第1章 新たな任務
王宮内の『美女の間』は、その名にふさわしい豪奢と気品を漂わせていた。高い天井には繊細な装飾が施され、柔らかな光が黄金のシャンデリアから降り注いでいる。壁には、美しい裸婦画が並び、その間に配置された裸婦像が女性の乳房の美しさをたたえるように立っていた。
これらの作品は、すべてが女性の美しさと神秘を称賛するものであり、この空間に特別な名前が与えられた由来となっている。大理石の床は磨き上げられ、訪れる者たちの足音を冷ややかに反響させた。
この国は、王を頂点とする絶対王政国家であった。
王の意志は、そのまま国家の方針とされ、
宰相や聖職者、親衛隊は、その権力を支えるために配置された存在である。
美女の間は、その絶対王政の中枢であり、美と権力が結びつく象徴的な空間でもあった。
宰相マルグリットは、その美貌と知性を誇るかのように豪華な椅子に腰を下ろしていた。
ダークブラウンの髪は整えられ、冷たく鋭い灰色の目が印象的だ。白い肌は屋内中心の生活を反映し、高価な衣装が彼女の豊かな胸を巧みに強調している。
その胸は重厚感があり、威厳と存在感を象徴していた。美しい輪郭と冷徹な目元が、彼女の知性と威厳をさらに際立たせている。
彼女の隣には、大司教ベアトリスが冷ややかな笑みを浮かべて控えている。黒髪は地中海的な特徴を感じさせ、暗い茶色の瞳には冷静さと計算高さが漂っていた。オリーブ肌の上品な輝きと、BからCカップほどと思われる胸は控えめながら整った形をしており、宗教的な威厳と見事に調和している。
端正で整った顔立ちは感情をあまり表に出さず、穏やかで静かな表情が特徴だ。その冷静な美しさは、見る者に深い印象を与えた。
「来ましたね。」
マルグリットが柔らかく口を開いた。扉の向こうから現れたのは、親衛隊の隊長レイナだった。
レイナは凛とした表情で部屋に足を踏み入れた。黒髪は戦士らしい清潔さを保ち、深い茶色の目には鋭い知性が宿っていた。
健康的な肌色と引き締まった身体が、彼女の野外訓練の成果を物語る。胸は小さめだが、しなやかで美しいラインを描き、女性らしさと凛々しさが調和していた。
小顔で引き締まった輪郭を持つその顔立ちは、均整が取れた美しさに加え、凛とした雰囲気と知的な魅力を感じさせた。
「お呼びいただき光栄です。」
レイナは深々と一礼した。
マルグリットは微笑みを浮かべながら、手を軽く振り椅子を勧めた。
「まあ、親衛隊の隊長ともあろう方にわざわざ来ていただけるなんて。どうぞお座りください。」
レイナが席に着くと、マルグリットは口元にわずかな笑みを浮かべた。
「さて、隊長殿。最近は平和な日々が続いておりますね。おかげで親衛隊の役割も少しずつ薄れてきたように感じます。」
「平和が続くのは良いことです。」
レイナは冷静に答えた。
「私たちの存在意義が薄れることがあっても、それが民の幸福につながるならば本望です。」
「ええ、全くその通りです。」
マルグリットは頷いた。
「ですが、優秀なあなた方には、もっと適した任務があると考えております。」
その言葉に、レイナの表情がわずかに引き締まった。
「新たな任務、ですか?」
「そうです。」
マルグリットはゆっくりと頷いた。
「その前に、大司教ベアトリス殿から少しお話があります。」
ベアトリスが静かに口を開いた。
「神が創造された女性の『胸』は、貴族と聖職者によって正しく管理されるべきだと考えられています。」
彼女は静かに、しかし確信に満ちた口調で語り、レイナの表情を観察するように視線を向けた。
マルグリットは冷ややかな微笑を浮かべながら、ベアトリスの言葉に頷いた。その仕草には、まるでそれが当然の理だと言わんばかりの余裕が漂っていた。
その場に立っていたレイナは、無表情を保ちながら、その考え方について頭の中で整理していた。心の中で静かに呟く。
(これがいわゆる『乳権神授説』……。神が創造された胸の扱いを高貴な者たちが定めることで、社会の秩序を維持しようとする考え方ね。)
しかし、彼女はその内心を悟られないようにし、即座に冷静な口調で答えた。
「神が創られた女性の『胸』について、高貴な方々が正しい在り方と扱い方を庶民に啓蒙すること――それこそが、この社会の秩序を保つために必要不可欠なことだと考えております。」
その答えに、ベアトリスは満足げに頷き、マルグリットはわずかに目を細めた。その視線には、レイナの応答を吟味するような鋭さがあったが、口元にはほのかな満足の笑みが浮かんでいた。
