二分裂?

みかさやき

二分裂?

「昨日朝姫あさひめくんのこと、図書室で見た」


 さくらちゃんが緊張した声で、私に話しかけてきた。


「ちょっと待って。それはおかしいって。だって朝姫くん、昨日ずっと一緒にいたもん」


 なんせ朝姫くんは、私の恋人である。


 昨日は学校が休みだったので、ずっと私は朝姫くんの家でいた。そこで昨日私は朝姫くんと一緒にいた、そういうことにもなる。


 それに桜ちゃんにも朝姫くんと一緒にいる、そのことを伝えておいたはずなんだけど。それを分かってさえいれば、朝姫くんが昨日図書室にいたのはありえないって桜ちゃんは分かるはず。


「そうだけどさ、確かにいたもん。うちの学校の男子制服を着ていたし、何よりも髪型や顔がそっくちだったんだって」


「あー本奈ほんなくん、私も見た。授業がない日になんで本奈くんがいたのがわからなくて、びっくりしたもん」


 りこりちゃんも、話に加わる。


 桜ちゃんだけでなくて、りこりちゃんも見た。となれば朝姫くんは、昨日本当に学校へ来ていたかもしれない。


「休みの日に図書室へなんで行くんだろう? 第一昨日は休みの日だから、部活をしていない人以外は入れないはずなのに」


 桜ちゃんは茶道部、りこりちゃんは文芸部。2人とも部活動があるから、登校できた。でも朝姫くんはそうじゃないから、登校できないはず。


「それに朝姫くんが昨日ずっと家にいたの、私知ってるよ。朝姫くんの家から学校まで20分徒歩でかかるけど、そんな長い時間朝姫くんがいないってことなかった」


 ずっと昨日朝姫くんと私はゲームをしていた。


 その事実は桜ちゃんやりこりちゃんの話を聞いても、変わることがない。


 そこで朝姫くんが学校の図書室にいたなんてわけ、ないはずなのだ。


「じゃあ昨日、学校の図書室にいたのは誰だろう?」


 りこりちゃんが不思議そうに、首をかしげる。


「確かに不登校の朝姫くんが、休みの日とはいえ登校するのはおかしい。確か朝姫くん、双子の妹いたよね」


 桜ちゃんが、新しいことを言い始めた。


「いたいた。私立の学校に昔から通っているから、私達は会ったことがないはず」


 朝姫くんの妹、夕姫ゆうひめちゃんだ。よく朝姫くんの家へ遊びに行く私だけど、夕姫ちゃんとは会ったことがない。


「男女の双子がそっくりなほど似ているわけないよね。創作ではともかく、ここはリアルなんだし。じゃあ何、朝姫くんのドッペルゲンガーってわけ?」


「ドッペルゲンガー? 不吉じゃん」


 りこりちゃんと桜ちゃんの2人はおびえる。


 でも私は2人の発言を聞いて、思い当たることがあった。


 これならドッペルゲンガーではなく、昨日朝姫くんが家と図書室の両方でいた理由も分かる。


 そこで放課後、私は朝姫くんの家へ行く。


「朝姫くーん、起きてる?」


「起きてる」


 肩までの髪をくくってまとめ、だぼっとしたプルパーカーにジーンズというラフな格好を朝姫くんはしている。


「昨日さ、朝姫くんの妹夕姫さんが、朝姫くんの制服を着て学校の図書室にいたってことない?」


 私は気づいたことを、朝姫くんに聞いてみた。


「まじでっ、そういえば制服や登校用の鞄なくなっているなっとは思ったけど、夕姫の仕業だったのかよ」


 朝姫くんは、ちょっと驚いたように答えてくれた。


 そう昨日図書室にいたのは、夕姫ちゃんの方。


 朝姫くんはトランスジェンダーで、出生時に割り当てられた性別が女。それで実は夕姫ちゃんと朝姫くんはかなりそっくりな、一卵性双生児だと思ったのだ。名前だって朝姫と夕姫、よく似ているし。


 それなら夕姫ちゃんが朝姫くんになりすませる。


 だとしてもどうして夕姫ちゃんが昨日図書室にいたのかは、分からない。なぜ朝姫くんの制服を着て鞄を持って、学校へ行ったのか。そうするのに、何か意味があるのか、それは私には分からない。


「だとしたらどうして夕姫さんが昨日、私や朝姫くんの学校へ行ったんだろう」


「その意味は分からないけど、夕姫は図書館が好きだから、他校にも行ってみたかったんだろう。それに夕姫は部活しているから、その関係で学校に入れるかもしれないし」


 少し考えてから、朝姫くんが答える。


 そうしかありえない気がした。


 というよりもこれ以外の答えなんて、ないかもしれない。

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