廃旅館

@normalguest3000

第1話 廃旅館

今回お話しするのは俺が中学3年生の時に故郷の村で起こった不可解な出来事が起こった。


俺の故郷は人口千人ぐらいの山の中にある小さな村だ。


山間の田園風景が広がっていてコンビニが村に一軒しかないようなそんな場所だった。そして俺の生活圏の中に一つの廃墟があった。


その廃墟は元々は旅館として営業していたが、俺が小学校ににあがる前には廃業してしまったらしい。


その旅館は俺が中学に上がった頃にはすでに廃墟になり果てていた。


そして俺には小学校から仲良くしていたBとCという友達がいた。


BやCとはよく一緒に遊んでいたが一つだけBやCの誘いを断っていたものがあった。その廃旅館に行く事であった。


俺の故郷の村は何もない場所だったからBやCが廃旅館で肝試しをしようとするのはある意味普通だったのかもしれない。


ただ俺はあの不気味な廃旅館が本当に苦手で、とにかく廃旅館に行く事を拒否していた。


そのせいでBやCからはかなり不満を言われたものだった。


俺がそういう話が苦手であるのにBやCはしょっちゅうあの旅館の経営者は経営苦で首つり自殺をしたとか経営者の家族が一家心中したとか言って騒いでいた。


すると俺が廃旅館を怖がっているのを知った母さんがその廃旅館の話を詳しく教えてくれた。


母さんによれば経営者の女将さんが高齢になり体力的な理由から旅館の切り盛りが難しくなり廃業したらしい。最終日にはたくさんの宿泊客が詰めかけたらしい。つまり因縁も曰くも何もない場所だ。



母さんのように働いていた人間からすれば感慨深いものはあるのだろうけれど、曰くとか怨念とかそういうたぐいのものがある場所ではなかったようだ。


母さんに幽霊を見たことがあるか聞いてみたが幽霊など一度も見たことがないと言っていた。


まあ実際はそんな程度のものなんだろう。だがBやCはあの廃旅館では大火事がありたくさん宿泊客が亡くなった、無念でしかたがない怨念達が廃旅館の中にはうごめいていると言っていた。


つまりBやCが面白半分に話を盛っていたという事がわかってその時の俺は安堵した。


ただ母さんからこんな話を聞いていた後でも怖くなくなったかと言われれば、全然そんな事はなかった。


母さんの話を聞いた後もBやCが肝試しをしようぜとか幽霊をやっつけにいこうぜとか何度か誘ってきたが、俺は廃旅館に行くのは頑として拒否して続けた。むしろ余計にひどくなっていった。


廃旅館の前の道を通るのさえ避けるようになっていたぐらいだ。BやCがわざと俺を廃旅館に連れて行こうと別の話をしながら廃旅館の前の道を進んでいるのに気が付いて慌てて引き返した事もある。


俺は筋金入りの臆病者なんだろう。


小さな村で特定の道を避けるというのは意外と不便なもので、廃旅館前の道を避けて移動するというのはなかなか時間が食って大変だったのだが、それでも俺は廃旅館に近づく事さえ拒否し続けていた。


そんなときに事件が起こった。


そのきっかけはBからSNSでコメントが届いた事から始まった。


俺とBとCとでグループ通話がしたいとの事だったので、俺はSNSを開いて待っているとすぐにBからグループ通話への招待が届き俺はBとCと通話を始めた。


俺「BそれにCなんだこんな夜中に、今から寝る所だったんだぞ」


B「今どこにいると思う?」


俺「えっ、家にいるんじゃないのか?」


C 「ブー!!外れだ」


B 「今な廃旅館にいるんだよ」


俺 「また肝試しか?」


C 「ブー、また外れだ」


B 「肝試しじゃない、宿泊だ」


俺 「宿泊?」


C 「そう宿泊だ、Bとなんか面白いことしたいなって少し前に話しててな。そうだ廃旅館に一回泊まってみたら面白いじゃないかって思いついたんだよ」


俺 「旅館ていったって元だろう。今はもう廃墟じゃないか」


C 「だから楽しいんだろうが。それに廃旅館だろうとなんだろと旅館には違いないだろう」


俺 「廃墟の旅館に泊まろうとかC、お前バカか?」


C 「うるせえ!!Bは賛成してくれたぞ」


B 「ああこれで俺様の武勇伝がまた一つ増えるわけだからな」


C 「A来たかったら来てもいいぜ」


俺 「行くわけないだろうが」


C 「Aお前怖がりだもんな」


B 「まあいいじゃねか、俺達だけで武勇伝を作っちまえば!!!


