発熱時に見た夢
憑弥山イタク
発熱時に見た夢(実話)
気付けば私は、知らない部屋に居た。部屋の中は寒く、冷える私の四肢は痛みを訴える。そんな痛みを味わいつつも、構わず私は部屋を眺めた。
今になって思えば、あの部屋は酷く不気味だった。座敷のような部屋の中に家具は無く、唯一あるのは背の低い机だけ。そして何より不気味なのは、部屋の壁。壁と、さらには襖にまで、コンセントが付いていたのだ。
不気味な室内で、私は寒さと痛みを抱きながら、何故だか机の上を見た。机の上には小さな箱があった。しかしその箱が、紙なのか、或いは木箱なのかは覚えていない。
「開けたら?」
部屋の中に、私以外の誰もいないはずなのに、何者かの声が私に促した。どうやら机に置かれた箱は、開閉の機構が備わっているらしい。
何者かの声に従うように、私は箱に手を伸ばし、恐る恐る掴む。そしてさながら、結婚指輪でも披露するかのように、ゆっくりと箱を開けた。
「開けてしまったか」
また、何者かが私に言った。しかしその声に興味を示すことなく、私は開いた箱の中を見る。
箱の中には、何も無かった。否、それどころか、それは箱ですらなかった。
開閉機構はあるはずなのに、開いてみても、その立方体の中には一切の空洞が無かった。ただ単純に、直方体の物体と直方体の物体を重ね合わせて、立方体を作っていただけなのだ。中身どころか、何かを入れる隙間さえ無い、ただの立体だった。
その時である。
「お前、もう死ぬぞ」
何者かが私にそう言った。すると刹那、部屋中に点在するコンセントから、黒味を帯びた血が溢れ出した。ゴポゴポと、パイプを流れる泥のような音を立てながら、床と視界を赤黒く染めていく。
その血は死骸のように腥く、私は思わず
「▒▒▒▒▒▒▒」
また何者かが、私に何かを言った。しかし何を言ったのかは聞き取れなかった。否、もう覚えていない、という方が正しい。
「死ぬぞ」
2度目に、死ねぞ、と言われた時に、ようやく私は気がついた。
夢の中の私を、私自身が見ていたのだ。私自身の一人称視点ではなく、私ではない三人称視点として、箱を手に取った私を見ていたのだ。
そしてもう1つ、気づいたことがある。
私に対して言葉をかけていたのは、私を見つめる私自身だったのだ。
私は私に、死ぬぞ、と言っていたのだ。
スマートフォンの着信音で目を覚ました後、私は夢の内容を思い出していた。普段から夢はよく見る人間であるからか、夢の内容はある程度覚えている。
夢に何かの意味があるのならば、あの血は、あの箱は、そして私の見つめる私は、どのような意味があったのだろうか。
今となっては、もうどうでもいいのだが───。
発熱時に見た夢 憑弥山イタク @Itaku_Tsukimiyama
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