知言の追抄(ちげんのついしょう)
天川裕司
知言の追抄(ちげんのついしょう)
「アーク溶接(arc welding)」
熱い…熱い…熱い…熱い…溶ける、溶ける、溶ける、溶ける…。男・女(だんじょ)の四肢(てあし)が無垢に拡がり、明日(あす)を幻見(ゆめみ)てほっそり微笑(わら)う。アークの主(あるじ)はノアの箱舟。山の麓に人を据え置き宙(そら)の宿から枯渇を観ていた。一人(ひと)の精気が純化して行く。紺(あお)い陽気がつかつか来るのを思春の小敗地(アジト)でこっそり待った。男の活気が勝気を呼び付け、女の宿から「凡庸(ふつう)」が仕上がる知性の金卵(たまご)がほっそり小躍(おど)れる。魅惑を欲しがる双(ふた)つの主観(あるじ)が男・女を働き延命(いのち)を言伝(ことづ)て、明日(あす)の勇気へほっそり返れる。内輪(うちわ)の盛りを丈夫に保(も)った。自己(おのれ)の感覚(いしき)に人を観るのは厚い界(かぎり)に自体を侍らす、一女(おんな)の活気へ画期を見て取る異様の自粛の箴言だった。溶接。溶接。溶接。溶接。溶接。溶接。溶接。溶接。…悛(しゅん)に止まない山折りされ行く人の多くは、孤独に返らぬ身重(みおも)の概(おお)さに意味を見付けて改竄して活き、都会に住め得る身重の多くを幻(ゆめ)に見立てて溶接して行き、過去の伽藍(すきま)に自体(おのれ)を睨(ね)め生(ゆ)く明日(あす)の仕種へ奔走して行く。「例え話」に一切気取れぬ女の主観(あるじ)は何処(どこ)でも活き貫(ぬ)き、薬ばかりに用を射止めた淡路の辺りは女に蠢く…。小春(はる)の先から成果(はて)を識(し)れない男の自主(あるじ)は滑稽味(こっけいみ)を知り、男・女の身辺(あたり)に純化を気取れる孤独の進歩が滅法強靭(つよ)い。温(ぬる)い朝日に陽(よう)を射止める一夏(なつ)の翳りが陽日(ようび)を誘(さそ)い、男の哀れは女を殺せる幻(ゆめ)の競歩を応援していた。真白(しろ)い光が陽日(ようび)を連れ添い私欲(よく)を見棄てて男・女を置き去り、葬る両腕(かいな)に至春(ししゅん)を統(たば)ねる淡い賄賂は男性(おとこ)を問うた…。水に浮べる人の心は陽春頃からひっそり棚引き、空の果てまで笑いを木霊す身憶(みおく)の主観(あるじ)を孤高に持ち上げ微動だにせず。男・女の人陰(かげ)から生気が寝起き、束の間から観た孤独の集成(シグマ)が凡(ぼん)へ寄り添い春を幻見(ゆめみ)て、男と女の陽気の相図(あいず)は孤独を馴らしてことんと鳴った。人に纏わる歴史の渦から「畝」を想わす未完(みじゅく)が仕上がり、真白(しろ)い自覚(かくご)に用を射止める孤独の純化は人を追い掛け、厚い白壁(かべ)から自己(おのれ)を労わる無適(むてき)の身欲(よく)には、常に変わらぬ人を想わす本能(ちから)の加減が活き活きして居る。珈琲呑み干し、昼寝をしていた。昼寝をしていた男・女(だんじょ)の姿勢(すがた)は愚行(おろか)な寝相を紅潮させた…。男の腕から女が死に活き、女の腿(もも)から男が活きた。女の腿には柔らが漲り、明日(あす)の明暗(あかり)を器用に仕分ける性(せい)の孤独を満喫している。何を問うのか「価値」が分らず、孤独の主眼(あるじ)に女を纏める要(よう)の目下(ふもと)を真逆(まさか)に見て居た。身軽(かる)寝起きに勇気が仕上がる孤独の八頭(おろち)は多弁を換えて、孤独の小敗地(アジト)は現行(いま)と繋がる旧(むかし)の刹那を遠(とお)に観ていた。
「アーグラ(Agra)」
アブラカタブラ、アブラカタブラ、アブラカタブラ、アブラカタブラ、…結帰(ゆうき)を起して女性(おんな)の王佐は定形(かたち)を成せずに翻(かえ)って行った。一男(おとこ)の孤独を無心に欲しがる無体の一色(いろ)から孤独が湧き出し、厚い白壁(かべ)には一男(おとこ)が染み出す無謀の主観(あるじ)が透って行った。
異国の静寂(しじま)が哀れを観るうち無心の概(おお)くは敵を漏らして、昨日の盛りに発熱(ねつ)を保(も)たせる無用の自主(あるじ)を暗黙(やみ)に伏すのは、昨日の独裁(ドグマ)に宙(そら)を奏でる一男(おとこ)の孤独に見破られ行く。白銀(しろ)い四肢(てあし)が夜半(よわ)に屈(こご)まり分厚(あつ)い白壁(かべ)から未知を解(と)くのは無重に統(たば)ねる男性(おとこ)の豪気で、一女(おんな)の手弱(たおや)に幻(ゆめ)を与(あず)ける夢目(むめ)の相図(あいず)は豪胆から成る、淡い緑日(りょくび)を浸透させ行く旧(むかし)の流儀を改訂させ得た。〝何かの調子〟が〝何か〟に纏わる孤高の連歩(れんぽ)に協歩(きょうほ)を夢見て、真白(しろ)い奥地へ女を追うのは男性(おとこ)の無我への境地であって、執拗(しつこ)い〝奈落〟が一女(おんな)を木霊す「やらしい本能(ちから)」が現代人(ひと)に湧くのは、明日(あす)の延命(いのち)を盲信して生(ゆ)く旧い活気の成果でもある。
