第2話

 放課後。

 俺は教室で勉強させられていた。

 先日受けた中間テストが酷かったので補習を受けている。

 入学してからラブコメイベントを探し回っていた俺はろくに勉強しておらず、こうなるのも無理はなかった。

 さっきまで先生が色々と教え、今は小テストを解いていた。

 先生は「やることがあるから」と出て行ってしまったのでここにいるのは二人だけだ。

「ふー。終わった……」

 小テストは基礎的なことの復習だけなのでなんとかなりそうだ。

 俺が安堵していると隣の席に座っていた女子が頬杖をついてため息をついていた。

「まさかアキラと補習を受ける羽目になるとはね」

 女子の名前は春梨 梢(はるなし こずえ)

 幼稚園から知っている幼なじみだ。

 春梨は小柄な体にショートボブを揺らし、面倒そうに俺を見ている。

 相変わらず色気がない。

 最近のラノベヒロインは総じて胸が大きいから、それと比べるとないも同然だった。

 まあ胸以外はスタイルも悪くないし、顔も黙っていればそこそこ可愛いけど、ヒロインには到底なれない風貌だった。

 幼なじみはラブコメの基本だが、こいつには一途さも優しさも皆無だ。

 もっと毎朝起こしてくれるような幼なじみが欲しかった。

 両親がいない時に夕飯を作ってくれるような幼なじみが。

「…………はあ」

 俺がため息をつくと春梨はムッとした。

「人の顔見てため息つかないでくれる?」

「しょうがないだろ。放課後に女子と二人きりっていうシチュエーションに期待してたのに、蓋を開けてみればお前だったんだからな」

「なによそれ? なんであたしががっかりされる側なわけ? オタクと一緒にさせられるあたしの方が被害者でしょ」

 幼なじみなので当然春梨は俺がオタクだと知っている。

 にしても被害者とはなんだ。

 俺は眉をひそめた。

「お前だってオタクだろ。ラブコメ漫画ばっかり読んでるくせに」

 春梨はカッと顔を赤くして立ち上がった。

「ちょっと! 学校でその話しないでよ! 隠してるんだから!」

「お前こそ言うなよ! 俺がラノベオタクだってこと! 昔のラノベまできちんと読んでるタイプだなんて絶対に!」

「隠したいのか自慢したいのかどっちなのよ……」

 春梨は呆れながら椅子に座り、シャーペンを机に転がしてまたため息をついた。

「はあ……。アオハルしたい……。アキラみたいな奴とじゃなくて背が高くて運動できて勉強もできる優しく爽やかな実家が太いイケメンと」

「そんな奴が実在したとして、お前を選ぶわけないだろ」

「分からないでしょーが! あんただって理由もなく好きになってくれるエロい巨乳女子高生なんて存在しないって早く気付きなさいよ!」

「いやだ。気付きたくない。できれば一生気付きたくなんてない」

 俺は頭を抱えて否定した。

「いる。いるんだ。ことある毎に胸を押しつけてくる明るい巨乳女子はいるはずなんだ」

「いるわけないでしょ。そんな痴女」

 春梨は嘲るようにハッと笑う。

「お前が理想とするイケメンもいねえよ」

「やめて! 言わないで!」

 春梨は目を瞑ると両頬に手を当ててかぶりを振った。

 俺はお返しとばかりにハッと笑ってから春梨と一緒に俯いた。

 そして同時に口を開いた。

「こんなはずじゃなかったのに……」

 俺は言った。

「もっとこう、美少女達との楽しい日々を想像してたのに……」

 春梨は言った。

「イケメン達があたしを奪い合うはずだったのに……」

 俺達は同時にため息をついた。

 俺は遠い目をした。

「まあ、そんな上手くいくわけないけどな」

 一方春梨は睨み付けるように強い目で告げた。

「あたしはまだ諦めてないわよ! せっかく高校生になったんだから青春しないでなにすんのよ! 決めたわ!」

「……なにを?」

 俺が訝しむと春梨は立ち上がると右手の人差し指を立てて宣言した。

「今からここをラブコメとする!」

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