1-6・まず、新部の名前を決めよう
おれはホワイトボードを持ち出し、黒と赤の筆記用具を使って次のように書いた。
・茶道○○部
・○○茶道部
・活動実積
黒で書いて赤で線を引く。
エタっているヒロインの3人は興味深そうにホワイトボードを見た。
「ここは去年、というか今年の3月末までは茶道ラクロス部だったんだけど、ラクロスのできる部員がやめちゃうことになってさ。ラクロスなぎなた部に行くって」
「ぼくたちは、ラクロスのルールは知ってるんだけど、それだけですから」と、おれと同じ2年生(になる予定)のミナセは、赤みがかった髪のもみあげを触りながら言った。
「え、えーと、いくつか質問があります。」と、王族の血を引くクルミはおずおずと手をあげた。
「ラクロスってどんな料理なんですか?」
「そこかよ! ゆでたラーメンをすくいあげる網みたいなものを、なぎなたみたいなものの先につけて、ボールを奪い合うスポーツだよ」
たしかに、ラスクという食べ物はある。「らすく」という語もある。会津人らすく、って、映画『けんかえれじい』の中では言われてた。
ラクロスは、かつてはオリンピックの公式競技だったこともあり、カナダの国技でもあり、昔のアニメではよく女子がたしなんでいた。
「……で、それと茶道とはどんな関係があるの?」と、聖魔法が使えることになっているミドリは、聖衣という感じのだぶだぶ目な袖がある手を挙げて聞いた。
「うちにはラクロス部がないのと、名門茶道の家元の子がそれやってて、けっこう強かったんだ。全日本の代表になるぐらい(これは事実に一部もとづいいています)。つまり、「活動実績」が認められてたんだよね」
「うちの高校は、謎部の存在はいくらでも許されるのだが、一定数の部員がいないと、またいたとしてもそれなりの実績がないと、生徒会が予算を回してくれないし、部室も与えられないことになっている。ラクロスだと、われわれだけでは関東大会の予選も越えられない」と、おやかた様(部長)で新3年生になる予定のミロクは、肩と両手を上げて、アメリカ人風の「お手上げ」ポーズをした。
「ということで、3人の新入部員と、部活としてなにか、生徒会に認められそうなことを考えて、新部名といっしょに申請しないといけないんだ」と、おれは説明した。
末席にいたエタり人(異世界人ですけど)で武人であるワタルは、おもむろに立ち上がるとホワイトボードの前に行き、筆記用具を取り上げようとして、あ、あ、あれ、と、困った顔をした。
「あー、まだ完全にエタってないから、自分たちリアル世界が手渡ししてやらないといけないのか。ほら」と、ミロクは両手に赤と黒の筆記用具を取り、ワタルは赤を選んで、ボードに書きこんだ。
「積」の字に✕。
その下に「績」。
ふん、と、自慢げに鼻で笑いながら自分の席に戻るワタルにおれは殺意を覚えた。
というのは嘘です。
そのくらいのことでそこまで強い感情は持たない。ただちょっとむかむかしただけ。
おれはその部分を消して書き直した。
・活動実績
「具体的には、県大会でチーム準優勝、個人で全国大会出場、ぐらいだと問題ないかな。茶道部だと、一応闘茶ってのがあるけど……こらこらこら、なんかうれしそうな顔するなよ、ワタル。単にお茶の産地を当てるとか、茶ソムリエコンテストみたいなもんでね」
「もし廃部になったらどうなるの?」
「この、茶室もあって居心地のいい部室が使えなくなる」
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