第5話 2分勝負。

 それから幾つかの年が過ぎた。結婚適齢期の終わりに差し掛かる琥珀を、些か心配していた。外面こそ良いものの、深くは踏み込ませない何かがある。それが心配で心配で仕方が無かった。そんな琥珀にも春が来たようだ。小動物感のある女性と二人で親しげに歩いているところを見かけたのだ。幸せそうで、デートだろうか。少し藍の心にモヤがかかる。なんとも言えないこの気持ち。藍は知らなかった。


その日の晩、藍は余裕が無かった。琥珀もそれに気づき、心配した。体調でも悪いのかと。


「琥珀。昼間の女はなんだ」


「何って。」


「お付き合いしているなら紹介してくれてもいいだろう。」


「良い人は居ないって、興味ないって言ってたではないか。」


二人の間に沈黙が流れる。


「ごめん。俺が言う筋合いは無いな。もう良い好きにしろ。俺は……関係ないもんな。」


「嫉妬…………?藍が嫉妬した!」


「嫉妬?俺は嫉妬していたのか?」


「安心して、藍は今も昔も僕の一番だよ。」


「それはありがたいが、お前はそれで良いのか?」


「良いも何も。あの女の子とは何も無いし、藍について惚気てただけだし。」


「惚気?何を惚気るのだ。」


「例えば、僕の腕の中で寝る藍の寝顔が可愛いとか。着痩せするから、意外とムキムキだとか。」


「それを他人に話して何が楽しい。」


「えっ。好きな人の話をするのは楽しいでしょ?」


「好き?琥珀が俺を?」


「そうだよ。オナニーのオカズにもするし、藍のエッチな夢みちゃうし。」


「そ、そうなのか?」


「藍は?僕のこと好き?」


「そりゃ琥珀の事は好きだ。でもそれが性的な意味かと言われると分からない。」


「そう。なら分からせればいいんだ。」


琥珀は藍を押し倒す。


「ちょっと待て、なにする気だ。」


「これからキスとか愛撫とかするから。2分で藍が勃起しなかったら俺の負け。もう手出さない。」


「勃起したら?」


「恋人になって貰う。」


「やらないと言ってもやるんだろうな。腕っぷしじゃお前に負ける。」


「じゃあ、始めるよ。」


何処からか出てきたタイマーを2分に設定して、ピッという音と共に始まった。


両手を頭の上で固定され、馬乗りになり深い深い口づけが始まる。どこで息をしているのか、口づけも長く深く息つく暇もない。


「ハァハッ…………。」


「んふっ。かわいい。」


「こちとら、数百年ぶりなんだ。ハァハァ。」 


「じゃあ、それだけ溜まってるってことだ。」


首の鱗と皮膚の間をなぞる。藍の身体が跳ねる。その手はそのまま下に行き乳首を弾く。


「あぅフゥン。」


「かわいい声。もっと聞かせて」


手から解放された乳首は休む暇なく琥珀の口に収まる。その間も手は藍の身体をなぞって行く。


ピピピピー


「僕の勝ちだね。隠してもムダだよ。事実は変わらないから。諦めな藍。」


琥珀は獣のような一人の男の目をしていた。


「ねぇ。このまま抱いて良い?」


「ダメと言っても、抱くだろう琥珀は。」


「もちろん。」


その語尾には音符が付きそうな嬉々とした表情で言った。いつの間にこんなにも成長したのだろう。服を着ていた時から分かっていたが、俺に負けず劣らずのその肉体美。その上に巨根である。幼い頃にお風呂に入った以来だからびっくりした。


「そんなに見つめないで。僕の身体が魅力的なのは分かるけど。」


「しょうがないだろ。思ってた以上にしっかり成長してたんだから。」


「ふーん。」


まともに言葉を発せたのは今晩これで最期だった。

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