19章 燃え尽きる支配の象徴

 

 女性たちは、ブラレスレイブンの裏切りと軍のサボタージュによって、王宮への侵入を容易に成功させた。静まり返った廊下を進む中、女性たちの足音だけが冷たい石の壁に響き渡り、その音が重みを帯びた決意と緊張感を如実に物語っていた。足を踏み出すごとに、彼女たちの視線は鋭く、心には高揚感と恐怖が入り混じっていた。


 一方、高官の寝室では、副官のソフィアが高官に寄り添いながら、その様子を冷静に観察していた。微かに揺れるカーテン越しに、王宮の庭園から明かりが差し込む。その柔らかな光が彼女の横顔を照らし出し、端正な顔立ちがより際立った。高官はその美しさに一瞬見惚れながらも、どこかそわそわと落ち着かない様子だった。


「外が騒がしいようだが……何が起きている?」

 高官は重たそうな口調で呟いた。


 ソフィアは微笑みを浮かべながら、何気なくその言葉を受け流した。

「どうかお気になさらず。王宮は常に活気に溢れていますから、きっと些細なことですわ。」


 その言葉に、高官は納得しきれない様子で窓の外を見やると、体を起こして立ち上がろうとした。


「確認してみるか――」


 その瞬間、ソフィアはそっと手を伸ばし、高官の手首を軽く引いた。その仕草は極めて自然でありながら、確かな力を秘めていた。


「どうか、ここにいてくださいませ。外のことなど、この時間には相応しくありませんわ。」

 彼女の声は柔らかく、どこか甘さを含んでいた。その一方で、その瞳には冷たく鋭い光が宿り、彼女の内心がそのまま現れているようだった。


 高官は一瞬驚いたように彼女を見つめたが、すぐにその誘いに応じて再び椅子に腰を下ろした。


「君の言うことは、どうも説得力があるな。」


 ソフィアは静かに微笑みを浮かべたまま、高官のグラスに再びワインを注いだ。その指先の動きは滑らかで、どこかしら優雅さすら感じさせたが、その内心では冷徹な計算が巡らされていた。


「そうですわ。せっかくの贅沢なひととき、外の喧騒に邪魔をさせるわけにはいきません。」

 彼女はグラスを高官の前に差し出しながら、言葉を続けた。

「どうぞ、もう少しゆっくりお楽しみください。」


 高官は再び彼女の言葉に頷き、グラスに口をつけた。その顔には完全にリラックスした表情が浮かび、彼自身が思いもよらぬ危険の中にいることに気づく様子は一切なかった。


 ソフィアはその様子を見届けながら、冷静に心の中で計算を続けていた。外の状況がどのように進展しているかを知る術はなかったが、少なくとも今、この部屋の中で高官を足止めする役割を果たしているという事実に確かな手応えを感じていた。


 薄暗い寝室に漂う重い空気の中、ソフィアはほんの一瞬、揺れるカーテン越しに差し込む光を見つめた。その目には冷たく鋭い光が宿り、使命を遂行するための確固たる覚悟が浮かび上がっていた。



 女性たちの足音が響く廊下の奥や部屋の中では、貴族や聖職者の女性たちが怯えた表情で隠れていた。その光景は異様で、豪華なドレスの裾を掴みながら狭い隙間に身を潜める姿や、震える手で扉を押さえる姿が見られた。


「私たちのブラジャーが奪われるのではないか?」


「彼女たちがここまで来るなんて…」


 彼女たちの中には、自分の装飾されたブラジャーに怯えた視線を送りながら、必死にそれを守ろうとする者もいた。その緊迫感が、囁き声として漏れ広がっていた。


 その時、王女シャルロットが凛とした声を張り上げた。


「私たちは抵抗しない者を害しません。安全は保障します。ただし、敵対する者には覚悟をしてもらいます。」


 その言葉に一部の女性たちは恐れを増し、また一部はその毅然とした態度に驚きを感じていた。彼女たちの中には、王女の言葉に耳を傾け、怯えながらもその場を離れる者が続出した。彼女たちが去った後には、女性たちが抱えていた香水や宝石箱が散乱し、あたりには静けさと緊張感だけが漂っていた。



 庭園に進んだ女性たちは、倉庫から「咲き誇る乙女」を発見し、それを広場に運び出した。その動きは緊張感に包まれていたが、一方で高揚感も伴っていた。


 エリスはその装置を見つめながら、自分が過去に目撃した恐怖の光景が脳裏をよぎった。広場で無理やりその装置に押し付けられ、屈辱に震える女性たちの姿。その涙と絶望の叫びが、今も耳に焼き付いている。


「これが私たちを屈辱と恐怖で支配した象徴!」


 怒りを抑えきれずに叫んだエリスの声は、女性たちの心に燃え上がる炎を映し出していた。


「これが私たちを屈辱と恐怖で支配した象徴!」


 その声に女性たちも次々と怒りをあらわにし、装置を囲むように集まった。誰もがその装置に対して、自身の受けた苦しみと屈辱を投影していた。


 レイナが一歩前に進み出て言った。


「この忌まわしい存在を燃やすことで、私たちの自由を取り戻そう。」


 女性たちは一致団結し、装置を引き倒した。その後、木製部分に火をつけると、炎が勢いよく燃え上がった。炎の中、装置が崩れ落ちる様子を見つめながら、彼女たちは自分たちの手で過去を葬る瞬間を実感していた。


 燃え上がる炎を背景に、エリスは声を張り上げた。


「これが私たちの尊厳の回復だ!」


 その声に応じるように、女性たちの歓声が広場に響き渡った。その歓声は怒りと喜び、そして未来への希望が混ざり合った複雑な音色を持っていた。


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