大崎真美

 あの日の夜もこんなに寒かったよね。


 私まーたんのこと大好きだよ、こんなに愛した人はあなた以外には居ないから。




 この世の人間って腐っている。


 私は人間が嫌いだ。


 もっとくわしく言えば、人間はやみの部分を誰しも持っていて、私が嫌いなのはその闇の部分。


 それはおぞましく、すご下品げひんでとてもきたない。


 私はうつを持っている。


 それが始まると、なにもかもどうでも良くなってくる、考えることさえおっくうになって来て、それなのに何か考えている。


 もう嫌だ、お願いやめて。


 大崎真美おおさきまみ31歳、世の中すべてを冷めた目でながめてしまうくせを持っている。


 私の不幸はこの家族の元に生まれたことだ。


 家族の誰とも相性あいしょうが合わないなんて最低さいていでしょ。


 家に私の居場所いばしょなんてどこにもなかった。


 子供の頃の私は、いつもヘッドフォンで耳をふさぎ、図書館で借りてきた本で目をふさいでいた。


 何も聞きたく無いし、何も見たく無いから。


 音楽を聴くのは好きだし、本を読むのも大好き、この二つの物に私はどれだけすくわれたか分からない。


 そして大人になり家を出ていく私、子供の頃からその光景こうけいをどれ程待ほどまび、どれ程憧ほどあこれたことか。


 今となってはどうでも良いコトだと思えてしまう、人はいつかは忘れる生き物だから。


 それでも若い頃の私はまだ希望きぼうに燃えている時期もあった、真っ直ぐな私……ふふふ、可愛いい。


 人一倍ひといちばい 正義感せいぎかんが強く、人一倍ひといちばい 責任感せきにんかんが強い私は介護かいごの仕事にくことになった。


 私はこの介護かいごの仕事を天職てんしょくだと思ったわ。


 こんなにやり甲斐がいのある仕事、私は大好きだった。


 お世話せわをすればしただけ、笑顔と言うお礼で返ってくる、人間ってこんなに素敵な笑顔ができるのね。


 しかし介護の仕事って物凄ものすご激務げきむなの。


 それなのにどこの施設しせつも手が足りてないのよ、こんな汚くてつかれる仕事、成り手が居ないのね。


 そうなると結局けっきょくその付けがどこに回って来るかと言うと、現職げんしょく頑張がんばって居る私たちで不条理ふじょうりなこときわまりないわ。


 身も心もボロボロになって、まず身体からだがやられてしまい、心がやられたわ。


 心がやられちゃったらもうおしまい、続けることは出来ないわね……私にとって天職てんしょくだったんだけどな。


 そのあと私も恋に落ちて、ある人を好きになり、その人に着いてしまへと行ったわ。


 その島での生活ってのが、自給自足じきゅうじそくで何でもそろってた今までの暮らしを思うと、私何でこんなとこへ来ちゃったんだろうって後悔こうかうしたけど、もう遅いわよね。


 まあ、その生活もキツイっちゃキツイけど、元々私って自然が大好きだからえられた。


 しかしね何だろう、男ってねバカな生き物よ。


 何人も居る訳じゃないのよ、居ても数人弱すうにんじゃく


 そのたった数人弱しか居ないのに、順番じゅんばんをつけ出すのよ、バカだと思わない。


 勿論もちろん 最下層さいかそうは力の弱い女の私。


 私悔わたしくやしくて、男に生まれたら良かったのにって。


 そして最下層の私は精神的せいしんてき支配しはいされて行くの。


 あの時の私は、おかしくなっていたんだと思うわ。


 それからのコトはあんまりおぼえてない、と言うか思い出したくないわ。


 そして命からがら何とか島を抜け出して、地元に帰って来たのだけど、実家には帰りたくないし。


 仕事だって出来ない身体になっちゃって、私どうなるんだろうって思ったら怖くなって来ちゃって。


 ごめんねちょっと泣いちゃった。


 それから私どうしようって真剣しんけんに考えて、そしたらね、私日本人なんだってことに気付いたんだ。


 日本には生活保護せいかつほごって言う素晴すばららしい制度せいどがあるのよ、私 介護の仕事してたから知ってたの。


 私はすぐに役所やくしょんで、早急そうきゅうにどうにかなりませんか?ってたのんだわ。


 こんな時 都会とかいならすぐ処理しょりしてくれたんだろうけど、流石さすが田舎いなかね。


 私 生活保護 もらわないと生きて行けないんだよ、それなのにまるで犯罪者はんざいしゃかなんか見たいなあつかいされて、決定けっていするまでしばらくかかったわ。


 そんなこんなでやっと保護が下りて、住むところも見つかって、やっと安住あんじゅうを見つけるコトが出来ました。


 それからやっと安住の地を見つけたってのに、私ってそう言う星の下に生まれたのかしらね、今度は長い長いうつがはじまっちゃった。


 でも人間ってあさましい生き物ね。


 男には散々懲さんざんこりたのに、男性恐怖症だんせいきょうふしょうにまでなったんだよ私。


 ずっと独りだったからなのかな、今の環境かんきょうが寂しいって思って来ちゃった。


 私が長いコト精神せいしんの世界でまよっていた時に、思ったコトがあってね、愛って何だろうって。


 世の中を下斜したななめ45から見てた私でも、知りたい、本当にその様なものがあるなられてみたいと。


 どうやったらそんな愛を持った男の人と、出逢えるのかななんて考えるようになっちゃった。


 でもこれは私にとっての進化しんかなんだって思う。


 今まで怖いものから逃げ出したり、かくれたり、かくインに入ってた心が外に出たがってる。


 これってきっと良い兆候ちょうこうだよね。


 ネット検索けんさくで調べてみた。


 出逢いならピュアーズ、女性無料マッチングアプリ。


 はっ、これだ。


 マッチングアプリってなんだ?


 出逢い系サイト見たいなものかしら?


 無料でお金が掛からないのなら、やってみよう。


 なるほどね、お互いが良いと思い初めてマッチングして相手の情報が見れるんだ、へえー。


 なんか面白そうじゃない、嫌なら別に良いね👍を付けないとマッチングしないんじゃ安心だし。


 真美はしばらくアプリを見ていて1人の投稿とうこうプロフに目を止めた。



 県外からです、いま仕事で来て居ますがコッチに ほとんど知り合いが居なくて毎日 寂しくて仕方ありません、どうか宜しくお願い致します。 m( _ _ )m



 ふふふ、この人ホントに寂しいんだ、クスッ。


 このせっぱ詰まった感じがとても印象に残るな。


 一応他の人のも見てみよう。


 後悔こうかうした、何なんだろう、欲望よくぼうちて居ると言う感じだろうか。


 真美は男性のそういった欲望とか言うものを、文章やふとしたコトから敏感びんかんに感じとるようになっていた。


 うわ、キモイ、ダメだこれ以上。


 私、身体なんか変になってる、文章だけなのにそれさえ受けつけなくなってるわ。


 せっかく前向きになれたのに、無駄足むだあしだったかも。


 ヤダ、もう2度と見ない。


 しかし、一番はじめに見た人のにはそのような感じは受けなかっと思い、その人のプロフだけもう一度見てみることにした。


 う〜ん、この人のプロフからはエッチな所は感じ取れない。


 この人なら大丈夫そう。


 よし、冒険ぼうけんしてみようか?


 この人なら私の状態じょうたい理解りかいして協力きょうりょくしてくれそうな気がする。


 ピュアーズにプロフィールを登録とうろくした。


 名前はいつも真美が使っている、ロンロンラー。


 そして、さっきの人のプロフのところで良いね👍をタップ、送信。


 なんか確証がある訳ではない。


 しかし、何かが変わる、何かを変える、そんな予感のようなものが真美の心の中に芽生めばえていた。


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