第8話.配信・迷惑





 俺の名前は“闇御門リンネ《やみみかどりんね》”。配信サイト“Xtube”でライバーをやっている。趣味は人間観察、元々はブログとかTwitterで有名人の批評をしていただけだったけど、みんなが「辛口で面白い」「ライブ配信しないの?」と言ってくるのでなんとなく遊びで配信を始めたらなんか人気が出てしまい、毎日ゲームやネットの話題について批評する配信をしている。


『つーことで、発売から日がちゃったけど、“イシュタルの休日”やってきまーす』


 そんな俺が今日プレイするのは、“イシュタルの休日”という体験型VRMMOだ。体験型VRMMOの多くはその特性から戦闘面やリアルさを追求したゲームが多いが、このゲームはそういった戦闘メインのRPGではなく、のんびり農業やクラフトなどをして過ごすのがメインのゆるゲーだ。

 俺ならせっかくゲームで遊ぶのならリアル重視の戦闘ゲーム一択だが都会で疲れきった社畜たちには田舎でゆっくり雲を眺めながら過ごすのがいい!とマイナーながら好評らしい。


 最近は同じような戦闘ゲームばかりで配信が埋もれがちだし、それなら逆に俺が面白いゲームを発掘して流行りを作ってやろうと、あえて全く興味のないジャンルのゲームに手を出してみたわけだが、正直全くやる気が出ない。

 けれどそこはプロの配信者。視聴者にはダレている姿は見せられない。


『どう、俺のキャラメイク。配信のガワと合わせてみたw』


 現在はダレるであろうキャラメイクシーンを飛ばし、既にキャラ作成を終えイシュタルの休日のチュートリアル状態から配信している。

 俺の作ったキャラは雑談配信などに使うイラストをモデルにした、黒髪に紫のメッシュ、紫の目のアバター。試行時間は30分くらいだ。


『本当はキャラメイクから配信するべきなんだろうけど、キャラメイクって絶対時間がかかってグダるから、今回はカットな。一応録画してあるから、必要があれば動画あげるわ』


 その場で一回転して、俺はモデルの動きを確認する。ゲーム会社のゲームなだけあって動きは悪くない。これならプレイにストレスを感じることはないか。


『でもキャラメイクの質はいまいちだなー男女で同じモデルだから男っぽくしたかったら結構弄らんといかんし、そもそも最初に性別選んだの何だったん?って感じ。最近はLGBTとかジェンダーレスとかで意味分からん配慮ばっかで、逆に不便だよな。ゲーム世界にそういうの持ち出すなっての』


 今のはかなり際どい発言だったが、コメントは【その通り!】【ゲームの世界でくらい現実忘れたいよな】などといった肯定的なものばかりで、俺は満足した。やはりみんな本当はそう思っていても言い出せないだけで、俺は正しいことを言っているのだ。


『んじゃまぁ、早速探索を開始してくけど…………まじで何もないwww見渡す限り大草原wwwwww草wwwwwww』


 表示されるチュートリアルクエストには【村を探そう!】と書いてあるが、おおよそゲーム内とは思えないほど、見渡す限りの田園風景。ユーザーどころかNPCもモンスターもいない。


『このゲーム、車とか自転車とかないん?このあぜ道歩き回るのはダル過ぎw』


 どんなゲームでも最初に便利な移動アイテムが手に入らないのはお約束だが、この長閑なゲームではただ永遠に同じような景色を見続けるのはちょっとダルい。けれど文句を言ったからといって移動手段が出てきてくれるわけでもないので、大人しくチュートリアルに従い、近くの村を探す。

 しかし、その道中で俺はあるものを発見した。


『おっ!あれってモンスターじゃね?』


 背の高い草のせいで姿は見えないが、ゆらゆらと隙間からモンスター名とHPバーが見えている。

まだ武器がないため敵と戦えば危険だとは分かっていたが、チュートリアルの今は死んだとしても大したペナルティは無いと踏んで、俺は草を掻き分けてそのモンスターに近づく。

 しかしそのモンスターの正体を見て、俺は心底ガッカリした。


『モンスターってか野生動物?』


 そこにいたのは、鋭く前歯が飛び出し、少し悪そうにデフォルメされたウサギだった。モンスター名は“暴れウサギ”。特にひねりも何も無いそのまんまのネーミング…………さすがゆるゲー。


『いま武器ないけど、なんか素手でも倒せそうじゃね?』


 ものは試し。俺はとりあえず、こちらを警戒している暴れウサギに向かって殴りかかった。


ドカッ!


【キュッ!?】


『おっ、当たんじゃん』


 殴ってみると、確かに手応えはあった。しかし敵のHPは20あるうち2ポイントしか減らない。つまり素手で殴るには単純計算で10回は殴打しなければならないことになる。


『ひえ〜拳夜弱っ!』


【キュキュッ!】


『いてっ!』


 面倒くさいな〜と思っている所に、ウサギの反撃。50あるHPが3減った。


『う〜ん。大したダメージじゃないから戦闘自体は難しくないけど、特に撮れ高もないしさっさと村探して武器手に入れるか』


 昼間の敵は特に脅威ではないが、このゲームでは昼夜で出現モンスターが異なり、夜のモンスターはそれなりに強いらしい。どうせ戦うならそっちのほうが見どころがありそうだ。初戦闘が夜の敵なら、もしかしたら特別なアチーブメントが手に入るかもしれない。


