第12話.幻想・融解
『目的地はこの洞窟の奥です。行きましょう』
『暗っ…………くない?』
洞窟はヒカリゴケが生えてくれているおかげで暗くはないが、キタマリさんはそのことに驚いている。確かにファンタジーに慣れている人だと暗いところにヒカリゴケは定番だが、見たことがない人にとっては不思議かもしれない。
『【ヒカリゴケ】と【光キノコ】のお陰で明るいみたいですね。一応ランプを持ってきましたが、これだけ明るければ必要なさそうです。あっ!でも足元には気を付けてくださいね!』
『はーい!…………って、わぁっ!?』
『キタマリさん!?』
言ったそばからキタマリさんが岩から足を滑らせ、ザリザリと前方へと滑り落ちた。
『大丈夫ですか!?』
『いたた……くないね、うん。いや〜やっぱりVRって操作難しいですね』
僕は慌ててキタマリさんに駆け寄り、倒れた彼女を助け起こす。現実と違って身体を擦りむいたりはしないけど、見ていてドキドキする。
『危ないなら、手を繋いでおきますか?…………なーんて、』
『いいですね!手、繋ぎましょう!』
『え』
僕が冗談で助け起こしたときに握った手を掲げると、キタマリさんはあっさりと承諾してしまった。
ギュ…………
『(あわわわっ)』
自分で言いだしたことなのだが、大学卒業以降は女性との交流が頓となかった僕に、女性と手を繋いで歩くのは随分ハードルが高かった。というか、、許されるのか?ゲームとはいえ(恐らく)年下の女の子と手を繋いで歩いて、何かしらのハラスメント行為に抵触しないだろうか?
『(ゲームでは手汗が出なくて良かった)』
ここが現実だったら確実に手がびちゃびちゃになるくらい、今の僕は緊張している。でも、決して下心はない。本当に!
『みちるさん?』
『あっ……いや、その、何でもないです。行きましょう!』
内心焦りまくる僕に、キタマリさんは何でもないように声をかけてくるので、僕は必死に冷静さを取り繕って、彼女を誘導する。道中また何度か危なっかしい場面もあったが、特に大きな問題なく僕らは岩を下って洞窟の奥へ奥へと向かっていく。
そしてようやく、そこに隠された妖精たちの住処にたどり着いた。
『ここが妖精に絶対会える【妖精の花畑】です』
『す、すごい…………』
そこは太陽の光が届かない地下奥深くにも関わらず、緑に溢れていた。真ん中にある池の真ん中、陸から切り離されたその場所に聳え立つ大木が、まるで太陽のように眩く洞窟全体を照らしている。
【ーーー♪】【ーーー♪】【ーーー♪】
その木の光を浴びて咲き誇る、色とりどりの花たちの周りを、小さな翅の小人たちが楽しそうに飛び回っている。
『あれが、妖精…………?』
【ーーーーーー!】
『わぁ!こっちに来た!』
【ーーーーーー?ーーーーーー、ーーーーーーー!】
『なんか、笑ってる?』
『楽しそうですね』
クスクスと笑いながら踊るように飛ぶ姿が愛らしくて、僕はそっと手を伸ばす。
【ーーーーーー】
『あっ…………』
『あっ!みちるさんの手に妖精が…………』
僕が差し出した手に、妖精が乗った。しかし、全く重さを感じさせない軽やかな動きだ。
ピロリン
【入手:妖精の粉】
『へぇ、本当にこれだけで妖精の粉が手に入るんだ』
攻略サイトには“妖精と遊んでると一定確率で妖精の粉が手に入る”と書いてあったが、本当に妖精と一緒にいるだけで妖精の粉が手に入ってしまった。
アイテムボックスにしまわれた【妖精の粉】を確認すると、それは七色の光を放つ銀色の粉だった。キタマリさんはそれを見ると、パチパチと手を叩いて喜んでくれる。
『あっ!それが妖精の粉ですか?おめでとうございます!結局私は何の役にも立ってなくて申し訳ないです』
『違いますよ。僕がキタマリさんとここに来たかったんです』
『え?』
『この間、変な人から僕を庇ってくれたでしょう?そのお礼がしたくて……なーんて言っても魔法の本が欲しいのは本当で、それを兼というか』
それだけじゃない。みちるの存在を認めてくれたことも、僕より僕のことで怒ってくれたことも、全部嬉しかった。
僕は花畑に咲く花を数本摘んで、キタマリさんへと渡す。
『僕とフレンドになりたいって言ってくれて、ありがとうございます。キタマリさんとフレンドになれてよかった。これからも、仲良くしてくれると嬉しいです』
「ちょっと痛いかな」と思いながらも、期待している。
キタマリさんならきっと喜んでくれるって。
『〜〜〜〜〜〜っ!そんなの私のセリフです!』
彼女は受け取った花束を大事そうに抱きしめる。そして、僕の目をまっすぐに見つめて、こう言ってくれた。
『ねぇ。私、もっと貴方と仲良くなりたいから、貴方のこと“みちるちゃん”って呼びたい。どうかな?』
その言葉に、僕の心の中に深い喜びが生まれる。だって、僕もそう思っていたから。彼女も自分と同じ気持ちでいてくれて嬉しい(“ちゃん”呼びはちょっと恥ずかしいけど)。
『うん。いいよ』
『それなら私のことも“キタマリちゃん”って呼んで!敬語もなし!』
この年になって、改めて「友達になろう」なんて日常で言わないから、物凄く恥ずかしい。でも、言い出しっぺの僕が恥ずかしがってても仕方ない。
『…………分かった。そ、その、……キタマリちゃん』
