第3話 予兆

食料を受け取った各班は、自分たちのサイトへ持ち帰って調理の役割分担をしていった。

薪を割る者、かまどを組む者、米を炊く者、食材を切る者、それぞれが振られた役割をきちんとこなしてこそ、班が一つにまとまったといえるだろう。

そして、その指示を出しながら自分の仕事もこなすので、班長は忙しいポジションなのだ。

ちなみに今夜の献立は、ご飯と具だくさんの豚汁である。


「みんな米を出せ。彰人、美鳥は飯盒2個を用意。3合ずつに分けて仕込みだ。水の分量の量り方はわかるな?」

「「はい!!」」


「飛鳥は健と一緒に野菜を切ってくれ。タープにテーブルは出ているな?テーブルの上を片付けて食材を並べて作業に入って!」

「はーい!」「わかりました!」


「さ~とし~?、食器棚の方はまだできてないだろ?そっちはあとでいいから薪割のほうどうなった?」

「明日の朝の分まで薪割は終わってるよ~♪ かまどもとりあえずの形にはしておいた。明日もっと整えるよ」

「さすが次長♪たすかるぜ。じゃあ、飛鳥たちのヘルプをたのめるか?」

「康介はいろいろ抱えすぎるんだよ。もっと班員に仕事振っていいと思うぜ?」

「あはは、わかっちゃいるんだが難しいもんだなー」


なりたくてなった班長ではない。

しかし康介はえらそうに命令ばかりする班長にはなりたくなかった。

というより、頼れる班長を演じようとして気負っているのかもしれない。

リーダーシップ章を取得はしたものの、だからといってそれだけで人がついてくるわけでもない。

悩んでも中3の経験値で出せる答えには限界があった。毎回の活動ごとに発見があり、学びや反省がある。


「班長、お米の分量ってどうやって量るんでしたっけ?計量カップが見当たらなくて・・・」

小学6年生の彰人が聞きに来た。キャンプの経験は少なく、たしか今回で2回目くらいだったはずだ。おなじ小6の美鳥も同様だった。


まだ言われたことをするので精いっぱいだし、もちろん知識も経験も少ない。

楽しんでいるような表情を見せる半面、不安そうな表情もときおり見せる。


「忘れちゃったか?飯盒の外蓋がスリきりで3合。内蓋がスリきりで2合になるから計量代わりに使える。念のために言っとくけど、炊くときに内蓋は外しておかないとだめだぞ?」


「ありがとうございます。内蓋を外すのは覚えてました♪」

ニカッと笑いながら答える美鳥の横で、覚えてないやーという顔をする彰人。


「オーケー。研いで水を入れたら20分くらい時間を空けなきゃいけないので、その間に薪組をするぞ。終わったら二人ともマッチと新聞紙を持ってかまど前に集合してくれ」

「「わかりました!」」


康介は腕時計で現在時刻を確認した。

17時05分・・・

飛鳥たちの豚汁組は、次長の聡がヘルプに入ってスピードアップしているようだ。

このペースでいけば・・・


「勝てる・・・かも」

康介はニヤッと笑った。


炊飯で勝ち負けとはどういうことかと思うかもしない。

得てしてこういう時は、班ごとに競い合う風潮があるのだ。

判定方法は他班に聞こえるように「いただきます!」と声高らかに宣言すること。

前回の炊飯訓練では、3班中最下位だったイーグル班は、実はひそかにトップを狙っていたのである。

その時、トップを取ったコブラ班の班長、百花の勝ち誇った顔が脳裏にちらっと浮かんだ康介は、振り払うようにして、班全体の状況を確認しようとした。


そしてその時にまた、わずかな違和感を感じた。

(風向きがおかしいな・・・)


このキャンプ場は低山の中腹にある。一概には言えないが、日中は日射によって空気が膨張して軽くなることで、斜面を上る気流が発生する。逆に夜間には山頂から吹き下ろす風になる。

ここは大体、そのセオリーに当てはまっていた。


(横から吹いてくる風が混ざっている・・・しかもいろんな方向から・・・)


強い風なら皆も気づいたかもしれない。

しかし、程よい強さで吹く風は作業で汗をかく者にとっては、心地よい以外の感想は出てこない。


(考えてもしゃーないか・・・火おこしと調理が安定してきたら俺もテントを建てるかな)

そう独り言ちて、康介は調理場の方へ歩いて行った。


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「いただきま------す!」

「マジかぁああああ!」

「ぎゃあ!まけたぁぁぁ!」

三方向の森の中からそれぞれ大声が響いた。

いただきますの発生源は、オオカミ班。

康介たちイーグル班は、大急ぎで配膳をしていたところだった。


「まだだ!まだ終わらんよ!」と、康介は謎のせりふを吐いて班員に配膳を急がせる。

「急げ!せめて2位を獲るぞ!」

班員たちはバタバタとタープの下に設置されたテーブルの周りに座る。


「せーの!」

「いただきまああああああっす!」

直後、

「ぎゃああああ!最下位だああああああ!」

コブラ班の方向から悲鳴が上がった。


「ふふふふふ、この悲鳴こそ、最高の調味料だぜ」

康介たちは、最下位の雪辱を果たしたというささやかな満足感に包まれながら、焦げが混じったご飯と、水加減を間違えてやや薄い味付けになった豚汁を掻き込んだ。

「次はトップを獲ろうぜ!このイーグル班ならできるさ」


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-隊本部サイト-


「3班とも食事が始まったようですね」

そう言いながら、副長の北見が入れたてのお茶を、松木副長と中田隊長の前に置いた。


「ですね。まあ、想定時間内かな。キャンプファイヤーの薪組も終わったし、あとは我々も食事を急いで済ませて、資材の受領に行きましょう」

中田はお茶をすすりながら時計を見て、そう答えた。


「はい。隊付!上班!もうできたかな?」

松木は本部炊事場の方に声をかけると、

「オッケーでーす!隊長たち、食器とコップを持ってきてくださーい」

手を振りながら蒼真が返事をした。


「では行きますか」

三人の指導者たちが立ち上がると、ひとすじの風が吹いた。

「??いま、右からと左からの風が同時に来ませんでした?」

「ですね・・・今日は時々変な風が吹くような・・・」

二人の副長は、示し合わせるわけでもなく中田の方を見た。


「いや、私は無関係だ。冤罪だ」

と誰も何も言っていないのに答える隊長。


「念のため、気象予報と気圧配置、後で調べておきましょうかね。食べながら搬入の段取りを確認しましょう」

三者三様で笑いながら、希と蒼真が配膳をしているタープへ歩き出した。

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