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 2人が目を開けると、そこには阪神電車の三宮駅がある。だが、いつも以上に騒然としている。つい最近、リニューアルしたようで、真新しい。そして、そこには近鉄の電車が停まっている。そして、その周りにはスーツを着た人が多くいる。この日はただ事じゃない。見ていてそうわかった。


「これは?」

「阪神の三宮駅だ!」


 阪神の三宮駅は神戸の繁華街にあり、阪神電車の他に、JRや阪急、神戸地下鉄が乗り入れている。2009年3月に阪神なんば線が開業、難波で近鉄電車と相互乗り入れするようになったという。


「騒がしくなっている。どうしたんだろう」


 と、希望はあるものを見つけた。それは、『祝開通 阪神なんば線』のマークを付けた電車だ。これが2009年3月20日、阪神なんば線が開業した日だろう。行先の『奈良』を見て、どれだけの人が感動しただろう。これによって、神戸と奈良が一直線で結ばれた。なんばへまっすぐ行けるようになった。


「あっ、阪神なんば線開業と書いてある! 開業した日なんだね」

「これで神戸と難波、奈良が1本で結ばれたんだね」


 と、勇気はおととしの日本シリーズを思い出した。おととしの日本シリーズは阪神タイガースとオリックス・バファローズの対戦だった。阪神なんば線を走る快速急行を使えば、乗り換えなしで行ける事から、『なんば線シリーズ』と言われた。思えばこの年の春はワールド・ベースボール・クラシックで始まった。そして最後はなんば線シリーズで終わった。この秋は関西が大いに盛り上がったな。


「なんば線シリーズ・・・」

「懐かしい! とても盛り上がったね」


 希望は全ての試合をテレビで見ていた。とても興奮したな。できれば、中嶋監督の率いるオリックス・バファローズに日本一になってほしかった。だけど、阪神タイガースが日本一になった。


「これができて、関西の鉄道網は劇的に変わったのかな?」

「そうかもしれないね」


 阪神なんば線が開業しただけで、客の流れが変わった。神戸から奈良に行くには、大阪もしくは京都まで行かなければならなかった。だが、阪神なんば線が開業した事で一直線に行けるようになって、利便性が向上した。


「こんなに神戸は復興したんだね」

「ああ」


 2人は感動していた。阪神・淡路大震災で甚大な被害を受けた神戸はすっかり復興した。だが、それでもあの日の記憶を絶対に忘れずに、後世に語り継いでいる。


「これからの神戸に期待したね」

「ああ」


 再び2人は光に包まれた。今度は何だろう。


 2人が目を開けると、そこには鉄人28号がある。鉄人28号のモニュメントは、新長田駅近くの公園にあって、新長田のシンボルのような場所だ。この近くの商店街の看板には鉄人28号のイラストがあり、この近くの交番は鉄人28号前交番だ。そして街灯も鉄人28号の形だ。


「これは新長田の鉄人28号だ!」

「本当だ! 見た事ある!」


 2人は興奮している。幼いころに見た事がある。だが、どうしてここに建てられているのか、希望はわからない。


「僕もだよ!」


 2人は今さっき見た光景を思い出した。新長田は阪神・淡路大震災で焼け野原になった。あんなに賑やかだった街が、まるで空襲にあったかのように焼け野原になってしまった。だが、ここまで復興した。これは人々の力、支えあう力だろうか?


「この辺りは震災で焼け野原になったんだね」

「うん。あれからすっかり生まれ変わったね」


 新長田はすっかり生まれ変わった。所々には高い建物が立ち並び、当時の光景は失われてしまった。隣の鷹取駅にあった鷹取工場は再開発の一環で閉鎖になり、その機能は網干などに移った。


「だけど、あの日を忘れないで生きている」

「この鉄人28号は、復興のシンボルだって聞いた」


 勇気は知っている。この鉄人28号は、復興のシンボルとして建てられたのだと。そしてこれからも、復興を見守っているだろうと。


「素晴らしいね」

「もう、あの時の爪痕はない」


 焼け野原になった新長田は、もはや何もなかったかのようになってしまった。神戸地下鉄は西神山手線に加えて、新長田から三宮・花時計前までの海岸線も伸びた。だが、そんなに利用客はいないという。


「新長田駅も新しくなった」

「こんなに復興したんだね」

「ああ」


 新快速は停まらないものの、新長田は神戸の長田区の中心駅だ。これからもっと復興していく事だろう。鉄人28号は、これからもこの街を見守っていく事だろう。


「地下鉄海岸線も開業した」

「それでもあの日の事を決して忘れていない」


 鉄人28号の周りには、多くの人が来ている。彼らはその周りを歩き、ある人は記念撮影をしている。中には、鉄人28号と同じポーズで記念撮影をしている。彼らは、鉄人28号が何のためにあるのかを知らないようだ。


「多くの人が来ているね」

「それぐらいここは観光スポットなんだ」


 ふと、希望は考えた。彼らは鉄人28号がここにある理由を知っているんだろうか?


「どうしたの?」

「ここに来ている人って、ここに鉄人28号のモニュメントがある理由、知ってるのかな?」


 勇気も考えた。観光客の多くは、この鉄人28号がある理由を知らないと思う。だけど、知ってほしいな。そして、阪神・淡路大震災から復興してきた新長田の歴史を知ってほしいな。


「知っている人は多いだろうけど、みんな知ってほしいな」

「そうだね」


 と、再び光に包まれた。今度はどんな思い出だろうか?


「今度は何だろう」

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