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光が収まると、そこは見覚えのある場所だ。東京オリンピックの舞台になった、国立競技場だ。東京オリンピックは無観客の試合ばかりで、興奮にかけるものがあったが、日本代表が数多く金メダルを獲得して、とても興奮したな。
「あっ、これは国立競技場!」
「本当だ!」
よく見ると、それはヴィッセル神戸の試合だ。これは天皇杯だろうか? かつて天皇杯は、毎年正月に決勝戦を行っていた。だが、今は11月の下旬にやっている。去年11月、天皇杯の決勝戦が行われて、ヴィッセル神戸が優勝した。
希望はピッチを見渡した。と、そこにはイニエスタやビシャの姿がある。この頃はこんな大物がいたんだ。大物がヴィッセル神戸に入団した事で、ヴィッセル神戸は徐々に強くなっていった。
「イニエスタやビシャがいる!」
「本当だ!」
勇気も気が付いた。ここは2020年の天皇杯だ。この頃は新型コロナウィルスが日本に上陸していなかった。この頃はまだ賑わいがあったんだな。
「だとすると、2020年の正月に天皇杯を制した時かな?」
「きっとそうだ」
彼らは感動していた。降格も経験した、決して強くなかったヴィッセル神戸がここまで強くなったのは、きっとファンのおかげだけではないんだなと。
「やっと栄冠を手にできたんだね」
「うん。今ではとても強いけど、それまでは降格もあったんだよ」
希望も知っている。かつては残留争いをするようなチームだった。だが、ここまで強くなった。これからもっと強いチームになっていくだろうと思っている。
だが、これから世界は新型コロナウィルスによって、停滞ムードになった。あらゆるイベントが延期、中止になった。どうしてこんな日々になったのか、どうしてこんなウィルスが蔓延しなければならなかったのか? これは神の試練なんだろうか?
「だけど、ここから日本は新型コロナウィルスで停滞してしまうんだね」
「そうだね。あれで東京オリンピックが1年延期になったし」
あれだけ楽しみにしていた東京オリンピックが1年延期になった。やるべきではないという人も出たが、予定通り1年後に開催された。もし、新型コロナウィルスがなかったら、どんなに盛り上がっていたんだろう。どんなに感動できたんだろう。
「残念だけど、仕方ないんだね」
「うん」
希望は思った。どうして神様は人間に試練を与えるんだろう。地震に、ウィルス。どうしてこんな世界になったんだろう。あまりにもひどすぎるよ。
「どうしてこんな世界になったのかな? 地震も、ウィルスも」
「そうだね。どうして神様は、こんな試練を与えるんだろう」
勇気も考え込んでしまった。あってほしくないのに、どうしてこんな事があるんだろう。
「乗り越える力を試すためかな?」
「うーん・・・」
と、再び光が2人を包んだ。
「わっ!」
目を開くと、そこはほっともっとフィールド神戸だ。ほっともっとフィールド神戸と書かれているので、これは最近の事だろう。もう冬が近いんだろう。観客は寒そうな様子だ。いつもと様子がおかしい。それに、厚着を着ている選手もいる。
「ここは?」
「ほっともっとフィールドだ!」
と、そこに中嶋監督の姿が見えた。これはオリックスバファローズの試合だろう。いったいいつだろう。全く見当がつかない。
「あれ! 中嶋監督!」
「オリックスバファローズだ!」
と、勇気は思い出した。まさか、2021年の日本シリーズだろうか? この年も新型コロナウィルスの感染拡大のために開幕が遅れた。クライマックスシリーズも含めると、11月の中旬から下旬にかけて行われる日程になった。ここまで遅れるのは普通ではありえない事だ。とっくにストーブリーグに入っているはずだ。
「ひょっとして、2021年の日本シリーズ?」
「そうかもしれない」
と、希望は考えた。ここで日本シリーズが行われるのは、オリックスブルーウェーブが日本一になった1996年以来、25年ぶりだろうか? 久々に見れて、観客は幸せだったと思うし、コーチや監督になったあの時の選手は、どんな思いで見ていたんだろう。
「日本シリーズはここで行われたんだね。まるであの時の日本シリーズのようだね」
だが、オリックスバファローズは日本一になれなかった。6戦ともいい試合だったのに残念だ。できれば、日本一をここで決めてほしかったな。だったら、とてもドラマチックだったのに。だが、もう過ぎた事だ。
「残念ながら日本一にはなれなかったけど、翌年は日本一になったんだね」
「ああ」
そして去年の最終戦の直後、中嶋監督は突然、辞任を発表した。誰もが驚いた。今年からのオリックスバファローズはどうなってしまうんだろうか? また上位には入れるんだろうか? それとも、また低迷期に入ってしまうんだろうか? それは、新しい監督、岸田護の手腕にかかっているだろう。
「そんな中嶋監督は今年、やめてしまった。今年のバファローズはどうなるのかな?」
「わからないけど、期待しよう」
「うん」
3連覇した選手が数多く残っている。まだまだ栄光を取り戻せるかもしれない。期待しよう。これからも応援していこう。
「だけど、再び栄光を取り戻せただけで、すごいじゃん!」
「そうだね」
と、再び光に包まれた。今度は何だろう。2人はワクワクしていた。
「今度は何が見られるんだろう」
「わからない」
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