(仮)転生悪役貴族は。

松龍

プロローグ

プロローグ


「お前、荒んでんか?」


「おっさん、誰だよ?」


 交差点で信号待ちをしていた。俺はとにかくイラついていた。そこへ痩せ細ったおっさんにか声をかけられた。誰だよ、こいつ?


「何があったか知らねえ。だが、他人様に迷惑かけちゃいけねえ、ついてこい。飯食わしてやる。」


「なんだよ、おっさん?」


俺は何を思ったのかおっさんについて行った。たどり着いたのは路地裏にある武網レスの皿に奥。でかいソファーにでかいテーブルが置かれた部屋。壁ぎばには天井に届くほどの本棚とドリンクバーが置かれていた。


「飲み物は好きに飲んでいい。食いたいもんはタブレットから注文するといい。」


「本当にいいのか?」


「ああ、構わねえよ。」


 俺はハンバーガーとオムライスを頼み、ジョッキに並々とコーラを注いだ。さっきのおっさんはどこかへ電話しているらしい。


 料理が届けられたと同時におっさんは向かい側のソファーに座った。


「食え。空腹は心の細田斧的だぜ?」


「ああ。いただきます。」


 ありがちなファミレスの飯。だけど、めちゃくちゃ美味かった。


「何があったか知らねえ。だけど、ここでは好きにしてていい。世間様に迷惑かけるよりよっぽどマシだ。」


「はい。あの、ありがとうございます。」


「なに、いいってことよ。お前、名前は?」


「龍斗。王子龍斗。」


「龍斗、俺はここではおっちゃんって呼ばれてる。そういや、お前ら本能か?」


「飲まねえ。」


「そうか。ちょうどいい。これ読んでたな。スマホあんだろ?」


 おっちゃんのスマホの画面にはQRコードが表示されていた、俺はスマホほでそれを読み取り、開いたページを見た。


「最弱探索者の最強冒険譚?」


「ああ。どうせ暇だろ? 読むといい。追加の飯は好きに頼め。」


 そう言って、おっちゃんはどこかへ行ってしまった、


「ははは、これ、面白えな!」


 俺はオットャンから紹介された本にあっという間にハマった。あまりの面白さに、主人公の格好良さに惚れ込んだ。


「ふー。どうだ? その話、面白えだろ?」


「面白え。めちゃくちゃ面白え!」


「そうか。そんなお前なら、こっちも楽しめるかもな? ついてこい。」


 たどり着いた先にはボクシングで見るようなリングが置かれた部屋。リング場では、俺くらいの歳のやつが殴り合いをしていた、これをみた瞬間、俺の中から何かが蠢いたんだ。


「ここは、ファイトクラブ。ペアで殴り合ってたたかうんだ。戦えば金がもらえる。」


拳が当たる鈍い音。流血も気にせず殴り合う。


「どうだ、面白えだろ?」


「ああ、面白え! 面白えよ!」


誰もが勝ちに向かって拳を振り上げる。ただ殴ってなく破られるだけの戦いだわ。やばい、俺も戦いたい!


「おっちゃん、俺も戦ってみてえ。」


思わず口をついて言葉が出てしまった。




⭐︎


ファイトクラブでの戦績は勝った日負けた日の繰り返しだった。だが、戦うことが面白くて夢中になった。それに、戦えば戦うほど強くなれるのも気持ちよかった、


「早く次も戦いてえ!」


「龍斗、ちゃんと怪我を治さねえと、次の試合に出られねえぞ?」


 潰れる拳、傷だらけになる顔、あざだらけの体。どれも俺にとっての勲章だ。


怪我で休みの間は筋トレとラノベを読むだけだ。それだけでも、日頃の憂さは十分に晴れた。それでも、次の試合が待ち遠しくて仕方なかった。


「ああ、早く戦いてえなぁ!」






⭐︎


「龍斗! お前、一体どうなってるんだ!!」


「そうよ。高校の先生からも注意の電話があったわ。」


 夕方。高校から家に帰ってきた。そこには普段いるはずのない両親が待ち構えていた。


「ちっ、担任の野郎。」


両親の怒鳴り声に思わず呟いてしまった。


高校では相変わらずうだつが上がらない。顔を晴らして投稿してきたり、投稿してきたと思えば寝ていたり、注意されるのは当たり前。だけど、それをの引きとの甘エビのマウ信吉厨がったことが許せなかった。


「お前みたいな落ちこぼれが、せめて勉強ぐらいできなくてどうする! そんなんで、将来独り立ちができるのか!」


「そうよ、龍くん、お父さんさんの言う通りよ。」


両親が言いたいことなんてとうの昔からわかってる。いやと言えほど理解してる。だけどダメなんだ。俺には勉強ができないんだ。


「おい! どこへ行く!!」


「龍くん、座りなさい!」


俺は両親の言葉を無視して部屋に引き篭もった。




⭐︎


ファイトクラブでは相変わらず勝ったり負けたりの俺。それでも、ここは俺がようやくたどり着いた居場所だ。


「ほれ、龍斗。今月のファイトマネーだ。」


「ありがとう、おっちゃん。」


 ここでのもう一つの最高は金だ。勝てば高校生ではなかなかモテない金額がもらえる。まともに働くよりよほどいい金額だ。


「なあ、おっちゃんが教えてくれた小説、面白えな。」


「だろ?」


「他にも面白えのがあんのか?」


「もちろんあるぜ? そこの本棚にも、Webにもな。」


「そうなのか? じゃあ教えてけれよ!」


「いいぜ? これなんかどうだ?」


 俺は読み始めてすぐハマった。なんでおっちゃんが見つけてくるものはどれも面白えんだ?


