TRPG殺人事件 - 影宿る廃都
三坂鳴
第1話 事件の詳細
TRPG(テーブルトークRPG): GM(ゲームマスター)と呼ばれる役割の人が物語の進行役、判定役になって、会話を中心に進めていくRPG
シナリオ: TRPGにおいてプレイヤーキャラクター(PC)が冒険する舞台設定や、遭遇する事件内容、 ストーリーのプロットなどをまとめた資料
■ 新聞記事(○月○日付)
【見出し】
「人気TRPG作家、都内マンションで不審死:“密室”を偽装か?」
【本文】
○月○日午前7時ごろ、都内○○区の高層マンション「クラレントタワー」5階に居住するフリーライター兼テーブルトークRPGシナリオ作家・望月清志(34歳)氏が死亡しているのを、同建物の管理人が発見した。
捜査関係者によれば、部屋の玄関は内側から施錠されており、明確な侵入痕跡は確認されていないという。
望月氏は近年、同人系の活動を中心に多くのファンを集め、企業からの出版オファーも受けていたとされる。
今回の件については、他殺の可能性を排除できないとして警察が捜査を進めている。周辺住民への聞き取りでは深夜に物音や争いを感じたとの報告がなく、“静かな密室”という状況が一層不可解さを際立たせている。
■ 捜査報告書
【1)被害者:望月 清志(34歳)】
・職業: フリーライター、同人系TRPGシナリオ作家
・活動歴: ゲームイベントへの積極的参加、SNSでも広くファン交流。
・対外関係:
・A社編集との出版交渉で一部条件に折り合いがついていない。
・過去、同業ライターとの衝突事例あり。
・大学時代からのTRPG仲間との関係は良好と伝わるが、金銭面やゲーム上の意見対立など細かな問題が散見。
【2)事件現場:都内○○区 クラレントタワー5階 506号室】
・物件構造:
・オートロック式・監視カメラ設置。居住階へのアクセスには専用カードが必要。
・非常階段は通常閉鎖されており、管理人室での遠隔操作か緊急時のみ開錠。
・近隣住戸への通路は1つのみ(エレベーターホールを介して左右に分かれる構造)。
・発見経緯:
・○月○日午前7時、空調関連の警報がマンション管理室に表示されたため、管理人が部屋を訪問。
・インターホン応答なし。管理人権限でも部屋の鍵が開けられず、警察へ連絡。
・警察官が特殊ツールによりドアを開錠し、リビングで被害者を発見。
・室内状況:
1. 玄関ドアには電子キーと物理キーを併用した二重ロック。どちらも内側から閉められていた痕跡。
2. 物が散乱しているが、大きく荒らされた形跡はなく、むしろ“作業途中”の乱雑さに近い印象。
3. 窓ガラスやベランダにも侵入形跡なし。
4. 後頭部負傷による大量出血。付近に凶器らしき物は見当たらない。
【3)死因・推定時刻】
・死因: 鈍器による後頭部強打 → 頭蓋骨骨折と出血多量。
・死亡推定時刻: 前日深夜0時〜2時頃。
・抵抗痕: 明確な防御創(刺し傷を避ける手)等はなし。ただし、被害者の右手指先に小さな擦過傷がある。
・他殺の可能性: 高いと推察。部屋に争った形跡が薄い一方、ドア内側施錠が確認されるなど不可解な点が多い。
【4)初動捜査の結果】
・防犯カメラ映像: 午後11時以降、外部からの不審な出入りは未確認。
・近隣住民の証言: 深夜帯は静かで、衝撃音や喧騒はなかった。
・被害者のSNS・メモ: 「契約書を早くまとめたいが、相手が急かす」「旧友との金銭トラブルへの対応」などが散見。どれも詳細は不明だが焦っている印象。
・部屋の構造検証:
・簡易DNA検査では他人の血液や皮膚片は検出されず。
・ドアノブや玄関内側に複数の指紋が混在。被害者本人以外の指紋もあるが、誰のものかは鑑定中。
・その他: 事件当日に火災報知器の警報発生、特に火災は発生しておらず誤報と判断。事件との関連性は不明。
【5)容疑者・関係者】
1. A社編集・椎名(しいな)
・出版交渉中の担当編集。契約条件を巡って揉めているとの噂あり。
・被害者のメモに「Sさん、早く印を欲しがる」「もっと内容を詰めないと」と記述。
・一方でTwitterで親しげに交流していた履歴も残る。
2. 同業ライター・早乙女(さおとめ)
・数年前に共著企画で衝突し、絶縁状態と周囲は認識。
・最近、他ジャンルで成功し始めているらしく、望月氏との確執が再燃していたという噂が流布している。
・被害者の投稿に対して辛辣なリプライを送っていた記録が一部ある。
3. TRPG仲間・川島(かわしま)
・大学時代からの友人。被害者とオンライン通話を頻繁に行っていた。
・最終通話は事件当日の夜22時前後までとのログがあるが、以降の接触は確認されていない。
・被害者メモに「Kがギャラ精算をまだ済ませていない」との走り書きあり。経済的トラブルの可能性?
4. マンション管理人・佐久間(さくま)
・第一発見者。防犯システムや非常階段など建物全般の管理を担当。
・だが、事件発生前日も特に異変を察知していないという。
被害者との直接的なトラブルは報告されていないが、一部住民から“佐久間と望月氏が言い争う声を聞いた”という証言も断片的に出ている。
■ 調書(抜粋)
以下は捜査当局が、主に容疑者・関係者へ取材した際の調書(一部要約)。
会話形式だが、感情表現は抑え、事実や口調に焦点を当てる。
【調書1】A社編集・椎名(しいな)
(取調室 / ○○警察署) Q: 望月清志さんとの出版契約交渉について、具体的にどのようなやり取りがありましたか?
椎名(A): はい。新作TRPGシナリオの書籍化を企画中で、彼とは大筋合意していました。ただ、原稿の納期や印税率の細かい点が詰めきれず、少し急かした形にはなっています。
Q: 望月さんが「誰かに狙われている」というような話をしていませんでしたか?
A: 狙われるなんて……むしろ「この企画を盗もうとしている連中がいる」みたいな被害意識を持っていたように思います。私も聞いて困惑していました。大げさだと思っていたので。
Q: 事件当夜の行動は?
A: 自宅で書類の整理とメール対応をしていました。0時頃には就寝し、外出はしていません。監視カメラを見れば分かると思いますが、私は出入りしていないはずです。
(以後略)
【調書2】同業ライター・早乙女(さおとめ)
(応接室 / ○○警察署) Q: あなたは望月さんと過去に著作権のトラブルがあったと伺っています。最近はどうですか?
早乙女(A): それは数年前の話です。確かに私は腹を立ててました。でも、最近はこちらも忙しく、望月さんのことを気にかける余裕がなかった。むしろ過去のことは水に流しています。
Q: SNSで彼を批判する投稿が見受けられましたが?
A: ちょっと過激な言葉を使ったかもしれませんが、あれは作品の方向性の話であって……。個人的に殺意などありませんよ。正直、“大物ぶってる”態度にイラッとする程度でした。
Q: 事件当夜のアリバイは?
A: 私は家で作業してました。友人とチャットもしていたのでログがあります。外出の記録はないはずです。
(以後略)
【調書3】TRPG仲間・川島(かわしま)
(取調室 / ○○警察署) Q: 望月清志さんと最後に連絡を取ったのはいつですか?
川島(A): 夜10時前後までボイスチャットしていました。彼が「少し休むから、また明日な」と言って通話を終えました。その後は特に連絡していません。
Q: 彼の言動に不安や変化は感じましたか?
A: 「契約の件で頭を悩ませてる」くらいで、具体的な名前は出なかったです。でも、圧迫を受けてるとは言ってました。誰だかは聞いてません。
Q: 被害者のメモに“ギャラ精算未了”とありますが、何か思い当たることは?
A: ああ、それは別件です。コンベンションの運営費用立替分を、僕がまだ返してないとか。大きなトラブルではないんですけど。こんなことになってしまって……。
(以後略)
【調書4】マンション管理人・佐久間(さくま)
(来客室 / ○○警察署) Q: 事件当日は何か異常に気づきませんでしたか? 警報が鳴った理由は?
佐久間(A): 火災感知器の誤作動かと思いましたが、結局誤報原因は不明です。私は7時に管理室でエラーを確認し、506号室を訪れたら応答なし。仕方なく警察に通報しました。
Q: 望月さんとは普段どのようなやり取りを?
A: 特にありません。挨拶程度です。ただ先日、深夜帯に彼と誰かがエレベーターホールで言い争っているような声を聞いた住民がいる、と噂で聞きました。私自身は見ていませんが……。
Q: 非常階段からの侵入は可能ですか?
A: 通常はカードロックが必要で、私か管理会社しか解除できないですね。あとは非常時のみセンサーが働いて自動解錠されます。記録を見ましたが、当夜は解除された形跡はありません。
(以後略)
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