『えへへ!よろしくね、みちるちゃん!』
キタマリさんはそうやっておどけてみせた。
彼女も、多分言い出しっぺの僕と同じくらい気恥ずかしかったんだと思う。
【ーーーーー♪】【ーーーーー♪】
『妖精たちが…………』
『踊ってるね』
友情を深めあった僕達を祝福するように、妖精たちが僕らの周りを飛び回り、キラキラと光りの粒を舞い散らせながら踊る。
『ふふ、可愛い』
『こんな素敵なところに連れてきてくれてありがとう』
『ーーーうん、これからもよろしく』
そうして僕らは改めて“フレンド”になった。
−−−−−−−−−−−−
『ただいま〜我が家』
その後僕たちは無事に他の素材を回収し終えて、自分たちが暮らす村へと帰ってきた。
『冒険も楽しかったけど、やっぱり見慣れた自分の村のほうが安心しますね』
『キタマリちゃんにはお家で待ってる猫ちゃんたちもいますもんね』
『そうだ!みちるちゃん、うちに遊びにこない?自慢の猫ちゃんたちを誰かに見せびらかしたいの!』
『え、いいの?』
『うん、もちろん!』
猫か……。僕はあまり自分から猫を愛でに行ったりはしないけど、よく話題に出てくるキタマリちゃんの家の猫ちゃんたちはちょっと見てみたいかも。確か今は7匹飼ってるんだっけ。
『ん?』
しかし、そうやってキタマリさんと冒険の余韻に浸りながらワイワイと村の前まで来ると、朝とは出発したときには感じなかった、何かしらの違和感を感じた。
『…………なんか、プレイヤーが集まってる?』
『あれ、本当だ。なんかイベントでもありましたっけ?』
普段、この村に10人以上のプレイヤーが集まることはない。それくらいプレイ人口が少ないゲームなのだ。にも関わらず、村にはプレイヤーであることを示すアイコンがついたアバターがウロウロと歩き回っている。
『なんか、穏やかじゃないね』
『もしかしてあの変な人がまた何かやらかしたんじゃ…………』
『もし彼の友人たちなら絡まれるの怖いし、しばらく村に帰らないほうがいいかも』
『私もそう思う』
僕とキタマリさんは相談してもう一度村から離れ、帰り道に立ち寄った村にしばらく滞在することにした。
『じゃあ見つからない今のうちに、』
『師匠!』
そう言ってその場を離れようとしたとき、タイミング悪く後ろから一人の少女に声をかけられてしまった。
『し、師匠……?』
その少女はストレートロングの赤い髪に翡翠色の瞳の可愛いアバターのプレイヤーで、プレイヤー名は“いちご嬢”。
彼女は何故だか僕達をキラキラとした目で見つめてくる。
『(誰だろう……。知り合いじゃないと思うんだけど)』
容姿はゲームごとに変えるプレイヤーが多いのであてにならないとして、頭上に表示された“いちご嬢”と言う名前にも、話している声にも覚えがない。
確かに過去に弟子のようなものを取ったことは何度かあるけど、それはすべて満月のときの話で、引退してからはその誰とも連絡はとっていないし、みちるの存在は誰にも秘密にしている。
『みちるちゃんのお知り合い?』
キタマリちゃんに聞かれて、僕は首を振る。
『いや、名前にも声にも聞き覚えがない。全然知らない人だ。キタマリちゃんは?』
『いや、私も知らない子』
どうやらキタマリちゃんも知らない人らしい。僕たちは「師匠」と呼ばれた理由が分からず、同時に頭にはてなを浮かべた。
『すんません!本物だー!って思ったらついテンション上がっちゃって』
困惑する僕たちに、謎の少女は慌ててビシッと直角のお辞儀をし、簡単な自己紹介をしてくれた。
『初めまして、あたしの名前はゆいは……い、いちご嬢っす!よろしくお願いします!』
『(……今、別の名前を名乗ろうとしなかったか?)』
そんなことに目敏く気づいてしまったが、そういうのは聞かなかったことにしてあげるのがお約束である。最近ハンドルネームを変えたのか、そもそもハンドルネームを名乗ることに慣れていないのか。どちらにせよ、「初めまして」と言うということは初対面として扱っていいのだろう。
『えぇっと、よろしく?』
正直いきなり突撃してくるような人とはあまり関わり合いたくはないが、話も聞かずに無碍にするわけにもいかず、とりあえずよろしくと言っておく。
いちご嬢さんは追い払われなかったことに安堵の表情を見せたが、すぐに険しい表情できょろきょろと辺りを見回す。
『…………重ね重ね申し訳ないんすけど、場所変えませんか?ここはちょっと変な人多くて』
彼女の言葉は正しかった。先程から僕たちが住んでいる村の付近で、何やら見たこともないプレイヤーたちが騒いで暴れまわっているのが見える。
『(屋根に登って飛び跳ねてるけど、ほんとに何してるんだあれ。怖っ!)』
何か別のゲームと勘違いしてるんじゃないのか?という程に破天荒な人たちが流れ着いてくるなんて、一体イシュタルの休日に何が起こっているんだろう。
しかし、直接聞きに行くともっと厄介なことが起こりそうだと、僕の直感が告げている。
『村に入るのも怖いから、静かな所に行こうか』
『はい!お願いします!』
まぁ多分、その理由はこの少女が教えてくれそうだし、ひとまず先にここを離脱しよう。
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