第3話

 カイゼル王国の軍事と政治を任されることになったワタシ。二年前には、なんとも無様に敗残したワタシが今や国家の要となっている。あまりの出世ぶりに自分でも驚きだ。こんなことがあるのだろうか。まさか本当に、『逆さパンティ』のお陰なのだろうか。






 更に一年が経ち、あの男たちの街は大きく発展した。やはり『逆さパンティ』の効果か、観光客や移住者があとを絶たなかったのだ。そうして今では、カイゼル王国でも五本の指に入るほどの規模に達している。


 街が発展するのは良いことだ。しかしながら、そう単純に喜んでもいられない。あの街の発展を知った他の集落が、『逆さパンティ』を始めたからだ。それも各地の街や村、至るところが始めてしまったのだ。


 ワタシは宰相の権限を用い、即刻それらを禁止した。由緒正しきカイゼル王国の各地で───いや、全土で、あのような下品な行為が行われるなど、決してあってはならないからだ。しかしながら、あの街でだけは禁止をしなかった。


 そのため、各地の集落から不満が出た。『集落の発展を妨げるのか』、『贔屓ひいきをするのか』と文句が出た。そこでワタシは各地に『触れ』を出した。


 あの儀式は、彼ら特有の宗教による特別な儀式なので、真似をすることは決して許さない。そのような真似は彼らの神を冒涜する行為であり、いずれは罰が下るかもしれない。それはカイゼル王国のためには絶対にならない。よって、彼らの神聖な神を冒涜する行為は固く禁ずる───と。


 その言い分に納得したのか、各地の集落は大人しく『逆さパンティ』をやめてくれた。そんな中、ワタシの身に大きな変化が訪れた。いや、立場に大きな変化が訪れた。なんと、第三王子殿下から求婚されたのだ。


 正直なところ、ワタシは第三王子殿下に対して恋愛感情などいだいてはいなかった。もちろん敬意は払っていたが、それだけのことだった。しかし殿下の熱意は凄まじく、更には国王陛下が強く薦めてきたため、応じざるを得なかった。






 やがて第三王子殿下と婚姻関係を結ぶと、カイゼル王国は危機に見舞われる。第一、第二王子殿下が相次いで急逝きゅうせいしたのだ。事故と病によるモノだった。そのため、ワタシの夫である第三王子殿下が第一王子の立場となり、王位継承権の筆頭格となった。いや、実質的な次の国王となった。


 王国の危機は、それでは終わらない。今度は国王陛下までもが逝去せいきょされたのだ。死因は老衰だった。陛下はそこそこのお歳ではあったが、老衰で亡くなられるとは意外だった。しかし、受難はまだ続く。


 今度はワタシの夫である新国王陛下までもが逝去せいきょされたのだ。つまりワタシが王族となってから、二人の王子殿下と国王陛下、更には新国王陛下が逝去せいきょされたことになる。これではまるで、ワタシが王族に呪いを持ち込んだかのようだ。


 その上、なんともマズいことに、王族の直系が一人もいなくなってしまった。前国王陛下には三人の王子殿下しか、ご子息はおられなかったのだ。そして二名のご息女は既に他国に嫁がれており、カイゼル王国の女王に迎えるワケにはいかなかった。その結果、あろうことかワタシが女王になってしまった。


 ワタシは困惑し、恐怖した。このような状況では、ワタシが王族を───王国を乗っ取った形になるからだ。ワタシはそのような思惑も魂胆も決して持ってはいなかったし、そのような策略も手段も断じて用いてはいない。しかしながら臣下も領民も、そのようには受け止めないだろう。よって、ワタシは恐怖した。弾劾され、断罪されることを恐怖した。


 しかし、それは杞憂に終わる。誰もワタシのことを怪しまず、疎まなかったのだ。それどころか、それまでのワタシの功績を鑑み、歓迎をしてくれたのだ。そうしてワタシはカイゼル王国の女王として、正式に迎えられた。


 その頃、あの街はというと、やはり発展を続け、王都に並ぶほどの巨大都市になっていた。そうして程なくするとワタシの元に、遷都の案がもたらされた。そう、あの都市への遷都案である。ワタシは抗うことができず、その案を飲むことにした。これは、あの男たちの神が求めることであり、その要求にはできる限り答えねばならんと感じたのだ。






 遷都から一年───つまり、ワタシが『逆さパンティ』をしてから六年。隣国の王族から使者が派遣されてきた。なんでも、『第二王子閣下が我がカイゼル王国に赴きたい』とのことだった。ワタシはその申し出を丁重に受けることにした。






 およそ三ヶ月後、隣国の第二王子閣下が来訪され、我が国は全身全霊で、おもてなしをした。しかし、どうにも閣下の表情が暗い。何事かあるのかと心配し、ワタシは窺った。すると・・・。


「あ、その、ですね・・・。さ、『逆さパンティ』なるモノを・・・、み、見てみたいのですが・・・」


 なんたることだ!!! 『逆さパンティ』の噂は、他国にまで届いていたのか!!!!!


 ワタシが戸惑い、頬を赤らめる中、閣下はまたしても告げてくる。


「ダ・・・、ダメでしょうか?」


 やむなくワタシは閣下に、翌日の夜に城下へと、お連れすることを誓った。その夜、ワタシは寝付けなかった。まさか他国の王族に『逆さパンティ』を見せることになるなどとは露ほども思っていなかったからだ。あんな下品なモノを見せるなんて恥ずかしいからだ。






 翌朝、一睡もできなかったワタシはそこそこに気分を害していた。睡眠不足と夜に訪れる辱しめが原因だ。いくら自分の下着を見せるワケではないとしても、あんなモノを他国の王族に見せるなど、なんとも恥ずかしい。






 夜になり、数名の臣下と十数名の護衛を引き連れ、王宮の前で閣下を待っていると、一人の若者が現れた。


「お待たせして、大変申し訳ございません。もう暫く、お待ち願えますか?」


 閣下の近衛兵だろうか、昨日は見なかったが。その、初めて見る顔に、ワタシの目は───いや、心は釘付けだった。なんとワタシは、他国の近衛兵と思われる若者に、一目惚れをしてしまったのだ。


 あまりにも身分違いの恋。そんなモノが成就する筈などない。しかしワタシの心はときめくばかりで、なにかを期待せずには、いられない。




 ・・・大丈夫。あの神ならば───あの『逆さパンティ』を愛する神ならば、またしてもワタシに幸運を授けてくれるだろう。



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逆さパンティ @JULIA_JULIA

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