「はぁ。俺もこんなふうに強うなりてえなぁ。」


 俺は小説を読みながら、ついついそんなことを呟いてしまう。


「強くなりてえのか? もちろん紹介してやるぜ?」


俺は起き上がって、おっちゃんに聞いた。


「あんの!?、教えてくれ!」


俺は強さに憧れを持ち始めていた。今の買ったり負けたりじゃなく、勝てる男になりたかったんだ。


「じゃあ、紹介してやる。もしもし、俺だ。ああ。高校生、一人追加で。よろしく頼む。」


おっちゃんはどこかへ電話した後、俺に地図を二つスマホに送ってきた。


「そこへいけ。話はつけてある。」


「わかった! 行ってくるよ!!」


 俺はファイトクラブを走って出て行った。






⭐︎


ジムと格闘技の道場に通いはじめて半年ほどした頃。


相変わらず両親との折り合いは悪いが、ファイトクラブでは勝ちの方が多くなった。


「勝者、龍斗!」


「押忍!」


ジムでのトレーニングも道場での訓練もかなりきつい。人生でここまで自分の体を追い込んだことなんてなかった。


カバンには胴着とジャージが二種類、それに大量のプロテインバーが当たり前のように入るようになった。なんせ腹がものすごく減る。食事量も目に見えて増えた。


「龍斗、戦ってくれてありがとう。」


「春さん、こちらこそありがとうございました!」


ファイトクラブでは強さが絶対のルールとは言え、先輩後輩の上下関係がめちゃくちゃ厳しかった。だけど、誰もが戦うことに必死で、戦い終われば互いを敬った。


「龍斗、スポンサーからのボーナスだ。」


「やりぃ! うお! 100万も入ってる!?」


「はは。そりゃあ、お前の戦いを見て感動したからだろうな。よかったじゃねえか。」


「おっちゃん、ありがとっす。スポンサーさんにもお礼を伝えてもらえますか?」


「ああ、かならずな。それで、どうだ。ジムも道場も順調か?」


「はい。師範には相変わらず勝てねぇっす。けど、てよくなれる実感はあるっす!」


「そうか。よかったな。」


「これもおっちゃんのおかげっす!」


高校二年になり、ますます強くなった俺。こうして、喜んでくれるおきゃケサンまでついた。



⭐︎


「龍斗、いい加減にしろ! お前は何度言えばわかるんだ!!」


今日は運悪く顔を合わせてしまった。そのせいで我が家の雰囲気は悪い。弟はそれを察知して部屋に戻り、母さんはキッチンへ逃げた。


「何が問題なんだよ? 格闘技やってることか? バイトしてることか? ジム行くことか? 勉強しないことか? どれが問題なんだ?」


「全部だ!! そんなくだらんことする暇があるなら、勉強しろ!!」


「何がくだらねえんだよ。体鍛えりゃげんきになるし、戦えば神経が鍛えられる。バイトすりゃ金が稼げる。よほど豊かじゃねえか?」


「ぐぬぬ! 生意気抜かしよって!!」


この頃の俺は身長が193cmに伸び、体重は90kgほどになっていた。多少親父に殴られようが大した問題じゃない。


「いいか、学生の本文は学ぶことだ! 勉強以外なにもいらん! 勉強だけに集中しろ!!」


「はぁ。言いたいことそれだけ? 百済ね。」


「龍斗!!」


親父のやつ、平手を俺に放ってきやがった。だが、あまりに遅すぎる。しかも腰も入ってねえ。俺は親父の平手を簡単に交わした。そして、そのまま部屋に戻った。


俺は一人、部屋でほくそ笑んでいた。


「なんだよ。親父、全然大したことねえ!」



⭐︎


翌日。学校で変なことが起きた。


「あれ? これ簡単じゃね?」


授業の内容がすぐ理解できるようになっていた。応用問題も簡単に解けるようになっていた。


それは、他の教科でも同じだった。


「なーんだ。勉強にも自信がひてようだったのか。」


ファイトクラブでも同じことが起きた。相手の放つ拳がよく見える。簡単に避けられるだ。なんなら、紙一重でだって避けられた。


格闘技の登場でも同じだった。


俺はこの日をきっかけに学力も強さも手に入れてしまったんだ。



⭐︎


「龍斗、どこへいがだ! 話はまだ終わってないぞ!!」


俺は親父を無視するようになった。育ててもらった恩義は感じてる。だけど、話し合う必要が見つからなかったんだ。


公園でのトレーニングを終えた俺はファイトクラブへ向かっていた。


「今日もちょ絵師いいな。体がばっちり動くぜ!」


 大きな交差点で信号に引っかかった。空は茜色。街は家路を急ぐ人たちや車で溢れていた。スーツ姿の人たちの中、俺と黄色い帽子を被ったおさげの少女だけが、ぽっかりと取り残されたような感じがした。


「ん? 何だ?」


左右の道も前後の道も車の姿がない。なのに前からものすごいエンジン音が聞こえてくる。


「あれはやばいな。」


俺はあたりにいる人たちに向けて腕で右を刺して、大声を張り上げた、


「おい、てめえら! さっさと俺の指さす方へ行け!!」


しかし誰も動かない。前からは明らかに早すぎるトラックの姿が見えた。俺はもう一度声を張り上げる。


「おい!! 聞いてんのか!! 動け!!!」


数人が動き始めるとそれに釣られて周りの人たちも動き始めた。だが、黄色い帽子の少女が取り残されている。


「何やってんだよ!!」


トラックはもう目の前。黄色い帽子の少女は動けずにいる。


「間に合え!!」


俺は何とか少女の方へ飛び込んだ。そして、申し訳ないと思いつつ、少女を突き飛ばした。だが次の瞬間には全身に強い衝撃が駆け巡り、俺の意識は途切れた、



⭐︎


意識が浮かび上がる。僕の記憶と俺の記憶がある変な感じのまま。


目を開く。僕には見慣れた、俺には見慣れない天井、いや、天蓋が目に入った、


「何で生きてるんだ? もしかして病院? いや、僕の部屋のベッド?」


上半身を起こす。見慣れた部屋の記憶とそうじゃない記憶。何じゃこりゃ?


ベッドから降りて姿見の前に立つ。黒髪のまだ可愛らしい少年が目の前に立っている。明らかに王子龍斗ではない。僕の名前、四条院隆景の姿に間違いなさそうだ。


「は? え? どういうことだ? どういうことなんだよ!」


あまりの混乱に俺は気絶してしまったのだった。

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