少年呼びお姉さんと僕の逃避行

ラーさん

第1話 少年呼びお姉さんと相席になる

「どこまで行くつもりだい、少年」


 京浜急行の三崎口行き特急のクロスシートで、僕と相席になって座るお姉さんにそう声を掛けられたのは、横須賀中央駅を過ぎたぐらいのときだった。


「え、と……」

「まあまあ聞きなさい、お姉さんの名推理を」


 突然のことに戸惑う僕を置き去りにして、さらさらショートボブの綺麗な顔のお姉さんが上機嫌に話し出す。清潔感ある卸したてらしきスーツに身を包んでいながら、途中駅で僕の隣に座ってからずっと缶チューハイを飲んでいる、ちょっと変な雰囲気のお姉さんだった。


「んー……土曜の朝から電車に一人で乗っている緊張した顔の学生服の少年。確か今朝のニュースで今日は大学共通テストの日だと言っていた。すると受験生か? しかし今さっき試験会場になりそうな大学のある最後の駅を通過して、この先はもう三浦半島の最果て――」


 赤ら顔のお姉さんは僕の身体を上から下までなめるように見ながらフムフムと頷き、


「さてはキミ、試験ばっくれてきたね?」


 そう、決めポーズのように僕の顔に指を突きつけてニヤリと笑ったのだった。


「……えと、はい」


 こんな無遠慮で酒カスそうなお姉さんにズバリと当てられてしまうほど、僕は今の自分が傍目はためにそんなに分かりやすい存在だったことにショックを受けた。そう、僕は志望校合格を目指して勉強してきた今までの人生のすべてをふいにして、試験会場とは反対方向の電車に乗り、逃げるようにその終着駅へとむかっていたのだった。


「……そんなに見た目に出てましたか?」


 思わず訊ねると、お姉さんは得意げな顔で腕を組みながらうんうんと頷いた。


「モチのロンですよ。一人なのにスマホ出してないとか、面倒な連絡遮断したいから電源落としてるでしょ? わかる。そういう同族感というか、シンパシーがあたしの感性にビンビンと――」


 スマホの状態をズバリと当てられて驚きつつ、お姉さんの言葉に引っ掛かりを覚えて訊き返す。


「同族?」

「ああ」


 そこでお姉さんはスーツの内ポケットからスマホを取り出すと、


「あたしも今日は入社試験ばっくれてきたんだ」


 そう笑って電源の落ちたスマホを見せながら、缶チューハイのお酒を一気に飲み干したのだった。

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