第2話 スカウト

 差し伸べられた彼女のを手を取って立ち上がると、僕は礼を述べる。


 「ありがとうございます。助かりました」


 「お礼なんていいよ。国家魔術師として当然のことをしただけだから」


 カリンと名乗った女性は笑顔で応えた。そして僕の体をジロジロを見ながら質問をしてくる。


 「まあ君ほどの使い手ならあれくらいの爆発で死ぬことはなかったとは思うけど。それにしても面白い魔術を使うね。あれはどういう能力なのかな」


 僕は返答に困った。魔術師の能力はおいそれと他人に話すべきものではないと、幼少の頃から師匠に教わってきたからだ。敵に能力が知れ渡ったら対処されてしまう可能性があるからな。


 国家魔術師ならその常識はあるはずだ。だから試験でも基本的な魔力操作だけを見せて、能力までは見せなくていいという配慮がされていた。それなのにずけずけと能力を聞いてくるとは、どういうつもりなのだろうか。


 助けてくれたから悪い人ではないと思っていたが、もしや違うのか。僕は警戒して、後ろに跳んで彼女との距離を取る。


 そして臨戦態勢に入って指先を彼女へと向ける。


 「え、どうしたの!?」


 「あなたは信用できないところが多い。僕の能力を見ていたということは、熊が自爆する瞬間にギリギリ駆けつけてきたわけではなくて、もっと前から近くで戦闘を見学していたということ。国家魔術師ならすぐにでも助けるはずだ」


 彼女は何かを企んで僕の戦いを見ていたのだ。怪しすぎる。

 僕は人差し指に魔力を集中させて、いつでも破壊の黒団子ボールバレットを撃てる準備をする。


 これにカリンは少し動揺しながら返事をする。敵意はないと言わんばかりに両手をこちらに向けて。


 「ちょ、ちょっと待ってよ!撃とうとしないで。別に悪気があって見てたわけじゃないんだ。試験で好成績を残した君の戦闘能力を見てみたくって」


 「…続けて」


 僕が話を聞き気になったことで胸をなでおろしたカリンは話を続ける。


 「実は私も国家魔術師の試験会場にいたんだ。そこで実技試験を圧倒的な記録で突破したのに、筆記で全てを台無しにした面白い人材がいるって聞いてね」


 僕のことだな。

 カリンはポケットから取り出した紙をヒラヒラしだした。


 「あ、これ君の答案用紙ね。これで私が本物の国家魔術師だって分かってくれると嬉しいんだけど。この答案も興味深くてねえ。それで君の後を追ってきたってわけ」


 カリンは僕の目を見て、少し溜めてから要点を言った。


 「君をスカウトするためにね」


 「スカウト…それで最後に実力を計ろうと熊との戦いを見学していたと」


 それでスカウト前に僕の能力の詳細も見てしまおうと考えていたわけか。失礼ではあると思うが、理にかなってはいる。


 「そうそう。いい動きだったよ。どう、スカウトを受けるつもりはある?」


 「…でも僕は試験に落ちたんですけど」


 「試験とは別口だよ。国家魔術師は5年経つと部隊を持つようになるんだけど、私も6年目で部隊を作らないといけないんだよね。それで戦闘能力の高い人材を外部から勧誘しようと思ってたんだ」


 スカウトか。試験で落ちたばかりの僕には、この方法が最速で国家魔術師になる道であることは間違いないだろう。


 だが僕が国家魔術師を目指すのは、自由に禁足地の調査をしたり、国中の情報を閲覧できるようになるからだ。部隊に入るというのは拘束時間が増えて、僕の本来の目的からは離れてしまう気がする。


 「ありがたいですが、お断りします。僕にとって国家魔術師になることは目的でなく手段なので。それじゃあ失礼します」


 僕はカリンに向けた指を下ろすと、背を向けて帰路につこうとする。


 そこへ背後からカリンが声をかけてきた。


 「魔女狩りでしょ。君の目的は」


 僕は足を止めてカリンの話の続きに耳を傾ける。


 「君の筆記の答案試験は空欄とかとんちんかんな答えばかりで見るに堪えなかったけど、志望動機の部分は丁寧にびっしりと書かれていたね。一言でまとめるなら魔女への執着」


 僕は振り返って彼女に返事をする。


 「それが何か。僕は魔女を倒すために国家魔術師を目指しています。だからあなたの部隊のお手伝いはできませんよ」


 カリンは口元を少しニヤッとさせて告げる。


 「これを最初に言うべきだったね。私の部隊は対魔女事件特化部隊にするつもりなんだ。スカウトの件。これなら考えなおしてくれるかな」


 カリンは握手を求めて僕へ手を差し出してきている。


 「君をスカウトしようと思ったのは何も戦闘力だけじゃない。この魔女への執念に共感したからだよ。スカウトでの入隊だと見習いってことになって、国家魔術師の特権に制限がかかるし、給料もかなり低くなるけど、君には関係ないでしょ?君自身の体にかけられた魔女の呪いを解くためにも、この部隊への参加は悪いことじゃないと思うけど…」


 気づいたら僕はカリンの元まで歩み寄って、彼女の手を握っていた。


 「僕も一緒に魔女殺しの仕事をさせてください」


 「スカウト成立だね。それじゃこれからよろしくね、モモクレス」


 「はい。よろしくお願いします」


 こうして僕とカリンの魔女討伐が始まった。

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