「その通り。」
ベアトリスは微笑を浮かべた。
「庶民がその未熟な認識から解放されるために、神聖なる女性の『胸』の正しい在り方と扱い方を私たちが教え導くことが重要なのです。
本来、美しいものは隠されるために存在するのではありません。それを歪んだ布で覆い、私的な欲望の対象へと矮小化することこそ、神の創造に対する冒涜なのです。」
「そのために新たな政策を展開しようとしています。」
マルグリットが言葉を引き継いだ。
「『服装監督局(Dress Oversight Bureau)』の実働部隊、『ブラジャー鎮圧部隊 ブラジャー・サプレッション・スクワッド(The Brassiere Suppression Squad)』の隊長として、あなたを任命することがその第一歩です。」
レイナはしばらくの間、無言で考え込んだ。
「『ブラジャー鎮圧部隊』とは、具体的にどのような任務を想定しているのでしょうか」
宰相は、ためらいなく答えた。
「そのままの意味です」
女大司教が静かに言葉を継ぐ。
「忌まわしい布を排除する。それ以上でも、それ以下でもありません。
詳細については、追って通達します」
しばしの沈黙の後、レイナは口を開いた。
「はい、承知いたしました。親衛隊長として培ってきた経験活かし、命じられた役割を、全力で果たします」
その言葉を聞いたマルグリットは、満足げに微笑んだ。
「期待しておりますよ、隊長。」
レイナが退出すると、美女の間に静寂が訪れた。マルグリットとベアトリスは互いに視線を交わし、不敵な笑みを浮かべた。
「これで準備は整いましたね。」
マルグリットが静かに言った。
「ええ。」
ベアトリスは頷いた。
「あとは実行に移すだけです。」
こうして、新たな政策の第一歩が静かに動き出した。それがもたらす波紋は、まだ誰も予測していなかった。
■ 用語解説
・絶対王政(ぜったいおうせい)
王を国家の頂点とし、
政治のすべての権力を王が握る体制。
法律の制定、政治の運営、裁判の最終判断は、いずれも王の権限とされ、王の意思そのものが国家の方針となる。
16〜18世紀のヨーロッパ、とくにフランスで確立した政治体制。
ブルボン朝のもとで王権が強化され、
王権神授説によって正当化された。
フランス革命は、この絶対王政体制を否定し、崩壊させた出来事である。
・乳権神授説(にゅうけんしんじゅせつ)
対応する歴史的概念
王権神授説
王の権力は人々の合意によるものではなく、
神から直接授けられたものであるとする思想。
16〜18世紀のヨーロッパ、とくにフランスの絶対王政を支えた。
乳権神授説は、
この王権神授説の構造をもとに、
統治の対象を「国家」から「女性の身体」へと移した思想であると位置づけられる。
・宰相マルグリット
対応する歴史上の人物
カーディナル・リシュリュー
生没年:1585年〜1642年
国:フランス
時代:ブルボン朝(ルイ13世治世)
区分:フランス革命以前の人物
フランス絶対王政を強化した宰相。
王権の集中を進め、貴族勢力や反対派を抑え、
国内秩序の維持と国家権力の強化を図った。
・大司教ベアトリス
対応する歴史上の人物
ヨハン・テッツェル
生没年:1465年ごろ〜1519年
国:神聖ローマ帝国
時代:宗教改革前夜
区分:フランス革命以前の人物
免罪符の販売を推進したカトリック教会の聖職者。
宗教的権威を用いて金銭や服従を正当化した行為は、
のちのルターによる宗教改革の直接的な原因となった。
シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴール
生没年:1754年〜1838年
国:フランス
時代:フランス革命期〜ナポレオン時代
カトリックの司教でありながら革命を支持し、
王政・革命政府・ナポレオン政権と体制が変わっても
政治の中枢にとどまり続けた人物。
・親衛隊長レイナ
対応する歴史上の人物・作品
ラファイエット
生没年:1757年〜1834年
国:フランス
時代:フランス革命期
貴族出身の軍人。
アメリカ独立戦争にも参加し、
フランス革命では立憲君主制を支持した。
王権と民衆の間で調停的な立場を取ったが、
急進的革命の流れの中で影響力を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます