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ユラ……ユラ……カタカタ……。
なんだか身体が揺れている。ほんわか温かいし、安心する匂いもしている。ほんの少しだけ目を開けると、祖母の家の中にいた。亡くなった後は住む人がいないからと、賃貸に出しているのに、どうして家の中に入れたのだろう?これは夢の中だろうか?
掛け時計の文字盤が、4時を指している。アップライトピアノと、クリーム色のカーテンが綺麗だ。小さなモミの木も置いてある。幼稚園児の頃に買ってくれたもので、毎年12月になると飾りつけをしていた。自分よりも背の高いモミの木なのに、だんだん低くなっていくことが不思議だった。
パタパタパタ!
黒いランドセルを背負った男の子が入ってきた。小学校一年生の俺だった。コタツに入って冷たくなった手を温めていると、祖母も入って来た。俺の記憶の中にいる人よりも、ずっと若い人だ。
彼女が持っているトレーを見て、きゅうっと、胸が痛くなった。あめ湯が入ったマグカップが乗せられているからだ。俺が風邪を引かないようにと、いつも作ってくれていた。給食に入っているショウガが苦手なのに、この飲み物だけは飲んだ。苦いのは同じなのに。
ぼうっとして見ていると、僕たちが会話を始めた。
「悠人。おかえりなさい。寒かったでしょう?手を洗って、冷たくなったわね」
「平気だよ。どうしてかな?」
「どうしたの?」
「モミの木が小さくなったんだ。僕よりも背が低い。大きくならないの?」
「それはね。悠人が大きくなったからよ」
「ふうん。クラスで小さい方だよ?前から3番目だもん……」
「人それぞれなのよ。早く大きくなる子、ゆっくり大きくなる子。大人になっても同じよ。いろんな人がいるから楽しいの」
「うん。モミの木も、ゆっくり大きくなっているのかな?」
「そうよ。追い越されないように、たくさん食べなさい。お野菜もね」
「うん!ビーフシチューのニンジンなら……」
「はいはい。クリスマスに作るわよ」
「お手伝いするよ!」
ミカンをむいて食べていると、晩ご飯の匂いがしてきた。ばんごはんはなに?と祖母に聞くと、ハンバーグだと教えてくれた。
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