 俺は突然殴られて怒り狂う暴れウサギを無視して、再び村探しを再開する。そして体感時間10分ほどして、ようやく俺は村を見つけることができた。


『イェーイ、とうちゃーく!』


 村はこじんまりとしていて、家の数は10件かそこらか…………本当に“村!”と言った感じだ。

 そして、本来ならオープンワールド内でプレイヤーたちがそれぞれ好きな村に住み、共存していくという話だったが、見る限りプレイヤは存在しない。


『過疎りすぎててNPCしかおらんwオープンワールドもMMOも無駄遣い過ぎるwww』


 MMOの売りはプレイヤーとの協力プレイにあるのに、こんなに人がいなかったらそれどころじゃない。そういえばこのゲーム、未だに大型イベントがあったとか聞いたことがなかった気もする。その理由が、開始30分で察せられてしまう。


 俺は仕方なく村で適当にチュートリアルを済ませて武器を買い、村人からのおつかいクエスト依頼を受注して、撮れ高を求めて村を出た。目指すは村の北にある森だ。


 そこで更に30分。モンスター討伐と薬草採取をしながら歩いてようやくプレイヤーを示すカーソルを見つけた。


『おっ、第一プレイヤー発見!こんちゃ〜』


『え?あ、こんにちは……』


 そのプレイヤーは必死に木に向かって斧を振り、どうやら木材採取をしていたらしかった。

 俺が声をかけるとそのプレイヤーはその手を止めてくれたが、派手な見た目に反して、その喋り方はうじうじモゴモゴとしている。


『(うん、こりゃゲームではイキってるタイプの陰キャだわ)』


 彼のアバターは赤い髪に金の目、黒いハイネックに白いローブを着ている。イケメン風ではあるけど、飛び抜けた魅力も無いし本人の動きからオタク感がにじみ出ている。

 こいつでは大した撮れ高は期待できそうにないな。


『俺、今このゲームの良さを探す配信やってんですけど〜、ぶっちゃけこのゲーム何が楽しくて遊んでるんすか?』


『え?えっと、他のゲームと違って戦闘メインじゃないところとか?』


『だったらMMOじゃなくてもよくないです?w』


『…………』


 俺が論破すると、オタクくんは反論できずに黙り込んだ。流石ゆるふわゲームはやってるプレイヤーもふわふわだな。


『…………じゃあ楽しんでくださ〜い』


 特にこれ以上面白そうなコメントは期待できそうになかったので、俺は適当にインタビューを切り上げてまたゲーム内の探索に戻った。

 さっきの村は発展度が低いしハズレっぽいので、他の村も見て回ろうか。


『村がある程度発展したらそれ以上特にやりこみ要素とかもなさそうだし、ハズレゲーかなぁ。これで6000円は高すぎ』


 6000円あれば、ソシャゲのガチャを何回出来るか。流行ゲームの新規開拓はこういうハズレを引くこともあるし、時間と金がかかって面倒だ。やっぱり俺は人気ゲームの流行りに乗っかるほうが向いてるかもしれない。




 次にたどり着いた村はかなり発展していて、さっきの村にはなかった冒険者ギルドもできている。冒険者ギルドは村の長老からのお使いをこなして村を発展させていくと出来るらしいが、そんなに熱を入れてやっている物好きなプレイヤーもいるんだな。


俺は中に入り、掲示板に張り出されたクエストを確認する。


『え〜クエストは…………【ひよこの仕分け作業】【おじいちゃんの畑の手伝い】【手紙の配達】【サーモンが食べたい!】。討伐クエスト一個もないし、雑用ばっかじゃん』


 ギルドなら流石に討伐クエストがあると思っていたのに、全くの期待外れだ。こうなってくると本当にこのゲームのプレイはこれが最初で最後かもしれない。

 が、その前に一度遊べる要素は一通り遊んでから評価しなければ、公平な評価は下せない。これでも一応、批評系配信者だからな。


『じゃあとりあえず適当なクエストを受けてみるか…………うおっ!?』


とりあえずよく分からない【ひよこの仕分け作業】とやらを受注してみると、突然違う場所に飛ばされ、仕分け作業に関する説明のウィンドウが表示される。


『へぇ、要はミニゲームなわけね。どれどれ』


 クエスト内容は“制限時間内にどれだけ多くのひよこをオスとメスに分けられるか”という、まんまミニゲームだ。鶏の鳴き声とともにゲームが始まり、次々と目の前に用意されるひよこを左右の籠に分けていく。


『…………地味すぎwww雑談しながらやるのにはちょうどいいけど、こんなんゲーム内ゲームでする意味ある???』


 ふわふわのひよこに触れるのは、まぁ悪い気はしないが、特段面白さも感じない。普段は工場の流れ作業を嫌うくせに、なぜゲーム内ではこういった単純作業をしたがるのか理解ができない。

 俺はとりあえず言われるがまま時間制限までに30匹のひよこを分けて、元のギルド内へと戻ってきた。


『う〜んミニゲームは暇つぶしにはいいけど、このゲームの魅力にはならんかな〜。今のところイシュタルの休日は☆2評価ってところだけど、あとは夜まで待って夜用のモンスターを…………お!』


 俺がゲームについての評価を話していると、視界の隅に可愛い女の子のアバターが通っていった。俺がミニゲームをしている間に来たのだろうか、彼女はクエストが張り出された掲示板の前で腕組をして、どのクエストを受注するか悩んでいる。


『カーソル灰色だけど、あの佇まいは女プレイヤーじゃね?いや、絶対女の子。匂いでわかる』


【VRに匂いなんかないだろwww】というコメントを背に、俺はそのアバター声をかけに行く。




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