友達にバイトに誘われた俺 そこは『捨てられた村』と今では呼ばれる様な有名な心霊スポットだった

武 頼庵(藤谷 K介)

そこは『捨てられた村』と今では呼ばれる様な有名な心霊スポットだった






 そんなつもりはなかった。そんなはずじゃなかった。


 誰もがそんな事を言ってしまうと思うけど、本当に危険なんだという事を自覚して欲しいんだ。


それが『興味本位なだけ』で行く『心霊スポット巡り』という、少しばかり興味をそそられるワード。


つまりは肝試しの様な悪ふざけなのだけど、残念ながら『楽しい』事ばかりではない。


これからお話しするのは自分が体験した心霊体験だが、決して釣りではない事だけは明言しておく。



そんな言葉から始まったとある掲示板の書き込みを見て、自分が思った感情は『またか……』という一念。


この手の書き込みは確かに読んでいるだけならば特に何も感じないのだ。本当にそこに行ったのか、何をしたのかという信憑性が書き込みの文章しかないのであるのなら尚更で、自分が本当に体験したわけではないのだから現実的になれないのは仕方がない。


 しかし、その文章を読んでいくと、自分が数年前に体験した事と酷似している事が分る。


何県の何処どこで横道にそれ、そこから数キロ山道を走り、その先にある村――だれもいないのですでに村とは言えないが――にて巻き込まれた体験が綴られいる。


それを最初は鼻を鳴らしながら読んでいた俺は、読み終える事には背体中にびっしょりと嫌な汗をかいて、冷たい汗が背中をツツーっと滴り落ちると更に芯から冷え込んでしまいそうになる感覚を受けた。



――この人もしかして……。

 そして現在の状況を書き記されたところを読んで、『間違いない』と確信するに至る。




 これは数年前の出来事で、俺の実体験である。




 時は就職氷河期真っただ中で、俺もそれに漏れず大学3回生の春から活動を始めたのにもかかわらず、ようやく見つけた自分の目指す職の小さな会社に就職内定をもらえたのは、4回生の秋の終わり、いや正確には12月に入って赤や緑の飾りが目立ち始めた頃だったから、冬の始まりの時期だったかもしれない。


 通う大学はお世辞にも世間的に高ランクというわけではないが、自分の適性に合わせて選んだ学校なので、それなりに満足はしていた。


 実際に成績もそこそこ上位に入る位には良く、周囲からも『学校には珍しいタイプのやつ』、『真面目過ぎて付き合えない』などなど、あまり人付き合いという点でいい評価は得られていないが、そんな俺でも好きで付き合ってくれる人達も有難いことに少しではなくいる。


「なぁいつきぃ……」

「なんだよ……」

 俺と同じようにコタツに貼りながらだるそうに話すのが大学内で唯一親友と言ってもいい片桐誠二かたぎりせいじで、こいつは早々に中規模な会社に就職内定をもらい、残りのキャンパスライフを謳歌している。所謂自称勝ち組というやつで、普段はこんな感じで俺の部屋に入り浸っているけど、実は会社社長の令嬢とお付き合いしているという彼女持ち。


 それなのにあまりその彼女とは出掛ける事はしないで、暇が出来るとすぐに俺の所に来て一日中だらけている事が多い。


「ちょっとさぁ……頼まれたことが有るんだけど……」

「ん? 誰に?」

「先輩っつうか……親戚っつうか……」

「なんだよ歯切れが悪いな」

「うぅ~ん……」

 俺に話をしたけどどうしようか迷っている様子の誠二。


「バイトっつう体なんだけどな……」

「なんだよ体って……。バイトじゃねぇのか?」

「金は出してくれるっていうんだけどよ。その内容がなぁ……」

「そのバイトがどうかしたのか? あ、いや、わかったぞ。俺に変わってくれっていうんだな?」

「違う違う。そうじゃねぇんだよ」

 もちろんバイト自体は自分がやると手を振る誠二。然しそれならば何故そこまで何かに悩む必要があるのか俺には分からないでいた。


「その場所っていうのがな。ちょっと離れた山の中に有るんだわ」

「ん? どういうことだ?」

「実はな――」

 そういうと、一口だけもう冷めてしまっている置きっぱなしのコーヒーを口に含み、静かに話し始めた。



 そのバイトの内容というのが、同じ大学に通っていた先輩であり親戚筋の人から持ち込まれたもので、その先輩の祖父にあたる人の家の整理という『片づけ』をする事。

 十数年前まで住んでいたその家に、今は誰も人が住んでおらず、亡くなって財産分与が決まり相続したその親戚の父親が、申請の先輩に譲るから家の中を少し片づけて欲しい、その中にあるモノは御前にやると盛りかけた。


