異世界スカウト漂流記 ~技能スキルの謎が導く冒険は世界の謎を解くカギになるか~
八坂 三指
迷い込んだ異世界
第1話 班の仲間
「いてっ!! ちっ・・・手ぇ切っちまった」
大きくはないが通る声が聞こえてきた。
鷲村 康介は、うっすらと血のにじむ人差し指を押さえてテントサイトへゆっくり歩いていった。
鷲村 康介 (わしむらこうすけ)、中学3年生。
彼はボーイスカウトに入隊していて、今日から始まる夏の3泊4日の訓練キャンプに参加している。イーグル班の班長に任命されて間がない中で、班員・後輩たちへの指示に苦戦中だ。
「飛鳥さん、ごめん! 絆創膏を取ってくれる?」
康介は、テントを設営中の班員、堀内 飛鳥へ大きな声を掛けた。
呼びかけられた女の子は振り向きざまに
「班長、またケガですか?相変わらずのドジっぷりですね~」
と笑いながら救急箱を取り出した。
「うるせぇ(笑) 薪が硬くてなかなか割れなくてな」
「気をつけてくださいねー 班長がケガばかりだと他班に負けますよ?」
軽口でやりとりをしながら、飛鳥は液体絆創膏を取り出す。
「げっ!ちょっと待て!俺は普通の絆創膏の方が・・・」
「この後、炊事でしょう?手が濡れるからこっちの方が良いんですー」
「しみるから嫌なんだよなぁ・・・」
飛鳥はてきぱきと傷口を清潔にして、素早く液体絆創膏を康介の指に塗った。
「ぬぁあぁ・・・しみるぅぅ」
「すぐおさまりますよー。乾くまで指は動かさないでくださいねー。私が救急章持ってるからって、このくらいは自分でやってくださーい」
飛鳥は笑いながら救急箱を片付け、作業に戻っていった。
「ボーイスカウト」
その言葉を知っている人もいるだろう。
それは、自立心ある健全な青少年を育てる、世界的な社会教育運動のひとつ。
子供たちの好奇心や探究心にこたえる活動を通して、心身ともにバランスの取れた人格の形成を目指すと定義されている。
康介は、幼い子どもの頃から冒険を夢見ていた。
友人の誘いで小学3年生からはじめたこのボーイスカウトは、そんな夢を叶えてくれる最高の場所だった。
キャンプファイアーを囲んで語り合ったり、仲間と協力して登山をしたり、様々なスキルを学ぶことができる。
学校では決して味わえない経験が、彼を魅了していた。
そしてなにより、自分が自分らしく居られる場所だったのだ。
「なんだ?手ぇ切っちまったのか。大丈夫か?」
康介のそばに声をかけながら、めんどくさそうに歩いてくる人物。
年恰好は康介と同じくらいだが、細い切れ目のまなざしが独特の雰囲気を放っている。
「おう、聡。テント設営の方はどうだ?新人たちへばってないか?」
鴇谷 聡 (ときやさとし) 中学3年生。
康介率いるイーグル班の次長で、親友。康介をボーイスカウトに誘ったのも彼だ。
いつも冷静で、それでいて明るく頼りになるムードメーカー。
康介はいつも思う。自分なんかより聡の方が班長に向いているのに・・・
なんで隊長は俺を班長にしたんだろうか・・・と。
「ああ、タープと大型テントは建てたよ。あとは個人テントだな。お前もぼちぼち準備しておいた方がいいぜ」
「さすが、仕事ができるねぇ」
「飛鳥が中心になってテキパキやってくれてるよ。健や彰人、美鳥も初級にしてはよくやってる。それよりお前、野営章持ってるくせに薪割り中に手を切るとかありえなくね?」
康介は苦笑いしながら「面目ない。あと健は先日2級になったよ。たいしたもんだ」と言いつつ、キャンプサイトを見渡していた。
「風が出てきたな・・・」 康介はこの風にわずかな違和感を感じていた・・・
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ここで、ボーイスカウトの仕組みについて簡単に解説しておこう。
ボーイスカウトは、彼らのように、「班」をつくり、役割分担をし、互いに助け合いながら磨きあっていく。
そして、複数の班が集まって「隊」となるのだ。
この活動は、対象年齢が小1~大学生までと幅が広いが、
「ボーイスカウト」の対象は小6~中3となる。
年代に応じたふさわしい活動をするのだ。
ちなみに。小1~小2が「ビーバースカウト」
小3~小5が「カブスカウト」
高校生年代が「ベンチャースカウト」
大学生年代が「ローバースカウト」と区分され、それぞれ隊を作っている。
この小6~中3までの「ボーイスカウト」は、進級章というものがある。
スカウトバッジ(俗称みならいバッジ)から始まって、初級章・2級章・1級章・菊章、と進んでいく。
高校生のベンチャースカウトになると、そこからベンチャーバッジ・隼章・富士章へと進む。
この富士スカウトが最高峰となるのだ。
進むためには、既定のスキル習得を認められなければならない。
そのため、後輩に級を追い抜かれる先輩が出てくることが、たまーにあったりする。
そして、さらに詳しく踏み込んだスキルを習得することで、飛鳥の「救急章」、康介の「野営章」といった技能章が授与されていくことになる。
この技能章は、全部で84種類もあり、取得は2級スカウトから可能となっている。
ボーイスカウトの制服には、そういった彼らが頑張った証、努力の結晶というものがバッジという形で縫い付けられていた。
進級章は、制服の左胸ポケットに。技能章は右袖につけることになっている。
他にも、班別章や、班長・次長章など様々な記章が存在している。
鷲村康介が班長である「イーグル班」は6名。
「班長」 鷲村康介は、菊スカウトだ。
読図章・ハイキング章・スカウトソング章・野営章・野外炊事章・リーダーシップ章を持っている。
「次長」 鴇谷 聡は、1級スカウト。
読図章・通訳章・観察章・野営章・防災章を取得。
あまり、進級や技能章に興味がないらしい・・・
班員
堀内 飛鳥は中学2年生の女の子で、1級スカウト。
読図章・救急章・写真章・天文章・情報処理章・コンピュータ章を取得。
小鳥遊 健 (たかなしけん) 中学1年生の男の子 2級スカウト 技能章はまだない。
鳩谷 彰人 はとやあきと 小学6年の男の子で、初級スカウト
丸山 美鳥 まるやまみどり 小学6年の女の子で、初級スカウト
このメンバーが、康介のチーム「イーグル班」の全容だ。
ちなみに班の名前は「動物」から命名することが基本である。
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まだ夕食の準備には時間がある。
薪割りも終わり、そう判断した康介は、竹や木の枝を使って追加の設備を作ろうと動き始めた。
用意された既製品のテーブルなどだけでなく、食器棚やカマドなど、居住空間の使い勝手向上は大事なものとなる。これを「日々の改善」と呼んでいた。
充分な資材を集めた康介が、いざ工作に取り掛かろうとしたとき、甲高い号笛の音があたりに響き渡った。
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