美しい世界で
@soboropan
第1話 生きる意味
「なんて汚れきった世界なんだろう」
朝のニュース番組を見るとウンザリする。
地球温暖化に国家の間のギスギスな関係性。
国内の政治家もなにかある度に裏金だの悪徳政治なんかで常に汚い。
「問題だらけのこんな世の中に未来なんてあるのかね。」
ふとゲーム中の弟に愚痴を吐く。
「知らん。どうでもいい。」
どうやら弟は社会政治よりもゲームで勝つことの方が重要らしい。俺もそうやって何も考えずに生きてーなー、なんて考えながら呑気にソファに寝っ転がる。夏休みで特にする事もない俺はただひたすら思考だけを巡らせていた。なにせ友達も彼女も居ない俺だ、夏休みだからと言ってキャッキャウハハできる訳もない。
そんなどうでもいい事を考えてた矢先、
「ピンポーン」
家中にチャイムが鳴り響く。俺はボサボサな髪を掻き回しながらドアを開け放つ。
「どちら様ですかァ?」
気怠げな俺の呼び掛けに応じたのは、うちの高校の制服を身に纒う見知らぬ女子だった。凛とした立ち振る舞いで、肌は雪のように白く、黒真珠の瞳をしたお人形さんみたいな人だった。
「同じクラスの響ちゃんでーーす!!」
見た目からは想像もつかないパワフルな声に俺は圧倒され立ち尽くした。しかも家族以外と殆ど話していなかった俺にとってこの美人との会話はあまりに難易度の高い事だった。
「なんの、、用?」
喉から捻り出した声はカッスカスで汚かった。
彼女は太陽の様な満面の笑みで言葉を返す。
「何だと思う?考えてみてー!解答権は3回までね。」
質問を質問で返すなよ、という思いは胸にしまい込み、しょうがないのでその問題に付き合ってやることにした。しかし本当に何なのだろうか。普段から交友関係の薄い俺は悩みに悩んだ末に、
「俺に会いたかったのかな?」
というイケメンにしか許されないキザなセリフを吐き捨てた。死にたい。
「ぶっぶー、不正解です。正解は、先生に頼まれて成績表を持ってきた、でしたー。君、終業式の日休んだでしょ?だから家が近い響ちゃんが持ってきてあげたんです。」
得意げに彼女は悠々と語り始めた。残りの解答権どこいったんだよ、と思いながら彼女の語りっぷりを聞く。お喋り好きなのか知らないが彼女はそこから30分間俺に話し続けた。彼女の話は聞いていてなんだか心が安らぐようで妙に落ち着く。この声を聞いてると今さっきまで考えてた社会問題やらがバカバカしく思えてきた。
そんな安らかな時間も終わりを告げ、彼女は話終えるなり軽やかに去っていった。
その日からだ、俺の人生に色がつき始めたのは。夏休みが終わってからの学校生活で、俺は響ちゃんを目で追うようになっていた。目で追う度に夏休みの出来事が思い出される。度々俺にも話しかけてくれる響ちゃんはいつしか俺のアイドルになっていた。も一度話したい、そんな衝動に駆られる日々の中、俺が彼女を好くのには半年も掛からなかった。その間の進展と言えば連絡先を交換したぐらいだ。
連絡先を交換してからは毎日メッセージのやり取りを欠かさなかった。ウザイ程に。毎日夜中にスマホを開きメッセージを送る、この日課だけで俺は、生きててよかった、と思えた。
彼女は俺の好きな人であると同時に俺の生きる意味にもなっていった。だから俺は彼女のために頑張ろうと思えた、この世界で。この薄汚れた世界で。
「さーて今日も学校頑張りますか!」
そんな気持ちでいつものように朝のニュースを見る。
「速報です。〇〇国が日本に対して宣戦布告を行いました。専門家の話によりますと、これは第三次世界大戦の引き金になり得るという事で、、、」
は?
第三次世界大戦?
そんなの空想上の話だろ?
なに言ってんだよ
これ
おい
俺の思いとは裏腹に無情にもテレビは真実を垂れ流し続けていた。
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