 土地と建物を貰えると喜んだ先輩だったが、その場所が隣の県の山奥にあるというので、一人で行くのも――という事で、誠二に一緒にその家まで行って片づけをしてくれないかと話を盛りかけて来た。


「でだ。その先輩なんだけど、人は増やしていいって言ってるんだよ。多ければ多い方が早く片付くし――てな感じ」

「へぇ~。でも俺が行っていいのか? あとは誰を誘ってるんだよ」

「いや、樹だけだよ」

「は? じゃぁ三人でやるのか?」

「いや、親戚も何人か集めるって言ってたから大丈夫だろ」

「そうかぁ?」

「それにな、ちょうど正月も近いから飯とか酒とか出してくれるらしい。更にバイト代が出るなんてお得だと思わないか?」

「確かにな」

「だろ? 決まりでいいか?」

「うぅ~ん……。まぁ……誠二が誘ってくるなんてなかなか無いからな。いいぞ。手伝ってやるよ」

「よっしゃ!! さすが樹!! 頼りになるぅ!!」

「調子いんだよお前は」

 二人で笑いあいながらも、その後バイトについて煮詰めていく。何処に集合して何時に出発、目的地までの時間やその日の宿泊はどうするのかなど、なかんか盛り上がり楽しい時間になった。



 この先に何が起こるのかなんて、この時の俺は考えてもいなかったのだが――。





 バイトの初日。集合場所へ集ったのは俺と誠二、そして誠二の親戚――みつるさんというらしいが――の同僚で平井さんと桑折こおりさん併せて5人。誠二の親戚が手配してくれたワゴン車に乗り込み、いざ目的地へと皆のテンションもそこそこに走り出した。


 途中で酒や食料などをしこたま仕入れ、気分は普通の飲み会のようだが、これから動く事への思考は一旦どっかに飛んで行ったんじゃないかという程、車内は凄く楽しかった。


 隣県の標識が見え、もうすぐ脇道へと入るというところで空の様子が変わる。雲行きが怪しいという言葉通りにどんよりとした重そうな雲が立ち込め始めた。


 そんな事も気にせず車は走り続け、目的の家がある所に差し掛かった時には周囲は一面の銀世界に変わっていた。


 空からもチラチラと白いものが舞い降りている。


「寒っ!!」

「雪積もってるなんて聞いてないぞ充!!」

「いや俺だって思ってなかったんだから仕方ないだろ!!」

 車から降りて早々に充さん達がもめ始める。


「まぁまぁ……。とりあえず荷物を下ろしましょう。それからどのように片付けていくか相談しましょう」

「お? おう。そうだな」

「あぁ……わりぃ……」

 いがみ合っていても始まらないので、俺はさっさと荷物を持って家の中へと運び込む。するとそんな俺を見た充さん達は、俺に謝罪しながらもてきぱきと動き始めた。俺はほっとしていると背中にバシ!! という音と共に痛みが走る。


「さすが樹だな」

「よせよ」

 誠二がニカッと笑いながら声を掛けて来た。そしてそのまま荷物を家に運んでいく。


――さてどうなる事やら……。

 この先の事を思い、ちょっとだけ不安になった。



キラッ

「ん?」

 家の奥、誰もいないはずの家の中で何かが一瞬だけ瞬いた気がしたが、先に入って行った充さん達が出てきたので、俺も慌てて荷物を取りに車へと戻る。


 

 既にこの時から異変は始まっていた。





「なぁ……」

「はい?」

 最初の出来事があっても、『仕事』として来ている限りはと、皆が指示を出したりしながらも、散らばった荷物などを持ってきた段ボール箱に詰め込んだり、食器棚などのものを同じように詰めたりしながら汗を流していると、足りなくなった段ボール箱を車に取りに戻った桑折さんが手に組み立て前の段ボールを持ちつつ俺に話しかけて来た。


