このみち あるくな
口羽龍
このみち あるくな
将(まさる)は山道を歩いていた。将は全国各地の古い山道を歩くのが趣味で、様々な旧道を歩いている。そしてその様子をYouTubeでアップロードしていて、多くの人々が見ている。チャンネル登録者は3桁で、そこそこ人気だ。
「今日はここを歩いてみよう」
将は旧道の入り口を見つけた。今日歩く旧道は、黒辻(くろつじ)峠だ。今では長いトンネルができ、ほとんどの人は長いトンネルでこの峠を抜けていく。今では誰も越えようとしないという。噂によると、その峠を歩いた人は、帰ってこれないと言われている。だが、そんな噂を将は全く信じていなかった。噂なんだ、絶対に帰れるだろう。自分が最初の生還者になってやる。
将は旧道の山道を歩いていた。遠くから川のせせらぎが聞こえる。だが、この辺りには川が見えない。ずっと谷底にあるんだろう。この辺りは雑木林で、人気が全くない。昔からここには集落がなかったようだ。とても寂しい場所だな。昔は多くの人が行きかったと思うと、昔はどんな雰囲気だったんだろうと想像したくなる。だが、全く想像できない。
「昔はここを旅人が行きかっていたんだな」
歩くたびに、斜面がきつくなってきた。だが、将はまったく気にしていなかった。もっと険しい道を歩いてきた。そんな将にとって、この山道はどうってことないようだ。
歩くたびに、将は感じていた。徐々に高度を上げている。見えていたトンネルは全く見えない。そこを通る車の音が聞こえなくなった。歩く人は誰もいない。というより、ここにいる人は誰もいないようだ。
少し歩いていると、廃屋が見えてきた。その廃屋は朽ち果てていて、もう何年もそのままのようだ。もう誰も澄んでいない。見た目からして、これは茶屋の跡だろう。いつの時代からあるんだろう。外観から見て、江戸時代の頃からあるようだ。
「これは、茶屋の跡かな?」
将は立ち止まり、その廃屋を見た。その廃屋は、何年も誰かを待っているようだ。だが、もう誰も来ないだろう。そして廃屋は、そのまま朽ち果てていき、そして倒壊してしまうだろう。それは仕方ない事なんだろうか? これを再利用しようという動きはなかったんだろうか?
将はベンチに座った。ベンチはプラスチック製だ。比較的新しいようだ。将はベンチに座り、向こうに広がる雑木林を見ていた。この茶屋が現役だった頃も、こんな風景だったんだろうか? その頃は、どんな雰囲気だったんだろう。実際に見てみたい気持ちでいっぱいだが、見る事は出来ない。
「昔は多くの人が休んだんだな」
江戸時代、ここが街道だった頃は、多くの人が行きかい、にぎやかだったんだろうな。今では全くそれが想像できない。その頃に歩いてみたいな。だけど、それはできない。
将は目を閉じた。川のせせらぎ、小鳥の鳴き声が聞こえる。将の住んでいる都会とは全く違う雰囲気だ。そして、なぜか癒される。どうしてだろう。
「歩こう」
将は再び歩き出した。頂上まではまだまだ遠い。まだまだ険しい山道を登らなければならない。頑張らなければ。
少し歩くと、開けた場所に出た。将は外の風景を見た。より一層いい眺めだ。こんな風景が見られるとは。調べたサイトでは、こんな眺めは載っていなかった。こんな風景が広がっているとは。とてもいい眺めだな。自分のサイトに掲載しないと。
「まだまだ頂上は先なのか」
だが、まだまだ頂上は先だ。少し一休みをしよう。そして、また頂上に向かって歩きだろう。
「こんなに高く登ったのか」
将はその風景に見とれていた。とてもいい風景だな。今さっきの眺めよりずっといい。そして、さらに高く登ったんだと実感した。でも、頂上はもっといい眺めなんだろうなと思うと、頂上に行ってみたいという欲望が増してくる。
「いい眺めだなー」
将は再び歩き出した。この先はまだまだ上り坂が続いている。頑張って歩かなければ。
しばらく歩いていると、『頂上まであと1km』の看板を見つけた。その看板はさびていて、よく見えない。
「頂上まであと少しだ! 頑張るぞ!」
そう思うと、将はやる気が出てきた。ゴールが見えてきたら、気力がわいてくるのは、どうしてだろう。自分にはわからない。
と、将は誰かの気配を感じて、振り向いた。だが、そこには誰もいない。誰かがいるような気がしたんだけどな。
「ん?」
将は首をかしげた。いったい誰なんだろう。全く見当がつかない。ここを歩いている人が他にいるんだろうか? いや、ここを歩いているのは自分1人だけだ。誰も行きかっていないのだから。
「誰もいないなー」
怪しいと思ったが、頂上まで頑張って歩かないと。早く歩かないと、日没が過ぎてしまう。それまでに旧道を抜けないと。先に進もう。
「まぁ、いいか」
将は再び歩き出した。頂上まであと少しだ。頑張って歩かないと。
「あれっ!?」
将は再び振り返った。やはりそこには誰もいない。次第に将は焦ってきた。ひょっとして、ここを通ったら帰ってこれないって、まさか誰かに殺されるって事だろうか? いや、そんな事はない。この辺りには誰も住んでいないのだから。
「やっぱりいないなー。誰かいるような気がしたんだけど」
しばらく歩いていると、峠の頂上に着いた。とてもいい眺めだ。それを見ると、ここを登ってきてよかったと感じる。
「ちょっと一休みするかー」
将は頂上からの風景をしばらくじっと見ていた。本当に素晴らしいな。みんなにもこの景色を見てほしいな。そして、何かを感じてほしいな。
「うわっ!」
突然、将は誰かに押された気がして、振り返った。そこには、血みどろの男がいる。将は冷や汗をかいた。ほどなくして、将は谷底に落ちた。男はその様子をじっと見て、笑みを浮かべている。まるで落とすのを楽しんでいるようだ。
将は谷底に落ち、亡くなった。だが、遺体は見つからなかったという。ただ、将の血だけが川べりで見つかったという。
かつてこの峠では、谷底に落ち、自殺した人がいるという。それ以来、この峠を通る人は、みんなどこかで命を落としたという。その理由は、誰もわからない。
このみち あるくな 口羽龍 @ryo_kuchiba
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