あらすじ
▶あらすじ
主人公・太秦陽子は、病院から出たことがなく、通学経験のない高校三年生。身体の状態が安定していることから、主治医の息子である幼馴染の広田隆と同じ学校である右京高校への編入が許可された陽子にとって、目に映るものはどれも新鮮。隆を質問攻めにして困らせたりもしつつ、一番気になった部活動について彼に案内してもらうことに。
各部の紹介を受ける中で、陽子はバスケ部・写真部・書道部・園芸部それぞれの部長である、高橋諺・北恒星・武田篆・桐野長流と、隆を通して親しくなる。そんなとある日の昼休み、恒星と諺が陽子と隆の教室へ遊びに来る。篆と長流も呼ぼうという話になり、まず長流を呼びに行く。購買帰りで廊下にいた長流は二つ返事で誘いに乗るも、篆の教室へ行くと篆は嫌そうな顔に。篆を移動させるのは無理そうなので、一行は篆の教室で昼食を広げ始める。「ねぇ、あの女子誰?」「あの子と広田くんはともかく、他全員部長じゃない?」「何してんだろ、部長会議?」等々周りはザワザワ。落ち着いたところで、話の聞き役に徹していた陽子に隆は「折角だから誰かと喋れば?」と勧める。隆と喋ると言うと、彼は露骨に眉を顰める。「なんでオレなんだよ。いつも喋ってるだろ」「……なんとなく?」「なんとなくって、お前なぁ……」等とやりとり。暫し無言で互いに弁当をつつく。その内隆が「……どうなんだよ。学校。楽しめてんのか?」と、ぶっきらぼうながらも陽子のことを気にかける様子を見せる。陽子は「あれが面白い」「これが新鮮」などと報告。とりとめもない会話を続けている内に昼休み終了5分前の予鈴が鳴り、恒星が全員の集合写真を撮った後、昼食会はお開きに。
後日、改めて各部を見学する陽子。体育館へ向かうと、バスケ部はちょうど休憩に入るところ。「あれ? 陽子、また見学? 今日も女バスは休みだけど」「ううん、いいの。高橋くんのほうが顔見知りだし」諺は少し顔を赤らめて照れる。そこへ後輩が登場。「あー! 部長、何赤くなってんすか? もしかして彼女?」「ちげーよ。こいつは広田の幼馴染」「広田って、3年の先輩? 知らねーな。お前知ってる?」「いや。部長、その広田先輩って何部っすか?」「あいつはどこにも入ってねーよ」「あれ? でもウチって確か部活動必修っすよね?」「ばーか。3年は受験とか就職の関係で任意加入だよ。入学ん時言ってただろ」「あー、おれその説明の時寝てたかも」「おれも!」ガハハハ! と笑いが漏れる。つられて笑う陽子に、「バカばっかりでごめんな」と諺。「よしお前ら、そろそろ休憩は終わり。練習再開すっぞ!」とやる気になる彼に、「隅でいいから見学させてもらえる?」と陽子は改めて許可を願う。
別の日、次に写真部を見学することにした陽子は、恒星を探し始める。中庭へ行くと、ベンチに座って熱心に何かを読んでいる恒星を見つける。声を掛けると、恒星が読んでいたのは星座図鑑だった。「星、詳しいの?」陽子の問いに、「いや、全然わかんない」と答える恒星。「今度の部の写真展のテーマが【自分】で、ばあちゃんがつけてくれた名前が【恒星】だから、何か星にまつわる写真にしよう」と考えているらしい。「何か力になれることがあったら教えてね」と陽子。恒星の隣に座り、暫く一緒に図鑑を眺めた。
また別の日、今度は書道部を見学すべく、書道室に入ると、後輩に指導する篆の姿が。「そこ、もっと止めに力を込めて」「そこの払いはもっと思い切って」等々。関心していると、篆が陽子の姿に気がつき、そちらへ歩いてやってきた。「すごいね。いつもそうやって色々教えてあげてるの?」と陽子が尋ねると、「普段はこんなことしない。今日は顧問が出張でいないから」とのこと。篆自身が書いているものを見せてもらうと、意味不明な文字の羅列が。「欧陽詢の『九成宮醴泉銘』だよ」今度の展覧会用に取り組んでいる作品だという。美しいとは思うが、陽子にはサッパリ意味がわからない。そんな、目が点になっている陽子に苦笑すると、「墨でも磨ってく?」と提案。墨を磨るのは初体験だった陽子だが、なんとなく心が落ち着いてきて、意外とハマってしまうのだった。