俺の孤独を宙(そら)へ幻見(ゆめみ)て、女の孤独は遠くへ降り立ち、女の孤憶(こおく)が微かに問うのは、現代人(ひと)の上気の凄惨だった。過去の静寂(しじま)へ奔走して行く真白(しろ)い純心(こころ)は浮足立ち逝く…。女の選歩(せんぽ)は、孤独から出た千歩であって、一男(おとこ)の淀味(よどみ)を深く吟味(あじ)わう斬新(あらた)な未覚(みかく)を繋いであった。女の残香(かおり)が密かに沸き発(た)つ…。
☆
インド中部、ウッタルプラデシュ州西部の商工業都市。ヤムナ川右岸にあり、タージ・マハルなどインド―イスラム文化の代表建築が多い。人口七十七万(一九八一)。
☆
淡い気楼(きろう)に順を織り成し、未覚に囀る古都への幻(ゆめ)は、俺の独歩を好く好く呈せる桎梏(くろ)い奥義(おく)へとその芽を弛(たゆ)ませ、信じながらに人途(じんと)へ赴く思春(はる)の想起に順応していた。女の過去には履歴を見せない。男の過去には身欲(よく)が佇む。無口な女と無垢の男が現世(このよ)の理想(ゆめ)から結託して行く。俗世の旧さに誰も気付かぬ…。俺も気付かず女も気付かず…。宙(そら)に参るは旧(むかし)に好く観た衛星だった。「気付かぬ」間(あいだ)に過失(それ)を識(し)る。合わぬ男と結託しながら、一つの事始(こと)へと虚しく刃向かう…。誰も彼もに、安住さえ無い。楽園(パラダイス)を観て俗世(このよ)を欲張る…。男の生憶(きおく)は女の陰(かげ)にて生気を費やす。身籠る活気は女の肚から理想に死んだ。分厚(あつ)い白壁(かべ)から「アグラ」を描(か)いた。アグラの主観(あるじ)は何処(どこ)にも居ない。騙す人の正義が幻見(ゆめみ)る。
「アークライト(Richard Arkwright)」
誰の身許(もと)へと走って行くのか、これまで観て来た夢想の集体(シグマ)に女の欠片(はへん)が強靭(つよ)く活き貫(ぬ)き、温厚(あつ)い孤独に白壁(かべ)が建つのを異国の人途(じんと)にほっそり識(し)った。
二十一時十二分。チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、孤高の身重に行水するうち男性(おとこ)の一物(もの)から小種(こだね)が膨らみ始めて、女性(おんな)の苺に密を飛ばせる無根の集成(シグマ)は厚い孤独へ還って入(い)った。二十一時十四分。チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、チック、タック、一幻(ゆめ)の剥離が奇想を知る内〝門前払い〟が先見(さきみ)をしていた。女の目下(ふもと)は落ち葉を観て居る。純白(しろ)い女が勝手を振舞う。旧い女性(おんな)が気儘を透せる…。
律儀な相図(あいず)を一幻(ゆめ)に観るうち麻生の八頭(おろち)がぽんと光って、小僧の〝相図〟は勝手を知らない夢想の限度を想解(そうかい)していた。
女の哀れは実に絶え得ず、男の残骸(むくろ)を上手に無法に帰す儘、漂白(しろ)い気色が流血して生く人山(やま)の八頭(おろち)は改竄され活き、物憂い私事(しごと)の総図(そうず)を壊せる無機の僕(しもべ)に幻滅していた。俺と一男(おとこ)の羽衣(ころも)の裾には一幻(ゆめ)の光が淡く成り立ち、「アークライト」の甲(こう)の光明(あかり)は〝意味〟を告げずに砂塵へ失(き)えた。頂上(てっぺん)から降(ふ)る夜波(よわた)り等にはアークライトの妄想だけ活き、奇概(きがい)を想わす髏(こうべ)の吟味(あじ)には無垢に絶えない〝キッシンジャ〟が居る…。
☆
一七三二―一七九二年。イギリスの発明家・実業家。水力を利用した紡績機械を開発し、産業上の功績により「サー」の称号を授けられた。
☆
孤独、孤独、孤独、孤独、孤独、孤独、孤独、…人間(ひとのあいだ)に温身(ぬくみ)が拡がり、「サー」と言われて温厚味(あつみ)が撓垂(しなだ)れ、夜波(よわた)り上手の神秘(ふしぎ)の仕事は人の力に返って行った。女の背後が滅法淋しく、孤独の殻から空想(おもい)が立ち退き、訳の解らぬ無言の有利が「男」を忍ばせ一女(おんな)を抱いた。
緊(きつ)めの小敗地(アジト)の女の臭味に、女の姿勢(すがた)が肉体(からだ)を失(け)した。行く行く活き尽(き)る坊(ぼん)の上位が貧しい人から活気を奪(と)り上げ、拙い経験(きおく)に歩調を合せる人間(ひと)の行為に活達(かったつ)さえ観た。
一幻(ゆめ)の吟味(あじ)には脚色(いろ)が付かない。水の色には透明だけ在る。空気の重差(おもさ)を何で測ろう。男・女(だんじょ)の区別は感覚(いしき)に問いつつ、旧来独白(むかしがたり)の憎い自主(あるじ)に怨念ばかりを執拗(しつこ)く乞うた…。女の始動(うごき)に残念さえ発(た)つ。桎梏(くろ)い疎らに人の生活。無法の自主(あるじ)は今日(きょう)に目覚める。
知言の追抄(ちげんのついしょう) 天川裕司 @tenkawayuji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます