君が読みたかった物語
@asiro
君が読みたかった物語
プロローグ
第1章 紅葉との出会い
第2章 トラウマの中で知った
第3 章 愛してしまった
最終章 君が読みたかった物語
プロローグ
朝目が覚めいつもと同じ様にコーヒーを淹れ飲む
そしてカーテンを開け書斎にいつもと同じ様に足を運んだ。
「君の読みたかった物語の続きを僕は今だに書けないでいる....」
口からこぼれ落ちた言葉には虚しさが含まれている。
君が僕の書いた物語を好きだと言ってくれた
君が僕の始めての読者になってくれた
君が僕の世界に彩りを与えてくれた
君が僕の初恋だった...
でも....もう君はいない
「はぁ...」
行き場のない溜め息が漏れた
紅葉との出会い
今年も君の居ない秋が来たよ
もう四年も経ったよ
僕はあの日から前に進めていない
あの話の続きも書けない
続きを書こうとしても書けない書こうとすると
君の鮮やかな声、向日葵の様な笑顔、栗色の赤みがかった長い髪、薄いリボンの様な艶やかな唇
君の何処か諦めに似た優しい眼差しが僕の脳裏によぎり僕のじゃまをするんだ。
「もう4年前なんだね....」
4年前....それは何処か懐かしく悲しい響きに聴こえた。
秋の終わりに彼女は死んだ
彼女との短くも長いひとときが愛おしく尊い記憶となった今でも想う
あの季節があの時間が今も僕に物語を描かせている。
「あぁ.....会いたい」
色褪せない思い出が甦ってくる....
※※※※
紅葉が見える放課後の図書室で小説を書いていた僕は突然栗色で赤みがかった髪色の女の子に話しかけられた。
振り返った僕に優しく微笑み返して僕にこう言った。
「ねぇ何、書いてるの?読書感想文?反省文?」
「ち、違うから、君だれ」
見た感じ同学年に見える
それに良く見たら可愛い地味目ではあるけれどよく見たら整った目鼻立ちに栗色の赤みがかった長い髪に何処か落ち着いた雰囲気を纏っている。
でも何処か儚げな印象を受けた
そう思っていると彼女が自己紹介を始め出した
「始めまして!私はね!明那咲鈴って言うの!因みに図書員だよ!」
「あきさきりん....か僕は佐々木叶」
「佐々木叶君ねうん!叶!」
良い響きと言い放って笑顔で言った。
僕は彼女の事を見た目の印象より子供っぽいと思ったでも悪い人では無いんだなとも同時に思った。
りんはそれ以降度々僕に話し掛けてくる様になった。
何だかんだ彼女に言いくるめられて連絡先も交換した。
人との関わりがうすい僕にとって彼女は太陽のような暖かい日向のような存在だった。
そんな彼女に僕は段々惹かれっていった。
そして3週間が経ったある日
図書室で本を読んでいたらりんが突然遊びに行こうと言い出した。
「ねぇ!今週の土曜日遊びに行こうよ!」
「急に?何処に行くつもり?」
「考えてない!」
彼女はそう自信満々に胸を張り言い放った
「あ!?この前出来た喫茶店行ってみたいなぁ!」
「ならそこに行こ」
僕は内心心踊っていた、それもそうだ僕は女の子と2人っきりで遊びに行くなんて経験した事がないのだからでも同時に不安だった
「え、良いの!?ヤッタァ!」
そして土曜日当日僕は黒いズボンに白いシャツと黒のジャケットを羽織って駅前で彼女を待っている
すごく落ち着かない
「わっ!」
「うわぁ!?」
「ハハハハ」
彼女は腹を抱えて涙目になりながら笑っている。
僕はと言えば尻餅をついて情けない声をあげていた。
「お、驚かさないでよ...」
「ごめんね...ククク」
彼女は謝りながらもしてやったりと言った顔で笑っていた。
今日の彼女はオシャレだ
青いジーンズに白いセーターにジャケットを羽織っている
「さぁ、行こっか!」
「あ、うん」
「ねぇ、お昼食べた?」
「何も食べてない」
「よし!食べいこー!」
「今から喫茶店行くんでしょ?」
「あ、そうだったハハハ」
喫茶店につくと店員さんに窓際の席を案内され2人でメニューを見ていた。
「美味しそう!私これにする!ホットドックとコーヒー!」
「じゃ僕も同じのにしようかな」
「お揃いだね!ねぇどう?大人っぽいかなぁ?」
悪戯を企んでいる様な笑みを浮かべながら聞いてくる
「どこら辺が?」
「あー!イケナイんだぁ!いい?こうゆう時はね上辺だけでも良いから大人ぽいねとか褒めてあげるんだよ?」
彼女は得意げに笑顔でそう言った
注文した物が届いて目の前にした時には彼女は目を輝かしながら「いただきます!」と行儀よく綺麗な姿勢で言った。
僕もそれに続いていただきますと言いホットドックを頬張る
「これ!すっごく美味しいぃ!ちょとピリッとするけどそこがまた美味しい!」
「それだけ喜んでくれたらお店の人も嬉しいだろうね」
そう言うと彼女は少し恥ずかしがりながら苦笑いを浮かべた。
喫茶店をあとにした後幾つかお店を回って近くの浜辺に来ていた
もう夕方になっており少し肌寒いし人も他に居ない
彼女をみて見ると彼女は悲しげに茜色の空を眺めていた。
それは何処か儚げで栗色の赤みがかった長い髪が風に揺れ光に当てられよりいっそ彼女の存在感を際立たせていた。
そして彼女にはいつもの子供っぽさはなく凛とした悲しげな目で僕を見て呟いた
「ねぇ、叶は私のこと....好き?....」
僕は返答に迷った
今答えてしまったら彼女が消えてしまうんじゃないかと思ったからだ
「.....」
不思議と彼女が冗談で言っているんじゃないと言う事は分かる
同時に彼女には僕なんかには想像のつかない問題を抱えているんじゃないかと思った....
