冬青の国の物語
@yau_raimei
プロローグ
プロローグ
「いつも通り、明日の夕方には戻るわ」
「ええ、そうしてちょうだい」
はい、と母上に返事をすると、わたしはひょいと軽く飛んで愛馬に
「二人も、頼んだわよ。気を付けてちょうだいね」
二人の一人、私の
もう一人は
月に一度のいつもの光景だ。
「では行って参ります。母上」
「行ってらっしゃい」
手を振る母上にわたしが手を振り返す。愛馬に脚で合図を送る一瞬早く、愛馬が歩き出した。この子もいつものことだからと、思っているのだろう。
『いつものこと』は温かいけれど、ちょっとだけ退屈。揺れる愛馬の上でそう思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「これが報いだ、お前の罪のな」
帝国の処刑人はそう僕に言い放った。
生まれ故郷の村を一望する丘の上、僕は
無数の侮蔑と
足元では処刑人たちが
どうやら僕は串刺しではなく
村は
ここからでも殺された村民の
あの曲がった背中は三軒先のお
――これが僕の罪のせい……。
帝国の処刑人は僕がこの村の出身と知ってわざわざ村を襲い、その
僕は魔法使いである。魔法使いの適性は
少ないだけであればよかったのだけれど、他の者が一切できない魔法という特別な力を使うのは、恐怖と嫉妬の対象となった。それは容易に憎悪と嫌悪に変化する。
魔法は強力だ。だから味方からは頼りにされ、その憎悪と嫌悪を内に隠してくれる。
一方、敵からはむき出しの憎悪と嫌悪が向けられるのだ。
事実、帝国では他国の魔法使いを悪魔の子と呼ぶのが一般的である。
さらに悪いことに魔法の力で仲間が殺された場合、それが魔法使いによるものだと簡単に分かる。
それは魔法使いが捕まれば報復を
そして僕は今、その報復を受けているのだ。
圧倒的な軍事力を持つ帝国が突如として僕の暮らす国『王国』に侵攻し、戦争が始まった。
王国の防衛線はいとも簡単に突破され、前線で孤立した僕は力尽き虜囚となった。
「おい、悪魔のガキ! お得意の魔法はどうしたぁ」
処刑人のニヤニヤとした顔が目に入る。
当然、魔法使いをそのまま捕まえておけるわけがない。魔法使いは魔法使いによって魔封じの術をかけられ捕まえられる。
この処刑人はそれを判ったうえで言っているのだ。
「何とか言ってみろよ。つまらん奴め」
魔力回廊を開こうとしてみる。
――うっ
頭が爆発し四肢が裂けるような痛みが全身に襲い掛かる。捕まってから何度やっても同じだ。これが魔封じの効果だ。
「フハハハハ! こやつ魔法を使おうとしたぞ。馬鹿な奴め。帝国の魔封じが破れるものか」
処刑人が僕を怒らせよう、怒らせよう、としていることはわかっている。それでも思わず
目が合った。
「悪魔のガキ、止めておけ。やっても痛みで気絶するだけだ。それじゃぁ面白くない」
いや、意識があるまま焼かれるのと気絶したままで焼け死ぬのならば、意識がない方がまだマシかもしれない。どうせ死ぬにしてもこのまま破壊された村を見るのもつらい。
「おっと、余計なことを考えるなよ。おい、お前。悪魔のガキが気を籠め始めたらぶん殴って邪魔してやれ」
取り巻きの部下が、はっ、と答えた。こいつもニタニタした顔つきで気色悪い。
どうしても意識のあるまま焼き殺したいらしい。
自分の中で闘争心が
村を、村人を巻き込んでしまったことが悲しい。助けられないことを心の中で
僕がこの村の出身と知られなければ、捕らえられなければ、軍隊に行かなければ、いや、魔法が使えなければこんなことにはならなかったのではないか。
先ほども自分のことで腹を立てて魔法を使おうとした。浅はかで自分勝手な人間だ。
「執行官殿、こんなものがありましたぜ」
帝国兵の声で後悔の殻から現実に戻った。
「なんだぁそれは」
「油のようですぜ」
処刑人は、ほう、と言うと帝国兵の持ってきた
コバルト色の光沢のある滑らかな陶器の
伝説では、この地を
「
「へい、中の油を少し出して火を付けてみたんですが、そりゃーよく燃えました。どうです? あれに使っては」
そう帝国兵は言うと僕を見やった。
――悪趣味な
「ふむ、それも面白かろう。おい、奴にかけてやれ。
部下の男が
「よし、いいな」
そう言うと処刑人は
「諸君! 皇帝陛下の
地響きのような帝国兵の歓声があがる。
処刑人は僕に近づき、
炎が聖油に燃え広がる。
その瞬間、炎は爆発的に広がり、渦巻く炎の柱となった。
僕が最後に見たのは、赤く荒れ狂う炎の奥に
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お読みいただき、ありがとうございます。
応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。
誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
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