勢いで首を横に振りはじめた。どうやらお気に入りらしい。
ちょっと待ってろ、とミロクは、部室の片隅にあるダンボール箱のほうに行ってあれこれあさり始めた。
部室のダンボール箱は、なんでも無尽に収納できるという、よくある設定のアイテムではなく、定期的におれが近所のスーパーから買ってきている、2リットルのペットボトルが6本入っていた、ただの箱である。
買ってくるペットボトルは、お茶もあるけど、麦茶や炭酸系飲料とかさまざまで、箱はいくらでももらえる。飲んだあとは空き箱になるので、せっせと畳んで捨てる。
ただのガラクタの入れ物として使われているだけの箱だから、定期的に中身を整理したり、捨てたり、部長の指示で、これはもうすこし取っておこう、といった謎の理由で残されているものもけっこうある。
演劇部を含むほかの部から、これちょっと預かっといて、と言われているものもある。
たいていの他の部室は、この茶道部がある独立家屋と比べると、ものを置く場所がそんなにないのである。
「おれがホワイトボードに書いてる筆記用具は、杖の代わりになりそうなもんだけどな」
「だってあれ、筆記用具じゃん。先生が、ここ、重要なポイント、とか言って指し示す、あの伸び縮みする金属棒だったら使えるんだけどねえ、あれ、欲しいなあ」
伸ばすと60センチぐらいの長さになって、縮めると胸ポケットに入る、タクトぽいやつね。最近は黒板に板書する先生も減っているから、持ってるのは40代ぐらいの理系教師ぐらいか。
「んー、吹奏楽部にもらった指揮棒があったと思ったんだけど……これは折れてるな。あと、剣道部が鹿島神宮に必勝祈願でお参りに行ったときに買ってきた、塚原卜伝由来の木刀と鍋のふたはある」
「木刀ねぇ……でもそれ、両手持ちやん。出力出すぎて学校の一部ぶっとっじゃうかもね」
ワタルは、それを欲しいというアピールをした。
「片手に木刀、片手に鍋のふた、というのは冒険者の初心者装備としては悪くない。いらないんだったら拙が使ってみる」
「ここは異世界じゃないから、使えるかな」
「でも、わたしたちのいた世界と似たような、やられ専門系の魔物とかいるじゃないですか。ゴブリンみたいなの」と、クルミは言った。
「ああ、学校に通う小学生か」
「コボルトを連れたオークとか」
「イヌの散歩をさせてるおばさん、な」
「集団で歩いてるドワーフも」
「それは子供の下校時に、魔物、じゃなくて不審者が出ないか監視しているシニア見守り隊。でもエルフはいないのね」
「弱キャラじゃないですからねー。でも、マックで肉食べてるハーフエルフ? ダークエルフのグループが」
「まっとうなエルフは図書館にいるかもしれませんね。本は木みたいなものだから。しかし最近は電子エルフが主体でしょうか」と、ミナセも話に参加してきた。
とかなんとかやってるうちに、ミロクはどうやら使えそうなものを見つけたようである。
「あー、いいもんあった。これだったら、と自分は心からおすすめできるぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます