男女の間に友情は……俺はない!私はある!

ちゃんマー

山中政春

 それはあの日と同じ寒い夜でした。


 真美、俺はまだ気持ちを残したまま、君のことを忘れることが出来ないでいるよ。




「あー、彼女欲しいなあ」


 ◯◯県にある地方都市ちほうとし、3ヶ月前に仕事で来たのだけれど政春まさはるはなかなか環境かんきょう馴染なじめないでいた。


「なんで彼女出来ないのかな、やっぱ地元じゃねえし知り合いも少ねえし、さみしいなあ」


 山中政春やまなかまさはる39歳、この歳まで独り身で居るのには理由わけがある。


 実は元 指定暴力団していぼうりょくだん在籍ざいせきしており、脱退後だったいご服役ふくえきして3ヶ月前に仮釈放かりしゃくほう刑務所けいむしょ出所しゅっしょしたばかりと言う経歴けいれきの持ち主。


 一般人からは少し冷やかな目で見られてしまう。


 そのためかいつも人目を気にしてしまい、自分に中々なかなか 自信じしんを持てないでいる。


 出所後しゅっしょご元兄貴分もとあにきぶん身元引受人みもとひきうけにんになり、今現在その元兄貴分が経営けいえいする建築会社けんちくかいしゃで働いている。


 カタギのとうな仕事、そのような事をするのは初めてで、政春は今 現実社会げんじつせかい洗礼せんれいを受けている。

 

「明日も仕事たるいなあ、とりあえず彼女でもいれば生活に張り合いが持てるのかなあ……てか、エッチしてえ」


 二年半の懲役生活ちょうえきせいかつを終え、3ヶ月前に仮出所して来た政春はまだ女性の身体にれていない。

 

「ふふふ、今コンビニで課金かきんしに来たぜ、ピュアーズよお前の実力を見せてくれ」


 今流行いまはやりりのマッチングアプリ ピュアーズ、政春は建築現場けんちくげんば休憩所きゅうけいじょでこのアプリのうわさを聴いた。


 出所して久しぶりに持ったスマホに四苦八苦しくはくしながら、アプリのダウンロードはませてある。


「準備OKだ、アプリ起動、ん、プロフィール登録?なんて入れようか」


 県外からです、いま仕事で来て居ますがコッチに ほとんど知り合いが居なくて毎日 寂しくて仕方ありません、どうか宜しくお願い致します。 m( _ _ )m


「う〜む、まあこんなもんか、よし登録」


 しばらく放置ほうち (2分くらい) して見る、放置、見るを繰り返してみたがなんの展開てんかいもなく、その日はオナニーで終了した。


 結局けっきょくピュアーズは数日間すうじつかんなんの展開も見せず、政春は失意しついのもとに生活を送った。


 シャバの生活にも慣れて仮釈放の期間中きかんちゅうも何事もなく終了、これで無事社会復帰ぶじしゃかいふっきたすことができた。


 車も買った、少し奮発ふんぱつしてアウディだ。


 刑務所で悶々もんもんとしていた気持ちも、シャバの風邪かぜに吹かれるといつの間にかえていた。


 今までの人生はゴミ箱にポイして、新しい人生の歯車が音を立てて政春の元へとやってくるのだ。


 そんな雰囲気ふんいきつつまれながら、政春は日々を送っていた。


 そうだった、ピュアーズだ。


 なんの展開も見せずに、諦めて放置していたピュアーズのことを思い出した。


 なぜか予感があったので、政春は思い出したのだ。


 スマホを出して確認かくにんしてみる。


「やっぱり着てる、アナタのプロフに良いねが着きました?」


 政春が登録して居るプロフィールを見た誰かが良いね👍を付ける事で政春に通知が行き、その時点で初めて相手の情報を政春は知るコトができる。


 それを政春が見て良いね👍を返すことで、マッチングが成立するのだ。


 そんなシステムがどうのこうのは今要いまいらないから、かく 政春に必要なのはどんな人が政春のことを気に入ってくれたのかに尽きる。


 例えブス、ババアでも良いね👍を返す覚悟かくごでいた政春だが、とりあえず深呼吸しんこきゅうをして落ち着かせた。


 そして数秒間目を閉じる。


 まるでおのれらす行為こういを楽しんでる見たいだ。


 相手の情報じょうほうページはすでに開いて居るのだが、まだ写メの確認は出来ていない。


 なぜならば政春が目を閉じて居るからだ。


 ピュアーズにはサクラがあまり居ないと言う噂がある、それは先に課金をいるからだ。


 政春は先に五千円ほど支払っている。


 タダではないのだ、政春には己を焦らせてみたり、深呼吸で一旦間合いを切ってみたりと、色々と楽しむ権利けんりがあるのだ。


 そして見た。


「おっしゃ、ブスでもババアでもない」


 見た瞬間、パチスロジャグラーのGOGOランプがペカった時に鳴る音が頭の中で反響はんきょうした。


 写真はボヤけ気味でハッキリ分からない、その写真を穴が開くほどながめた結果けっか、確認できたのはブスでもババアでもないと言うコトだけだった。


 ソッコー良いね👍を返してマッチング成立せいりつ


 写真をボヤけさせてハッキリ分からないようにすると言う、テクニックは持ち合わせて居るみたいだ。


「名前はロンロンラー? 外人? 金髪だし」


 逢おう、いや、逢ってくれるのだろうか?


 向こうはプロフから来てるんだから、逢ってくれない訳はない。


 これが少しでも逢うのを拒んできたり、焦らせてくるようなコトであればサクラの可能性がある。


 それまでは気を抜くな。


 翌日、はやる気持ちを抑えて常識じょうしきある時間にロンロンラーへ連絡を入れた。


 連絡と言っても、勿論もちろんピュアーズアプリ内のメール機能だ。


 その時、俺は用事をおおせつかっていて電車の中だった。


 スマホを眺めること5分少々で返事が返って来た。


「ウッソ、大胆だいたんな!」


 思わず大きな声が出てしまい、電車の乗客から変な顔をされてしまった。


 俺としたコトがこれくらいで動揺どうようしてしまった.


 なんと、きたメールにはテレホンナンバーが書いてあるではないか、なんと大胆な。


 電車内なので直ぐには掛けられないけど、絶対ぜったいかけるので待っていてもらえますか? と返信をかえしてテレホンナンバーをスマホに登録した。


 絶対にかけるので待っていて貰えますかなどと、今思えばかなり動揺していたようだ。


 駅に着いて落ち着いた場所を探し、連絡した。


「もしもし」


「もしもし、こんにちは」


「こんちは、あの今日とか逢ったり出来ますか?」


 俺のバカめ、焦りやがって。


「今からですか?」


「いや今は用事で県外に来てるので、帰ってからだから夕方くらいになるんですけど」


「はい」


「ん? えっ、良いの?」


「はい」


「あ、じゃ、夕方くらいにまた掛けるね、あ、待って、名前は? ロンロンラーて」


「真美です」


「真美ちゃんね、俺 政春、山中政春です」


「後でね」


「うん、わかった」


 ふう〜、どうやら真美ちゃんと今日出来るかも。


 逢ってもないのに、もうセックスのことを考えている、俺がどれ程 有頂天うちょうてんになっていたかお分かりいただけただろうか。


 しかし、声は可愛かった。


 あのボンヤリ写真ではフェイスの確認がまだであるし、一番大切な部分をこんな形でおざなりにしても良いのだろうか。


 けだな……


 ここまで来て後戻あともどりするなど考えられまい。


 一か八か顔の確認は後回しで行こう。


 そして行けるなら、セックスまで行く。


 あんなピュアーズで出逢おうなんて考えるのだから、きっと真美ちゃんだってそう思ってるに違いない。


 この時の俺の考えでは、そう思っていたら良いな→そう思ってるのかな→そう思ってる→そう思ってるに違いない、となるのです。


 ものすごく勘違い。


 きっと幸せだったのでしょうね。


 人間は幸せであれば幸せであるほど、勘違かんちがいしてしまう生き物らしいのです。


 もう用事どころでは無くなった俺は、何をどうやったのかその時の記憶がありません。


 そして夕方。


 はじめ掛けたら電話に出ない。


 俺は狂ったように鬼電おにでんしていた。


「真美ちゃん、どしたの、ちょい遅くなったけど7時に駅の改札口前で大丈夫?」


「ごめん、ちょっと寝てた」


「え? 来れないの? ねえ、来れないの?」


 俺は思わず必死になっていた。


「ああ、大丈夫だよ、行くよ」


「待ってるね、来るまで待ってるね!ね!」


 何度も待ってるを繰り返して、みっともない限りだが、そんな余裕よゆうもなくなっていたのだろう。


 俺は急いで家に帰り、お気に入りの黒いパーカーに着替えた。


 外に出てちょっとビックリした、めっちゃ寒い。


 もうちょっと厚着あつぎをすれば良かったのだがもう遅い、今夜は冷えそうだ。


 そして駅の待合せ場所へと急いだ。


 居た!彼女が居た、真美ちゃんだ。


 ここからだとまだ少し遠いので顔の確認は出来ないが、約束の場所に居るし間違まちがい無いようだ。


 近付いて行って顔をハッキリと確認する。


 どうやら俺は賭けに勝ったようだ。

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