C 「そうだな」


B 「じゃあなA、明日俺の武勇伝を聞かせてやるぜ!!!楽しみにしてろよ!!」


そう言うと通話が切れたのだった。


バカかあいつらは、廃墟の旅館に泊まろうとか何考えてるんだ。しかもこんな夜半に連絡してきて。この時の俺はすでにベッドに入って眠かったのでそのまま床についたのだった。


だがまたすぐに起こされる羽目になるのだった。


部屋のノックする音で俺は再び起こされたのだった。


俺は眠い目をこすりながらベッドから起きだした。


すると扉の向こうから母さんの声が聞こえてきた。


「A、ごめんね。ちょっと起きてくれる」


今度は母さんに叩き起こされるとは。時計を見るとまだ午前2時だった。


俺「なに、母さん?」


母 「実はB君とC君が家に戻ってないらしいのよ。それで村の人達が総出で捜索を始めてるらしいの」


村の人達総出で捜索!BとCの事でとんでもなく大事になっている事に俺は驚いた。


「ねえA、あなた何か知らない?」


俺は少し返答に困ってしまった。


どうするべきかな、こんな大事になっているって事はBやCは家族には何も言わずに廃旅館に泊まっているのだろう。せめてBの家に泊まるとでも言っとけばいいのに。本当にあいつらは。無計画すぎるだろう。


俺はBやCの事を告げ口するみたいで嫌であったがさすがにここまで大事になっているのに黙ってる訳にもいかなかったので、玄関まで出て行って家の前にやって来ていた駐在の山森さんにBとCが廃旅館に行っている事を伝えた。


