神足くんは盗るのが上手い
ウエス端
第1話 神の足
「おおーっ、スゲェー! 今日6盗塁目!」
「まさに神の足だー!」
「その調子で本塁も頼むぜー!」
オレの名は、神足 隼人。
先に言っとくが『かみあし』じゃないから。
神の足と書いて『こうたり』と読むのだ。
まあ、学校でもどこでも大抵の通り名は『かみあし』か『しんそく』だけど。
そんな少し変わった苗字のオレは、高校2年生で高校球児でもある。
で、今は同じ市内の学校と練習試合なのだが。
今日はスタメン起用されてバッティングの調子もよく、ここまで2安打1四球で出塁のたびに2盗、3盗をセットで決めている。
相手キャッチャーは強肩で知られるが、それをかいくぐっての盗塁は格別に気持ちいい。
そしてオレは今、1つの企みをしている。
同点で迎えた9回表1死3塁。
ウチの打者は左打席で相手ピッチャーは右投げ。
この状況で仕掛けるのはセオリーに反している。
それでも牽制が5回入って、明らかに警戒されているのがわかる。
だがそういう状況は、寧ろオレの闘志を燃えたたせるのだ!
ピッチャーが投球モーションに移る瞬間を狙って走り出す。
既に牽制を送る時のモーションを盗んでいるから躊躇はしなかった。
しかし相手バッテリーは待ってましたとばかりに左打者の外角低めにストレートを投げてきた。
キャッチャーは既にアウトを確信した顔……だけど、オレの足は止められねえ!
既にベースのすぐ前まで来ていたオレは、ミサイルの如きヘッドスライディングをかます。
それでもタッチしてきたキャッチャーミットを、オレは半身を回転させながら巧みに避け……少しベースを行き過ぎてから右手を伸ばしてタッチして、見事にホームイン!
「うおぉーっ! 練習試合とはいえホームスチールやりやがった!」
「さすがはしんそくー!」
観戦している他の運動部の奴らからの賛辞が聞こえる中、オレは意気揚々とベンチへ引き上げたのだ。
「隼人、見事なホームスチールだったな! おかげでウチが1点リードだ」
「へへっ。あんがと、おじさん」
「隼人! 『おじさん』じゃなくて『監督』でしょ! それに敬語で話しなさい!」
「まあ、俺はもうどっちでもいいけど」
「ダメよお父さん! いくら私と隼人が幼馴染でお父さんとも顔馴染みだからって、公私のケジメはつけないと。部内の規律を保てないじゃない」
「オレにはそんなこと言ってるけど、友梨だって今『お父さん』って公私混同したじゃないか」
「またそんな屁理屈を……そういうのは許さないから!」
「どう許さないっていうんだ? お前にはオレを捕まえられねーよ!」
「言ったわね! 待ちなさい隼人!」
「……どうでもいいが、そろそろ守備の準備をしといてくれないかなぁ?」
結局試合はオレの本盗が決勝点となり、ウチが5−4で勝利した。
オレは今のチームでは準レギュラーという立ち位置だ。
試合終盤の勝負どころでの代走と外野守備固め、時々スタメンで使ってもらえるって感じである。
ウチは強豪校じゃないけど、新設校で今の3年生が初めての入学生たちだ。
そのせいかあまり高校野球らしくない、できる役割に応じた起用を監督が考えてくれるのだ。
なお、さっき口やかましいことを言っていたのは、中原 友梨。
家が近所で幼稚園からの顔馴染みだ。
自分の父親が監督をやってるこの学校へ、そして野球部へオレを誘い込んだ張本人でもある。
更に自らもマネージャーとして入部し、ことあるごとに説教をかましてくるのだ。
でも、中学まで野球のルールもロクに知らず、それどころか色々あって素行が良くなかったオレにやりがいを見つけさせてくれたことには感謝している。
試合後、オレは学校の寮へ戻り、自分の部屋で一息ついた。
ベッドと机だけがある6畳一間とトイレと洗面所の狭い部屋だが、オレにとって唯一のくつろげる場所だ。
そしてトイレに入ろうとドアを開けると、眼の前には異世界の空間が広がっていた。
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