少女に剣を、少年に魔法を
@orihi_88
男に剣を、女に魔法を
――男に剣を、女に魔法を。
『男性が剣士となり、女性が魔導士となる。現代において当たり前のこの構図は一体どのようにして生まれたのか。所説は様々あるが、本書籍では――』
筆を走らせていると、部屋の扉が勢いよく開けはなたれた。
「ちょっと! サクラさん! どうなってるんですか!?」
学校長秘書のイチョウは息を切らし、声を荒げて問いかける。
「イチョウがノックを忘れるなんて珍しいな。何かあったか」
問いかけられた学校長、サクラは筆を静かにおき、イチョウの目を見て話す。
「何があったもなにも! これですよ、これ!」といい、イチョウは持っていた書類をサクラの前にずいっと突き出す。
「これは、私が推薦した入学生徒の手続き書類だな。何か不満でも」と平然な顔で言う。
サクラの答えに、はぁ、とため息を吐いたイチョウは書類を勢いよく机に叩きつける。
「だ! か! ら! 女性の剣士と男性の魔導士! 一体何考えてんですか!」
イチョウが顔を赤くして問い詰めるが、サクラはいたって冷静に「優秀な人材になると考えた」と答える。
「ほんとに、サクラさんは……」呆れたイチョウは再びため息を吐き、頭を掻くと「もう少し学校長としての自覚をもってくださいよ……」と吐き捨てるようにつぶやいた。
そして、「いいですか」という言葉を先頭添え、「私はあなたが何を考えているのか、正直に言ってわからない。けど、女性の剣士と男性の魔導士なんて存在を生徒として、ましてや学校長の推薦枠として入学させたら、他の生徒の将来に悪影響を及ぼす。これだけは明言できる」と力強く主張した。
サクラは「そうか」と呟き、二枚の書類に目を落とすと、思案を巡らした。少しして、サクラは顔を上げ、イチョウの目を見て口を開いた。
「なぁ、イチョウ」
「はい。なんでしょう」
「どうして駄目だと思う」
「え、ですから、この学校の評判が――」
「そうじゃない。女性が剣士、男性が魔導士であることの何が駄目なんだと思う」
「そういうものですから」
「理詰めが好きなお前の口からそんな答えが出るとは、意外だな」
「常識や慣習に理屈もへったくれもありませんよ」
「そうか? 歴史をたどれば紐解けるかもしれないぞ」
「……」
「そういうものだから駄目。その答えでは、己が道を突き進む者の歩みを止められない」
黙り込んだイチョウにサクラは二枚の書類を差し出す。
「責任は私が負う」
一切瞬きをしないサクラの眼光にイチョウは、はぁ、とため息を吐き「わかりましたよ」と仕方がなく書類を受け取った。
「では、彼らの入学手続きは通常通り進めておきます。でも、俺は止めましたからね。どんな結果になろうと知りませんからね」と吐き捨て、イチョウは校長室を去った。
静けさが戻った部屋で、サクラは再び筆をとる。
そして、器から溢れ出した一滴の水のように呟く。
「――いよいよ、歴史が動くぞ」
少女に剣を、少年に魔法を @orihi_88
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