婚約破棄された挙句、国外追放された私の話
温故知新
前編
「トレシア・シュトレンゼ公爵令嬢! 貴様はここにいる義妹のレイラ・シュトレンゼを虐めたとして、国母に相応しくない! よって、貴様との婚約を破棄し、レイラと婚約を宣言する!!」
王太子殿下の誕生日パーティーで、私はトリステル王国の王太子であり、婚約者であるラルフ様から婚約破棄を言い渡された。
夜会に参加した貴族達から好奇な目を向けられ、目の前にいるラルフ様とその隣にいるレイラから侮蔑の目で見られる中、何かに耐えるように持っていた扇子をギュッと握り締めると、人混みからお父様とお義母様が現れ、そのまま私の隣に立った。
「殿下、発言の許可を得てもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わないが」
「ありがとうございます。この度、ここにいる愚図との婚約を破棄し、そちらにいると我が愛しい娘と婚約を結ばれるということでしたが」
「そうだが……まさか貴様、この期に及んで娘との婚約破棄を撤回しろとは言わないよな?」
「はっ?」
――そうなの? 私のことを『愚図』と呼んで、政治の道具としか見ていないお父様が? 嘘でしょ?
驚いて隣にいるお父様を見ると、蔑みの目で私を一瞥したお父様が、殿下の方に視線を戻すと媚びを売るような品のない笑みを浮かべた。
「まさか、頭の天辺からつま先まで貴族として完璧でなかった愚図との婚約を破棄し、貴族として完璧な我が娘と婚約していただいた殿下の英断に異を唱えるなど滅相もございません」
「…………」
『良いか、地味な容姿のお前は、頭の天辺からつま先まで我がシュトレンゼ公爵家の一員である。だから、それ相応の振る舞いを心掛けよ。それが、貴様が我がシュトレンゼ公爵家に残れる唯一の方法だ!』
物心ついた頃にお父様から毎日のように言われていた言葉。
私を産んですぐ亡くなったお母様譲りの地味な容姿をしている私は、幼い時からお父様や使用人達に厳しく躾けられ、シュトレンゼ公爵家の令嬢として相応しくあるための厳しい淑女教育を受けながら、お父様に代わって領地経営をしていた。
泣いたら鞭で叩かれ、笑ったら鞭で叩かれ、怒ったら鞭で叩かれ、喜んだら鞭で叩かれ、間違いをすれば鞭で叩かれ、頑張っても『当たり前だ』と蔑まれながら鞭で叩かれ……とにかく、事あるごとに誰かに鞭で叩かれた。
『この世に私の味方なんて誰一人いない』。10歳の頃にそう悟った瞬間、私は喜怒哀楽と引き換えにお父様の望む完璧な貴族令嬢になった。
『フン、ようやくマシになったか。まぁ、これからは淑女教育に加え、領地経営も頼むぞ。何せお前は、我がシュトレンゼ公爵家の令嬢なのだから』
『はい、お父様」
そうして、毎日の淑女教育に加え、領地経営を取り行っていくうちに、いつしかラルフ様の婚約者になっていた。
恐らく、お父様が宰相という地位を利用して国王陛下に進言した結果だろう。
『フン、地味な容姿なお前を俺の婚約者にしてやったんだ。せいぜい、俺のために働けよ』
『そうだぞ。地味なお前はこれから、頭の天辺からつま先まで殿下の婚約者として殿下に尽くすんだ』
『かしこまりました、お父様。これからよろしくお願い致します、ラルフ殿下』
『フン、本当に可愛げない地味な奴だな』
顔合わせの時に私を見下すラルフ様と、それに同調するお父様。
正直、容姿だけで判断する殿下にこの国の行く末が心配だったが、私の役目は殿下を支えること。
それだけに注力すればいいから余計な事を考えなくていい。
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