山森さん「そうか、B君とC君はそこにいるんだね?」


俺  「はい、BとCからそう連絡がありました」


山森さん「それじゃあ廃旅館に捜索に向かわないとね」


俺  「俺も一緒に行きましょうか?」


山森さん「いやA君はもう寝てなさい。廃旅館への捜索は我々で行ってくる」


父「そうだなA。お前はもう寝てろ。俺と母さんでB君達を探しに行ってくる」


駐在の山森さんと一緒に父さんと母さんもBとCを捜索するために出ていった。


さすがに村人が総出でBとCを捜索しているとなるとおちおち寝むる事もできずに起きて父さん達が帰って来るのを待つ事にした。


それから2時間ぐらい後でBがBのご両親に連れられて我が家にやってきたのだった。


Bが恨めしそうにしていた。


B 「おいA、お前チクりやがったな」


俺 「何言ってるんだよ、大事になってたんだぞ。Bお前こそなんで家の人に黙って出かけたんだよ」


B 「廃旅館に泊まりに行くつっていってらっしゃいなんて母さんが言う訳ないだろ!止められるに決まってるからだから黙って出かけたんだよ」


するとBのお父さんがBをぶん殴る。


「バカモン!!A君が教えてくれたからBお前をすぐに見つけれたんだろうが!!なんでお前は俺達が探しに行った時に見つからないように隠れていたんだ??」


B  「俺の武勇伝を邪魔されたくなかったんだよ。山森さんも空気よんでスルーしてくれよ!!真剣に俺達を探さなくても良かったのに!!それでも村を預かる駐在かよ!!」


山森さん「B君、そうはいっても警察官としては探さない訳にはいかないからね」


Bの親父「バカモン!!助けに来てくれた山森さんに何てことを言うんだ」


B 「親父、俺は助けなんて一回も呼んでねえぞ!!」


Bの親父「何の連絡もなく行方をくらませば心配するに決まってるだろうが、それよりもみなさんに言う事があるだろうが」


B「俺はこんな事じゃへこたれない。次はヘマをせずに武勇伝を増やしてやる!!」


Bの父親「違う!!みなさんに謝るんだ!!山森さんにもA君のご両親もBお前が行方不明と聞いて廃旅館まで探しに来てくれたんだぞ!!」


するとBは渋々ながらみんなに頭を下げたのだった。


「みなさん、ご迷惑をお掛けしてすいませんでした」


Bの親父さんが俺達に頭を下げた。


「みなさんBがご迷惑をおかけしました」


山森さんも俺の親父も気にした様子はなかった。


山森さん「はっはっは!!まあB君もC君も無事に見つかって良かった」


俺の親父「そうです。B君もC君も無事に戻ってきましたので、結果オーライでしょう」


BとBのお父さんは何度も頭を下げたあと玄関から外に出て行った。


俺はBもCも無事見つかったからそろそろ寝ようと思い俺は自分の部屋に戻った。


時計を見るともう午前5時を過ぎており、外はもう明るくなっていた。


まじか、もう朝じゃないか?いくら今日が休みだといっても眠らずに1日過ごすのはキツイと考えてすぐにベッドに入った。


それからすぐに深い眠りに落ちていった。そして俺が起きて目を覚ました時はもう午後4時になっていた。


さてそろそろ起きるか。


俺はベッドから起きだすとキッチンの冷蔵庫に向かった。


コップに麦茶を注いでそれを飲み干すと俺はとある事に気がついた。


父さんの姿も母さんも姿がキッチンにもリビングにもなかった事だ。


だいたい休みの日は父さんも母さんもキッチンかリビングで過ごす事が多いのだが。


はて父さんと母さんはどうしたんだろうか?二人とも今日は休みだと言ってたはずだが。


もしかして昨日のBとCの事があったからまだ寝ているのかもしれない。俺もこんな時間まで寝てた訳だしな。そう思うと特に気にする必要もないと考えて俺は自分の部屋に戻った。


それからBに連絡を取ろう電話を掛けたりSNSでコメントを送ってみたが、Bは一切俺の送ったコメントにも着信にも反応しなかったのだった。


続けてCにも電話を掛けたりSNSでコメントを送り連絡をとろとしたがCも全く反応してくれなかった。


なんだよBもCも俺がチクったから怒ってるのか?仕方ないだろうあの状況では。


うーんどうするかな?としばらく考えた後で俺は直接Bの家に行こうと考えた。


Bは自分の武勇伝を話すのが大好きで武勇伝を聞かせてくれって言えばBは一発で機嫌をなおしてくれるからだった。


Cとどう仲直りするかはBと仲直りした後で考えようそう思いBの家に向かった。


なんか村の中が騒がしいような気がしたのだが、昨日の事でのゴタゴタが続いているのだと思って特に気にもしなかった。


そしてBの家に到着したのだが、なぜか村の人々が集まっていたのだった。


俺は大して気にもせずにBの家に入ろうとした所をBの家の隣に住んでいる菊池(きくち)さんに止められたのだった。


菊池「ちょっとA君。入ってはダメよ」


俺「えっ、なんでですか?BもCも見つかりましたよね」


菊池「知らないのA君。B君とB君のご両親が首を吊って亡くなっていたのよ?」


俺「えっ、亡くなっている?それどういう事ですか?」


菊池「今日の午前8時頃村の人が尋ねてきたみたいなんだけど、返事がないから中を覗いたらB君とB君のご両親が首を吊って死んでいたんですって??」


俺「BとBのご両親が首を吊って死んだ?そんなバカな!!なんでBが死ななきゃならないんですか?」


菊池「さあねえ?私達もそこは不思議で仕方がないんだけど」


BとBのご両親が首を吊って死んだ。なぜ、昨日のBの事が関係しているのだろうか。


俺はいろいろと気になったがとにかく駐在の山森さんを呼ぼう。考えるのはそれからだ。そう思ってその人に言った。


俺「じゃあ俺駐在の山森さんを呼んできます」


菊池「待ってA君、それは無理よ」


俺はその言葉を聞いて頭をかしげた。


無理というのはどういう事だ。


俺は無理という言葉に首をかしげた。


俺「無理ってどういう事ですか?」


菊池「それがねえ駐在の山森さんも首を吊って死んでるのよ」


俺「駐在の山森さんも首を吊って死んでるってどういう事ですか?」


菊池 「私達も訳が分からなくてね。B君達が首を吊ってるって慌てて山森さんの所に知らせに行ったら、駐在所の中で天井からロープを垂らしてそれに首を括って死んでいたの」


菊池「山森さんが死んでたから、私達どうしたらいいかわからなくてね。それで警察に電話をしたら他の町から警察官を向かわせるから、村の人達で現場の封鎖をしてほしいって言われてね。それでA君を止めたって訳さ」


俺「それじゃあBとBのご両親だけじゃなく山森さんまで死んだっていうんですか?」


菊池「そうなんだよ。」


俺「Bや山森さんが首を吊るなんておかしいですよ!!訳分からない!」


菊池「本当だね、訳が分からないよね、1日で7人も首を吊るなんてさ」


俺「7人??7人ってどういう事ですか、4人じゃないんですか?」


菊池「そうかい、まだ知らないんだったね。実はさC君の家でも首吊りがあったんだよ。C君とC君のご両親が首を吊ってたんだと。まあC君の家の方は人づてで聞いた話なんだけどね」


はあ??BだけでなくCまで首を吊って死んだというのか??なんで??どうして??


