6

 光が収まると、そこは見覚えのある場所だ。東京オリンピックの舞台になった、国立競技場だ。東京オリンピックは無観客の試合ばかりで、興奮にかけるものがあったが、日本代表が数多く金メダルを獲得して、とても興奮したな。


「あっ、これは国立競技場!」

「本当だ!」


 よく見ると、それはヴィッセル神戸の試合だ。これは天皇杯だろうか? かつて天皇杯は、毎年正月に決勝戦を行っていた。だが、今は11月の下旬にやっている。去年11月、天皇杯の決勝戦が行われて、ヴィッセル神戸が優勝した。


 希望はピッチを見渡した。と、そこにはイニエスタやビシャの姿がある。この頃はこんな大物がいたんだ。大物がヴィッセル神戸に入団した事で、ヴィッセル神戸は徐々に強くなっていった。


「イニエスタやビシャがいる!」

「本当だ!」


 勇気も気が付いた。ここは2020年の天皇杯だ。この頃は新型コロナウィルスが日本に上陸していなかった。この頃はまだ賑わいがあったんだな。


「だとすると、2020年の正月に天皇杯を制した時かな?」

「きっとそうだ」


 彼らは感動していた。降格も経験した、決して強くなかったヴィッセル神戸がここまで強くなったのは、きっとファンのおかげだけではないんだなと。


「やっと栄冠を手にできたんだね」

「うん。今ではとても強いけど、それまでは降格もあったんだよ」


 希望も知っている。かつては残留争いをするようなチームだった。だが、ここまで強くなった。これからもっと強いチームになっていくだろうと思っている。


 だが、これから世界は新型コロナウィルスによって、停滞ムードになった。あらゆるイベントが延期、中止になった。どうしてこんな日々になったのか、どうしてこんなウィルスが蔓延しなければならなかったのか? これは神の試練なんだろうか?


「だけど、ここから日本は新型コロナウィルスで停滞してしまうんだね」

「そうだね。あれで東京オリンピックが1年延期になったし」


 あれだけ楽しみにしていた東京オリンピックが1年延期になった。やるべきではないという人も出たが、予定通り1年後に開催された。もし、新型コロナウィルスがなかったら、どんなに盛り上がっていたんだろう。どんなに感動できたんだろう。


「残念だけど、仕方ないんだね」

「うん」


 希望は思った。どうして神様は人間に試練を与えるんだろう。地震に、ウィルス。どうしてこんな世界になったんだろう。あまりにもひどすぎるよ。


「どうしてこんな世界になったのかな? 地震も、ウィルスも」

「そうだね。どうして神様は、こんな試練を与えるんだろう」


 勇気も考え込んでしまった。あってほしくないのに、どうしてこんな事があるんだろう。


「乗り越える力を試すためかな?」

「うーん・・・」


 と、再び光が2人を包んだ。


「わっ!」


 目を開くと、そこはほっともっとフィールド神戸だ。ほっともっとフィールド神戸と書かれているので、これは最近の事だろう。もう冬が近いんだろう。観客は寒そうな様子だ。いつもと様子がおかしい。それに、厚着を着ている選手もいる。


「ここは?」

「ほっともっとフィールドだ!」


 と、そこに中嶋監督の姿が見えた。これはオリックスバファローズの試合だろう。いったいいつだろう。全く見当がつかない。


「あれ! 中嶋監督!」

「オリックスバファローズだ!」


 と、勇気は思い出した。まさか、2021年の日本シリーズだろうか? この年も新型コロナウィルスの感染拡大のために開幕が遅れた。クライマックスシリーズも含めると、11月の中旬から下旬にかけて行われる日程になった。ここまで遅れるのは普通ではありえない事だ。とっくにストーブリーグに入っているはずだ。


「ひょっとして、2021年の日本シリーズ?」

「そうかもしれない」


 と、希望は考えた。ここで日本シリーズが行われるのは、オリックスブルーウェーブが日本一になった1996年以来、25年ぶりだろうか? 久々に見れて、観客は幸せだったと思うし、コーチや監督になったあの時の選手は、どんな思いで見ていたんだろう。


「日本シリーズはここで行われたんだね。まるであの時の日本シリーズのようだね」


 だが、オリックスバファローズは日本一になれなかった。6戦ともいい試合だったのに残念だ。できれば、日本一をここで決めてほしかったな。だったら、とてもドラマチックだったのに。だが、もう過ぎた事だ。


「残念ながら日本一にはなれなかったけど、翌年は日本一になったんだね」

「ああ」


 そして去年の最終戦の直後、中嶋監督は突然、辞任を発表した。誰もが驚いた。今年からのオリックスバファローズはどうなってしまうんだろうか? また上位には入れるんだろうか? それとも、また低迷期に入ってしまうんだろうか? それは、新しい監督、岸田護の手腕にかかっているだろう。


「そんな中嶋監督は今年、やめてしまった。今年のバファローズはどうなるのかな?」

「わからないけど、期待しよう」

「うん」


 3連覇した選手が数多く残っている。まだまだ栄光を取り戻せるかもしれない。期待しよう。これからも応援していこう。


「だけど、再び栄光を取り戻せただけで、すごいじゃん!」

「そうだね」


 と、再び光に包まれた。今度は何だろう。2人はワクワクしていた。


「今度は何が見られるんだろう」

「わからない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る