神様、明日も彼女の声を聞かせてください

海坂依里

【1】「音のない世界に手招かれて」

(みんなと一緒に、体育の授業を受けていただけなのに)


 体育館。

 体育の授業。

 高校三年にもなると、それぞれが好きな競技を選んでいい時間が増えていく。

 今日はバレーボールやバスケットなどの球技を選択して、それぞれ競技を楽しんでいる最中だった。


陽咲ひさき! 陽咲っ!」


 激しい目眩に襲われて、気持ちが悪くなった。

 その場に立っていられなくなった私は、体育館の床にしゃがみ込んだ。


(私は、その日、低音障害型感音難聴を患った)


 両親に連れられて、耳鼻科を訪れた。

 芸能人がよく報告をする突発性難聴とは異なり、低音障害型感音難聴は再発の可能性がある。けど、完治を目指せる病気だって、お医者さんは言ってくれた。


(でも)


 症状が落ち着いて、学校に行けるようになったときに感じた。


(再発って言葉に怯えて)


 今までは気にならなかった大きな音や、学校中に広がる賑やかな声が、異様な恐怖感を与えてくることを。


(消極的な生き方をするようになってしまった)


 どんなに再発に怯えていたって、私の人生を止めるわけにはいかない。

 高校を卒業して、大学に入学するっていう過程を経て、私は今日もいつも通りを装っていく。

 過去に音を失ったことがあるなんて素振りも見せずに、記憶を失ったかのように、私はいつも通りを演じていく。


(みんなに迷惑、かけたくないから……)


 気の合う同士で集まって、昼食の時間を過ごそうとしている人たちが視界に入って、あまりにも眩しすぎる光景に瞼を下ろしてしまった。

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