こんにちはの夕日

沼津平成@空想≒執筆

こんにちはの夕日

——アレール。知っているか?


 天から声が降ってきた。


——ああ、知ってるよ。


 アレールとは天を見上げながら答えた。


              *


 数分前のことである。

アフションはガードレール沿いギリギリを走っていた。といっても車を使って、である。山の麓の狭い急な下り坂は、車一台やっと通れる隙間しかない。そこをわざわざ真昼間に肉体だけを使い走る者があるだろうか。

 アフションはフリーターである。アレールとは幼馴染だったが、数日前アフションがバイトを解雇されてから、アレールとは疎遠になった。


「どんな友達も、行きすぎた関係は結局……」


 アフションは汚れた上着の内ポケットから財布を取り出した。空気が一瞬凍りつく。

 下向きにして降ってみると、硬貨が1枚転げ落ちた。

 ガードレールをすり抜け、茂みの中のどこかへ落ちていった。

 

「おじゃんだな」アフションはつぶやいた。


 アフションはガードレール沿いに寝っ転がった。そして地元に伝わっていた話を思い出した。よく父が聞かせてくれた話だ。


「なあアフション知ってるか? この世界には二つ太陽がある。朝日と夕日だ。すごいのは夕日の方だ。夜に、『こんにちは』って顔を出すと、あっちゅう間に変身するんだべ。黄色い光を照らすそいつは月って言うんだそうだ。そんで、地球の裏側うらっかわにいって、元に戻るんだべ」


「照れ屋さんなの?」子供時代のアフションはそう返した。


 だが、今アフションはその夕日とやらが照れ屋などとは思わなかった。

 夕日は、本当の自分を見られたくないんだ。ポーカーフェースしないと生きられない。ある意味二つの面を持っているフリーターだ。いつか消えてしまう。

 アフションと一緒だった。

 しかしそのとき、存在価値があるのである。アフションは羨ましかった。

 アフションはガードレールの向こうを観察した。アレールを見つけた。

 アフションは起き上がると、一目散にかけだした。

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