部活見学最後の園芸部。長流を探しにプランターの並んでいる区画を探す陽子。案の定、そこには例の象の形をした如雨露を手にした長流がいた。「何が植えられてるの?」まだ芽も出ていないプランターを指して尋ねる陽子に、長流は一つ一つ丁寧に教えてくれる。「こっちはかすみ草。これがペチュニアで、そっちがラベンダー」「へぇ~! かすみ草は知ってる! よく贈り物とかにも使われるやつだよね?」「うん、それは花言葉が【幸福】とか【永遠の愛】だからだろうね。ウェディングシーンでも人気の花だよ」「花言葉! じゃあじゃあ、ペチュニアは?」「【心のやすらぎ】だね。【あなたと一緒なら心がやわらぐ】。綺麗な花だし、良い意味なんだけど、うちの部内ではあまり人気がなくてね」「そうなの?」「有名な小説の登場人物の名前と一緒なんだ」「あ、それなら知ってるかも。意地悪な伯母さんの名前だっけ?」「そうそう。花にはなんの罪もないんだけど、なんとなく、ってさ」「そっかー。ラベンダーは、匂いが良いことで有名だよね」「うん、だからこっちは大人気。花言葉は【不信感】とか【疑惑】とかがあるからちょっと怖いのにね」「凄い凄い! 桐野くんって流石、園芸部なだけあって詳しいんだね!」「そんなことないよ。付け焼刃さ。今回植えることになったから色々調べただけで、元々そんなによく知ってる訳じゃないよ」「それでもこれだけスラスラと答えられるんだから、ちゃんと頭に残ってるんだね」いいなぁ~と羨ましがる陽子に、「なんでもないことをこんなに褒められるキミのほうが、よっぽどいいと思うけどな」と、そっと呟く長流。どこか眩しそうに陽子を見つめていた。
各部を見学し終えた陽子は最終的に、「う~ん。やっぱり部活はいい、隆と一緒に帰る」と言う。「まぁ、お前がそれでいいなら」と隆。結局いつもの通学路を歩いていくが、ふと、「いつも真っ直ぐ帰ってるし、たまには寄り道でもしてくか」と隆の提案。ゲーセンに寄り、ファストフード店でお茶。一般的な高校生の体験をさせようと隆が考えたことに気がつく陽子。「ありがとう」「何が」「別に。なんとなく言いたくなったから言ってみただけ」と応酬する。
夏休みが近づいてきたある日。いつものメンバーでお昼を摂っている時、ふと隆に「最近、体調はどうなの?」と尋ねる陽子。「別になんともないけど」と答える隆に、耳聡い長流が「何? 隆クン具合でも悪いの?」と尋ね、周りも「まっさかぁ~。広田に限って調子悪いなんてこたねぇだろ」と騒ぎ出す(隆はこれまで皆勤)。周りが騒ぎ出したことによりそれ以上深く追及できなくなった陽子は「なんともないなら、それでいいの」とだけ告げる。彼女の視線が隆の腕時計に向いていることに気付き、隠すように腕を抑えてしまうしまう隆。
その夜、自宅で嘔吐してしまう隆。腕時計を媒介とした陽子の憑代役は、普通の人間である隆には荷が重すぎ、陽子にはああ言ったものの、隆は無理を重ねていた。陽子のために一年間憑代を務める。そう決めていた隆は、今後も陽子に調子を崩していることを告げるつもりはない。その決意を胸に、腕時計を抑えながら堪えるのだった。
翌日、陽子が学校を欠席する。いつものメンバーに昼時理由をきかれるが「知らね」の一言で済ますも、理由を知らない隆も内心動揺。(どうせ親父となんか喋ってんだろうけど……)とあたりをつけ、気にしないことにする。
欠席した翌日、陽子に突然「カレカノのデートとやらを体験してみたい」と言われる隆。戸惑う隆だが、「これが最後のおねだりだから」と言われ、渋々頷く。終業式前、カレカノのデートとやらを調べる隆に、父親から電話がかかってくる。「調子はどうだ」の問いに「大したことはない」と報告。やはり腕時計を抑える。
デートもどき当日、一通りデートらしい行事を一式終えると、「隆、今までありがとう」と言う陽子。そして手を差し出し、「その時計、ちょうだい」と言ってくる。訳もわからず、「なんでだよ」と問うと、「わたし、今日で【病院】に戻る。学校ごっこはやめることにしたの。みんなには、一学期で転校する、とか、また入院した、とか説明するつもり」と答える陽子。納得いかない隆は拒否しようとするも、後ろから白衣姿の男たちに囲まれ、薬を嗅がされる。「ごめんね、隆」という声が聞こえた後、隆の意識はそこで途切れる。
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