俺は訳も分からずに立ち尽くした。


BとCが首を吊って死んだ、嘘だろう??そんなの考えられない。そんなの嘘に決まっている。


もしかしたら見間違いかなにかかもしれない。


俺「それ本当にBとCだったんですか?」


菊池「C君に関しては私は直接見てないから何とも言えないけど、B君とB君のご両親で千沙(ちさ)さんと健(たける)さんが首を吊ってたのは間違いないよ。直接この目で見てるからね」


Bが首を吊って死んだ、本当にBが死んでしまったというのか?


俺はあまりの出来事にただ茫然としていた。


そして少しして涙がこぼれ落ちてきた。それからしばらくの間泣いていたが、他の町からやってきた応援の警察官の人達がBの家の封鎖を始めた。


その場にいても何もできなかった俺は一旦家に帰る事にした。


嘘だろう、なんでBは首を吊ったんだ??そんな感じに見えなかったぞ??


それにCまで、一体何がどうなっているんだ?


俺は茫然としながらも家路についていた。


俺が失意で家に戻った時はすでに日が暮れており、辺りは真っ暗になっていた。


だが俺は自分の家の見て違和感を感じたのだった。


「あれっ、なんで電気がついてないんだ?」


父さんと母さんがどっちもいるはずなのに。


俺は手にはめている腕時計で時間を確認した。すでに午後7時半になってる。いくらなんでももう父さんか母さんのどちらかが起きだしている時間のはずだ。


にも関わらず我が家は真っ暗な状態だ。家のどの部屋の電灯もつけられていない。


俺は嫌な予感がして我が家に駆け出した。


俺は玄関で乱暴に靴を脱ぎ捨てると家の部屋を一つづつ見てまわった。


そして親父の寝室で恐ろしい光景を目撃する羽目になった。


父さんと母さんは寝室で寝巻姿で天井から首を吊って死んでいた。


父さんは天井部分に金具のようなものを取り付けてそこからLANケーブルを垂らしてわっかのようなものを作りそこに首を吊って死んでいた。


母さんも天井部分に金具のようなものを取り付けてそこからテレビの電源コードを垂らしてわっかのようなものを作りそこに首をかけて死んでいた。


父さんと母さんもなにか憐れむようなとても悲しそうな目をしていた。


俺は腰を抜かして動けなくなってしまった。


父さんと母さんが物言わぬ状態で天井から俺を悲しそうな目で見つめていた。


俺はあまりの恐ろしさに四つん這いになりながら逃げ出した。


あの日俺は一日でBとCそして父さんと母さんと親しい人達を一気に亡くしてしまった。


それから父方の親戚である幸太郎(こうたろう)おじさんがやってきて父さんや母さんの葬式を執り行ってくれた。


俺はもう抜け殻のようになっていてBとCそして両親の葬儀に出席した。


俺にはBやCの亡骸を直視する事ができなかった。


父さんと母さんが火葬場に運ばれる時にはあまりに悲しくて泣き崩れてしまった。


親戚のおじさんは辛いときは男だからって泣くのを我慢せんでええんやと言ってくれた。


おじさんがそう言ってくれて大泣きしてしまった。


だけどあの時俺はとにかく悲しくて恐ろしかった、父さんや母さんがこの世から去ってしまった事を。あのやり取りがBとの最後のやり取りになってしまいCとは言葉すらかわせなかった事が。


そして訳が分からないままBとCそして父さんや母さんがいなくなってしまった事が何よりも悲しくて恐ろしかった。


そして葬儀が終わってからすぐに親戚のおじさんと一緒に暮らす事になった。


今は故郷を離れておじさんの家がある神奈川で暮らしている。


あれから時間が経ってあの時の事を色々と考えていた。


間違いなく言える事はあの日廃旅館に行った9人が例外なく首吊り自殺をした事だ。


BとCそれとBとCのご両親そして俺の父さんと母さんそして山村さんはあの日に廃旅館に行っていた。


きっと廃旅館で何かがあってBとCそして父さん達はみんな首を吊らされてしまったのだと。


警察の人の話によればBやCの家からは遺書のようなものは何一つ発見できなかったそうだ。


父さんや母さんの遺書も俺は見つける事ができなかった。


正直なところBもCも父さんも母さんも首を吊るような動機が全く思い当たらない。


廃旅館から戻ってきた時もいつもと大して変わった様子はなかった。


だけど俺は思う、きっとあの廃旅館でB達の身に何かがあったんだと。


でもその異変に俺は気づく事ができなかった。きっと今もあの廃旅館には何か得体の知れない存在が潜んでいてそいつがBやCそして父さん達に首を吊らしたのだと。


だから廃旅館に行かなかった俺だけが難を逃れることができたんだと確信している。

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