転生してプログラムになっても、推しの活動は応援したい

ドンカラス

第1話 転生したらマジのプログラムになってた件

僕は勉強ができなかった。運動も苦手だった。いじめられることも多かった。

それでも友達はいた。少し変わり者だが、一緒にいると楽しい奴が。


僕は普通の人間だ。

そんな僕にも、一つだけ誇れることがある。


それは「最高の推し」がいることだ。その人を思えば、どこまでも頑張れる気がする。


【みんな~、今日も配信に来てくれてありがとう♪】


モニター越しに明るい女性の声が響く。

僕の推し、。彼女はVtuberとして「現世」に降臨した。


彼女の声はいつも明るく、僕に元気を与えてくれる。

画面の向こうで動く彼女の姿は、かごから解放された猫のようにしなやかだった。


その時、後ろから影が立ち上がった。


「君の推し活にはほとほとあきれるよ。こんな場所でまで見るなんてね」


中性的な顔立ち、気だるげに辺りを見回す彼。

短髪だが、風に揺れる様子はどこか少女のよう。白衣を着ているせいで性別の判別も難しい。


。僕の幼馴染であり、天才研究者だ。

海外の学術誌にも論文が掲載されるほどの頭脳を持つ彼の瞳は、不思議と得体の知れない怖さを纏っていた。


「君の推し活に付き合わされるのも、今日はこれで終わりだ。いやあ、気分がいいね」


彼は満更でもなさそうな声色で、気持ちよさそうに背伸びをしながら言った。

僕たちは、バーチャル世界に入り、推しと共に生活できるシステムを研究している。

僕が冗談でツバサに提唱したら、意外に乗り気だった。

もちろん、まだ実現できていない。いくらツバサが天才でも、たった二人では限界がある。


しかも僕はただ大学で学んだ程度のエンジニア知識しか持たない学生だ。

この研究に貢献したと言えるのは、システムの理想像を提案したくらいだろう。

遊び半分で始めたこの研究も、実のところツバサの独壇場だった。


「来週の土曜日にまたおいで。実験の第三過程を始めるから」


そう言って僕を送り出すツバサ。

研究室の廊下の明かりは、もういくつも消えていた。時計を見ると22時を過ぎている。


彼は20歳にして世界を驚かせる研究成果を出し、専用の研究室まで与えられている天才だ。

だが、彼は「飼い猫がいるから」という理由で海外の誘いを断り、僕が気軽に会える距離にいる。


帰り道、いつものようにコンビニに寄った。

街灯の少ない寂れた道だが、家賃の安さで我慢している。


僕は普通の学生だ。

普通に働いて、少しのお金を推し活に使って、たまに実家に帰る。

そんな未来で十分だと思っていた。

時々、何かを残さなきゃという焦燥感が日常に影を落とす、そんな普通の大学生だ。


だが、その夜、劇的なことが起きた。


暗がりからトラックが飛び出した。

僕は身をすくめる。次の瞬間、すべてが暗転した。

鈍い音、体を打ち付ける感覚。そして――意識は途絶えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ホコ、時間だ……おかしいな、名前に反応するよう組み込んだはずなんだが」


遠くで声が響く。

「もう少し観察が必要か……」


それはツバサの声だった。

だが、次第に遠ざかり、代わりに別の音が耳を支配する。


【祠を守るVtuber、はるのここです!みなさん!こここんばんハロー!】


反射的に目を開けると、辺り一面が白い空間。

頭上には、無数のカラスのような影が飛び交っていた。


その先には、はるのここがいた。


「ホコ、なんだ君、推しの声には反応するのか。

全く、ほとほとあきれるね」

ツバサの声が響く。


「ツバサ!ここはどこだ!それに、ここちゃんがそこに……!」


「まあまあ、落ち着きなよ。とりあえず実験は成功したようだ。

けど、安心するにはまだ早い。ほら来たよ、推し活仕事の時間だ」


彼がそう言うと、頭上の群衆から一列の影が落ちてきた。

「…アニメ声きもちわるい?」

それは生き物ではなく「アンチコメント」だった。

やがて言葉は形を変え、犬のような姿になった。


「君は今から推しを守る矛だ。

さあ、出番だよ、君!」

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