「荷物って……先に全部入れてたよな?」

「荷物? 荷物って俺達が持ってきたモノですか?」

「そうそう。買ってきたやつとか着替えとか……」

「そうです。始まる前に全部家の中に入れたはずですよ。残っていたのは箱にする前の段ボールだけじゃないですかね?」

「そうだよな……」

 桑折さんはアゴに手を乗せつつ「うぅ~ん……」と唸っている。


「まだあったんですか?」

「あった……。というか全然残ってる」

「え?」

 俺も車の中へと行き、車の中を確認すると、桑折さんが言っていた通りに確かに俺達が買ってきたはずの荷物がまだ車の中に有った。


「なんだ……これ」

「な?」

「そうですね……」

 俺の後をついて来た桑折さんも、俺の横に並んでそれらを見ている。


「まぁいいですよ。俺がもう一度運んでおきます」

「そう? じゃあ頼むな」

「はい!!」

 桑折さんが手を上げて家の中へと戻って行った。


「なんだ? どうなってる……」

 着いたばかりの頃に降りだした雪は、既に大きな粒となって降り続き、次第に周囲に積もっていく。

 


 


 陽が落ちて暗くなるとこの日の作業は終わりという事で、キッチンに有った鍋などを借りてこの日の慰労会という名の飲み会が一階の畳部屋で始まった。


 電気もガスも既に通って無いので、暖房用具なども全て持ち込み、なるべく温かくなるようにして、皆が一つの部屋でくつろげるようにした。

 誰もが寝る事など考えてない。夜通しで騒ぐつもりでいるのだけど、俺は明日の事も考えてしっかりと寝る準備は整えている。昔使ったキャンプ用具の寝袋持参で来ていた。実は誠二も俺のアドバイスを聞いてわざわざ新しい寝袋を買ってまで来ていた。


 夜も更け、充さん達も酒が回り声が大きくなってきたころ。


ぎぎ

ぎぎ



「ん?」

小さいながらも物音が聞こえたので、その音がした方へと視線を向ける。しかしそこには何もある訳もなく、ただ少し薄暗くなっているだけ。


 気のせいかと気を取り直して、手元のビール缶を口に添えて液体を流し込む。


のあじゃえdfjp@bじぇ

sdふぉ!! はぱjsdんgjgな


「ん?」

「なんだよ」

 隣の誠二が俺に顔を向ける。


「今、何か声しなかったか?」

「そんなわけないだろ」

「そうだよな。いやそうなんだけど……」


おおgswdgyhdgy!!

dfjdfhp@うpぢg!!


「ほらまた……」

「……今のは俺にも聞こえた……」

「だろ?」

「どこから……?」

 俺はスッと立ち上がる。


「どうした?」

「いえ、何か声が聞こえてきまして……」

「声? そんなはずないだろ。この家には俺たち以外に誰もいないぞ」

「じゃぁ、他の村の方が来たのかもしれないですね。ちょっと見てきます」

「村……人?」

 充さんは何かを言いかけたが、俺は玄関の方へと向かい歩きだし、スッと襖を開けると、先ほどまで聞こえていた言葉が少し大きくなってきた。


――やっぱり誰か来たんだな……。

 そのまま玄関まで進んで、扉にかかった鍵を開ける。


ガラガラガラ


「誰ですか? どなたかいらっしゃいますか?」

 玄関ドアを開けて外に声を掛けれるが返事が無い。

「誰もいないですか?」

 何度か声を掛けるがやはり返事が無いので、そのまま玄関ドアを閉めようとした時――。


「んっ!?」

 俺の隣に気配を感じて視線を向けると、そこには目を吊り上げた老人が俺の手を握ろうと腕を伸ばしている所だった。


「なっ!! だ、誰だ!?」

 驚いて飛びのき、もう一度老人がいた方へと視線を向けると、そこには既に誰の姿も無かった。


「な、何だ今の……」

 そうしてもう一度玄関の外を注意深く伺う。しかしそこには誰もおらず、しんしんと静かに降り続ける雪の白さだけが目に入る。


――どうなってるんだ!?

 俺は急いで玄関ドアを閉じて鍵を閉め、早足のままで皆が居る居間へと戻る。


「どうした?」

「そ、それが……」

「何かあったのか?」

「いや人が居たんだよ!!」

「人が? そんなはずないだろ?」

「確かに居たんだって、聞いただろ? 俺の声を!!」

「声? 樹の? いや、なも聞こえなかったけど……」

「え?」

 慌てている俺を不思議そうな顔で見る誠二と充さん達。


「樹君」

「はい!!」

「この家には……いや、このにはもう誰もいないんだよ。だいぶ前に皆が出ていっていて、最後に残っていたのが爺さんだって聞いてるからね」

「え? そんな……」

俺が愕然と膝をついた。


しかし、終わりでは無かった。



「おい充何でカギ閉めるんだよ。出れなくて焦っただろ!!」

「は?」

 トイレに行っていた平田さんが怒りながら居間へと戻ってきた。


「かけてねぇよ」

「嘘つくなよ!! 出る瞬間に手が見えたんだよ!! お前だろ!?」

「やってねえよ。つか今迄ここに居たんだぜ? 皆が見てる」

 平田さんが俺達を睨むが、俺達はウンウンと頷く。


「……マジかよ……じゃぁ誰だよあれ……」

「知らねぇよ」


どたどた

どたどたどた!!


