琥珀が藍に残した物。

天月虹花

第1話 プロローグ

 永遠の命を持つ男がいた。愛する者も皆先に死んでいく。男は愛する事を辞め、愛を捨てた。唯一愛したのは、孤独だ。孤独を愛し、孤独に愛された。


 どうして男が永遠の命なのか。男すらも分かっていなかった。生まれた頃から人ならざるものだった。人間から生まれたにも関わらず、彼は人間になれなかった。片手で数えられる年齢の頃に生えた角。生まれた時からある牙。首から肩にかけて広がる鱗。人間の形をしているのが救いか、それとも…………。もういっそのこと死にたいとすら思った。けど死ねない。いくら火に包まれようが、血が噴き出そうが彼は死ねないのだ。そんな彼を愛した人がいた。彼は失うのが怖くて最期まで愛を返さなかった。彼女は彼を庇って死んだ。庇わなくとも彼は死なないというのに。傷つくのすら許せない程愛されていた。男は絶望し後悔した。失ってから気づくものが大きすぎた。彼女に愛を返していたら……。一回でも良いから愛してると言ってやれば良かった。後悔しても、もう遅い。彼女はいないから。今まで愛した人の比ではないくらい悲しんだ。だから嫌だったのだ。特別を失う。それがどんなに苦しいことか。だから愛す事を辞めたのに。彼女が心をこじ開けるから。男はまた心を閉ざした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る