「好きだよ....」
「そっか....」
りんは悲しげに目を瞑り泣いていた
「実はさ、私長く生きられないんだ....お医者さんが言うにわね...冬を越せるかは分からないんだって....それでも叶は好きで居てくれる?....」
彼女は苦しそうな顔をしてそう言った
今更この気持ちを否定することなんて出来ない
紛れもない事実なんだから
「ごめんね...こんな事言われても困っちゃうよね!...」
彼女は僕を気遣ってか無理に笑っている。
誰が見たって分かる作り笑いだ。
僕はそんな彼女をりんを見てはいれなかった。
それに自分の気持ちに嘘をつきたくはなかった。
だから....
「.....居れるよ」
「そっか...愛されちゃったなぁ〜」
彼女は涙を流しながら笑ってそう言った。
それから2日後僕は小説を書いている事を話した
言うのは恥ずかしかったけれど彼女に読んで貰いたかった。
彼女に見せて読んで貰うと
「んーなんか足りないなぁ」
「何が足りないの?」
「何て言うか気持ち?」
「恋とか」
「まぁでも!私好きだよ叶の物語!」
「!?」
急にそんな恥ずかしい事を言われても困るでも嬉しいと思った。
彼女になら見せられる
「続き出来たら読ませてね」
「勿論」
それからは書き終えた物を彼女に読んでもらいながら修正点を言ってもらっていた。
そんなある日りんから
「ねぇ...叶...私と叶を題材にした物語を書いてくれない?...」
「えっ」
急な提案に僕は驚いてしまった。
「ダメ?私と君とのハッピーエンドを描いてよ....」
きっと彼女は本気なんだろうだけど僕はそれを断った。
彼女は「そっか」と言って頬を膨らませた。
子供の様な振る舞い方に僕は少し揺らいだ。
次の日彼女が倒れた
放課後にその事をメールで知らされ送られてきた病院まで行き受付で「明希咲鈴さんの病室はと」聞き案内をしてもらった。
病室を訪れ扉を開いた。
彼女は病院のベットの上で窓の外を見ていた。
不謹慎だとは思ったけど彼女を綺麗だと思ってしまった。
儚げで今を懸命に生きようと強く居ようと枯れそうになりながら今を生きているそんな彼女を綺麗だと思った。
僕に気づいたりんが振り返って少し困った様に笑いかけてきた。
「ははは...ごめんね心配かけちゃって...」
「本当だよ...」
「主治医の人が言うにはね....もう病院で過ごさないといけないんだって!もお〜つまんない!叶とも気軽に話せないんじゃん!」
「そうなんだ....毎日お見舞いに来るよ....」
彼女が元気に振る舞って見せた。
そんな彼女とは対象的に意気消沈していた。
※※※※
あの時
僕は耐えきれなかった。
僕の判断は間違っていた。
でも彼女は「ありがとうと」と言って僕の前で息を引き取った。
トラウマの中で知った
僕の育った環境はお世辞にも裕福とは言えなかった。
母は1人で僕を養ってくれていた。
幸い母は看護師をしていた為お金には困らなかったけれどそれは贅沢をしなければの話しだ。
けれど母は小さい僕の為におもちゃを買ってくれたりお菓子を作ってくれたり遊んだりしてくれていた。
仕事で疲れているはずの母はよく僕に構ってくれていた。
けれど母がある日突然僕を殺そうとした。
結果的には未遂で終わった。
母はあの日泣いていた泣きながら「ごめんねごめんね」と言って僕の首を絞めた。
けれど母は途中で首を絞めるのをやめた。
そして母は死んだ。
自殺だった。
風呂場で腕を切り大量の睡眠薬で死んでいた。
第一発見者は僕だった。
お隣さんに助けを求め警察に通報
その後の事は母は天涯孤独の身であったため葬儀を終えた後は母の貯めていた貯金を僕が譲り受け養護施設に引き取られる事になった。
カウンセリングや面談を施設関係者の人からされてはいたが僕が負った傷は癒えず
人との関わりを最小限にして生きてきた。
そのせいかたまに夢を見る。
母が泣きながら謝ってきた事首を絞められた事母が死んでいた事を夢でよくみる。
僕に残ったのは物語を書く事と読む事だけだった。
そんな灰色の生活を送っていた。
そんなある日彼女と出会った。
何故か彼女には心をすんなり開いてしまっていた。
そしていつの間にか好きになっていた。
気がついたら彼女が僕の全てになっていた。
愛してしまった
それから僕は毎日彼女の見舞いに行って彼女と話し彼女の弱っていく姿を見ていた。
彼女の体は日に日に痩せ細っていき横になっている事が増えた。
彼女の両親とも何度か会って挨拶を交わしていた。
そして彼女が重たそうな体を起こして言った
「叶、お願いが有るんだけど聞いてもらってもいい?」
「お願いって?」
「君と私のハッピーエンドの物語を書いて読ませて」
「.....」
「それともう一つ....」
「なに....」
「紅葉の下に連れて行ってくれない?無理を言ってるのは分かってる...」
「いいよ....君が望むなら....」
「ありがとう」
君が望むなら僕は何だってしてあげたい
君がそうしたいのなら
君がそう望むのなら
君が笑ってくれるのなら
君の願いならば
君のそばにいれるんなら
僕は...君の隣にいたいから
君の事を愛してしまったから
そして彼女をひっそりと紅葉の下へと連れてきた
彼女は「ありがとう」と言って僕にこう尋ねた
「ねぇ、まだ私の事すき?」
「あぁすきだよ...」
彼女はこれが最後のお願いといい
「私の事を忘れないで....他の人を好きになったとしても忘れないで....」
彼女は言葉を必死に絞り出す
「私も君がすきだよ....だからこれが本当の最後のお願い」
「言って見て」
「キスしてくれる?」
僕は「あぁ」と言いりんの唇に僕の唇を重ねた
彼女との想い出が走馬灯の様に溢れてくる。
きっと彼女も一緒だったのだろう
僕の頬には雫が流れていた
彼女の頬にも同じ様に流れていた。
そして彼女は笑顔で僕に身を委ね動かなくなった。
そして同時に強い風が吹き
紅い葉が舞い散った。
彼女の両親からは何故か「ありがとう」と言われた
医者からは重病患者を連れ出した事に怒られた
彼女の葬儀が行われた後彼女の両親から彼女がいつも僕の話しをしていた事を知らされた
僕は部屋に帰ると強烈な悲しみと喪失感、無力感に苛まれた
朝まで泣き喚いた
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!僕は...彼女に何かしてあげただろうか...うぅあぁぁぁ...僕は彼女の支えになっていたんだろうか1人よがりではなかっただろうか
また失ったまた1人にまた何も出来なかった!クソ!クソ!クソ!何で僕を1人にしたんだよ!なんでぇ!うぅっ...だから嫌だったんだだから1人がよかったこんな気持ち二度と感じたくなかったんだ.....」
ふと彼女の「君と私のハッピーエンドの物語を読ませてよ」と彼女は言っていた事を思いだした。
すると書かないといけないと思い書き出した。
最終章で書けなくなった。
君が読みたかった物語
あれから4年僕は作家になっていくつもの物語を描いてきたけれど彼女との物語の最終章だけは書けないままだ。
消して
書いて
消して
書いて
消して
そんな事を続けている
けれど完成させてしまえば彼女の事を忘れてしまいそうで彼女が本当に居なくなってしまったんだと再認識してしまいそうであの感情に飲み込まれてしまいそうで怖かった。
不完全な物語が僕の支えで僕の希望なんだ
だけどお別れだ...
もうこれ以上彼女は待ってはくれないだろ
ハッピーエンドでもなくバットエンドでもない
トゥルーエンドで終わらせなければ意味がないと僕は思った。
「そうだな...タイトルは...」
「タイトルは決まった?」
その時ふと彼女の声が聞こえた
きっと背中を押してくれているのだろう
もう夢はおしまいだと
知らせてくれたのだろう
きっと僕は物語を完成させても君を忘れない
そんな確証があった
だからタイトルはこうだ。
「夢はもういい」
これは僕の人生の区切りであり彼女の最後の願いそして僕からの彼女への愛だ
君が読みたかった物語は
完成したよ....
「ありがとう」
彼女の声が脳裏で響いた。
君が読みたかった物語 @asiro
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