「お、おい!!」

「今度はなんだよ!!」

「そ、そと……」

「そと? 外って事か?」

 二回へと布団類を取りに向かっていた桑折さんは顔を青ざめさせながら、駆け下りるようにして階段を下りてきて、居間と転がり込んできた。 

 そして外を指差しながら、ガクガクと震えている。


 ただ事ではないと悟った俺達は急いで襖をあけ、外が見える窓辺へ近づいて、温められた室温で湿気が付いている窓を袖でキュッとふき取るとそのまま外を覗いた。


「な、なななな、な……」

 先に除いた悟さんが外を見ながら声にならない音を口から漏らす。



「な、なんだよあれ……」

 俺にくっついてガタガタ震える誠二。


「なっ!?」

 

 窓の外は少し先も霞むくらいの吹雪。しかしその向こう側に、そんな雪など気にしないとばかりに佇む人の群れ。


「村に人は……いないはずだぞ!!」

 そういうが早いか充さんは窓を開けると大声で話しかける。


「俺はここの家の爺さんの孫だ!! 怪しい者じゃない!!」

 しかし向こうからは全く反応が無い。



「なぁ……充君」

「なんだよ誠二!!」

 若干テンパっていて言葉が荒い充さん。


「あの人たち……顔が……見える?」

「は? 顔なんて見えるに……」

 そのま充さんは黙ってしまう。


――確かに顔が……見えない。いや、顔が無い?

 顔のお辺りがほぼ真っ暗でそこに人の姿を見ることが出来ない。



『かえれ』


「え?」

 そんな中で聞こえて来た小さな声。それは俺も充さんも、そして誠二にも聞こえたらしく、その声の方へと視線を向ける。


「っ!!」

「ぎゃぁ!!」

「なっ!?」


 廊下の先、暗く先が見えなくなったその場所に、一人の老人が佇んでいた。


『やらん』

「え?」

『だれにもやらん。このいえもこのむらもだれにも』

「っ!!」

 その言葉が聞こえた瞬間に俺は意識を手放した。




 気が付いた時には、走っている車の中で、チラリと外へ向けると既に夜が明けていた。


「起きたか……」

「あぁ。ここは?」

「もう県境に差し掛かるところだ」

 俺の眼が空いている事に気が付いた誠二が、今の状況を説明してくれる。


 誠二も気が付いた時にはワゴン車の中に居て、そこには俺や充さん、そして平田さんや桑折さんの姿もあり、充さんに声を掛け続けて目を覚まさせ、荷物なども家の中へと入れたままで車を発進させてもらったらしい。


 その後に気が付き始める面々。俺が一番最後だった様だ。そうして俺達はそのまま誠二が話しかけてきた以外に誰も言葉を発する事も無く、俺達が住んでいる街へと戻ってきた。




置いてきたはずの俺達の荷物がしっかりとワゴン車に積んであったという不思議な事もあったが、その事を言及する事を誰一人しなかった。



そして――。


その3か月後に、平田さんは原因不明の病になりこの世を去った。それに続くようにして桑折さんが住んでいるアパートで布団の中凍死しているのが発見される。

 充さんも子供の乗る自転車が凍結した道路で滑り、それを避けた拍子に車道に飛び出してしまい車にはねられ意識不明の重体。


誠二と俺はというと特に何かあったわけではないが、何かあってもおかしくないと、毎日恐怖におびえて暮らす毎日を過ごしている。



 後にその村が開発をするという話に騙されて、皆が出ていきそのまま放置されてしまったという事が分ったが、最期までその開発に反対していたのが、充さんのお爺さん。


――最後に見た、あの老人がたぶん充さんのお爺さんなんだろうな……。


 そうして今では『捨てられた村』として、ある方面では人気のスポット化しているようだ。



もちろんそれは『出る村』としてである。




 最後まで書き込みを読んで、俺はパソコンの電源を落とした。


 ありがたいことに俺には今の所何も変わった事はない。


 ただ、数日前に突然行方不明になった誠二という名の友達がいること以外はだが。




 次は――。

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