第2話 美少女見参

 みみみは追ってくる化け物に向けてぬいぐるみを飛ばし、爆発させる。並みの魔物ならこれで一撃、自分と同じBランク相当の魔物でも深手を負わせることができるにも関わらず、化け物は何事もなかったのように再生し、追いかけてくる。


「私の【爆発エクスプロージョン】が効かない推定Aランクの化け物がいるなんて聞いてないわよ」


【どうするのみみみちゃん!】


【救援出した?】


「出したわよ。でもAランクの人がぽいぽいやってくるわけないじゃない」


【来るかもしれないから信じて】


【誰か行けよ】


【Cランクなんで無理です】


 視聴者のコメントを流し見しつつ、みみみは迷惑系Dtuberに命を懸けてくれる人はいるだろうかと思う。自分が逆の立場なら、おそらくはしないなと思いながら走る。開いていた部屋に飛び込むと、そこには何らかの実験で使われていたと思われる被検体の数々。思わず吐きそうになったみみみは今日のお昼何を食べたか思い出しそうになっていた。


【これ見たらあかん奴では?】


【絶対消されるな】


【どっちの意味で?】


【みみみちゃん、死なないで】


【この動画が耐えたら勝てるんだから】


【次回、みみみ死す】


【お前らwwww】


 ノリのいいコメント欄を見て、少し元気をもらったみみみは息を整えて、こちらに向かってく化け物に向き合う。EXギアからありったけのぬいぐるみを取り出し、持っている杖でそれらのぬいぐるみを操作する。


「喰らいなさい、クラスターボム!」


 それらのぬいぐるみが化け物に触れた瞬間、連鎖してぬいぐるみが一斉に爆発する。部屋中にあった試験からひび割れ、中身が飛び出し、キノコ雲が発生するほどの超火力。室内で使う火力ではないが、腹に背は変えられない。


【さすが火力だけならAランク!】


【やったか!】


【勝ったな、風呂入ってくる】


「これが効かなかったら、打つ手な――」


 瓦礫がもそもそと動き出し、みみみの、いや視聴者を含めた全員の顔が青ざめる。そして、がれきの下から勢いよく化け物が飛び出してくる。


「誰がAランクって言ったのよ。再生能力だけならSランクの化け物じゃない……」


【勝てねえ!】


【逃げろおおおおおおお!】


【逃げてくれええええええ!】


【誰か援軍来てる?】


【誰がいけるんだよ!Aランクでも一人だときつい、学園都市のSランクなんて暇じゃないだろ】


 逃げるための魔力も気力も、もう残されていない。化け物がその大きな拳を振るって、座り込んでいるみみみを押しつぶそうとしたとき、黒い弾丸がみみみの後ろから放たれ、ノックバックする。追い打ちをかけるかのように、さらに数発。


【誰か来たああああ!】


【誰だ?】


「天に唾を吐いた者ならいざ知らず、無関係な者に手を出す者には星の裁きを与えましょう」


「お、女の子?」


【ゴスロリ様だああああああああああ!】


【誰だ?】


(ここからどうするつもりだ?)


【接続自体は成功しています。自己再生能力は大幅に低下させておいたので、砲撃魔法をつかってサクッと倒しましょう】


(魔力操作には自信があるとはいえ、これだけの魔力量で砲撃魔法を使えばどうなるか分からないぞ)


【こちらである程度制御するので大丈夫です。一撃で葬って美少女ポイントを稼ぎましょう】


「哀れな魂に――」


 銃口に収束していく魔力量と三重に描かれた魔法陣を見て、みみみはゴキブリのように這ってでもその場から離れる。射線上に居れば間違いなく巻き添えを喰らう。そう確信できるほどの魔力だ。


「ステラ・アリヴィリオ!」


 銃口から放たれたビームが化け物の胴体を消し飛ばす。【浸食】で自己再生能力を失った化け物は修復が間に合うことができず、絶命するのであった。


【推定Aランクを一撃!?】


【ってなるとSランクになるけど、学園都市のSランクにあんな奴はいない】


【誰だよ】


【野生のSランク】


【居てたまるか!】


「あの……お名前は?」


「星に名前は無いわ。でもどうしても呼びたいならステラ……エクステラと呼びなさい」


【そこはステラだけで良いんですよ】


(エクスもいなかったら、そもそもたどり着けていない。あいつの分も入れてやれ)


【美少女じゃありませんよ】


(俺は男だからな)


「さあ、私はすべきことが残っているから、先に帰りなさい」


「転移魔法陣……あ、ありがとうございます」


 みみみがぺこりと頭を下げると姿が消える。そして、エクステラが部屋の中央にいくと、きれいに取り残されている試験管とその中に入っている主人公の新型武器、人型EXギアの少女が中に入っていた。


【これ、中身はいっていませんね】


「ああ、ガワだけ出来て起動することができなかった。だから破損した人型ギアの新たな器になる予定だ」


【なるほど中身が無事なら、外側を変えれば問題なく使えます】


「問題はさっきの配信で自衛隊にこれが見つかってしまうということ。そうなれば、主人公の手に渡らなくなる」


【主人公?】


「ステラ、詳しいことは後で話すが、お前には話しておく。この世界はゲームの世界で俺たちは端役だ」


【美少女じゃありませんね~】


「意味は分からんが、理解はしてくれたな」


【とりあえず、その主人公ちゃん?に渡らないとマズイということですね】


「そういうことだ。その日が来るまではこいつは俺たちが預かっておく。ちなみに主人公は男だ」


【クーリングオフして美少女になりません?】


「残念だが、男女選択制ではない」


【美少女~】


「さてと、目的は達成したし、帰るとするか。女装は解いておけよ」


 渋々ステラは女装を解いて、信二に戻り、地上へと帰還するのであった。とんでもないお祭り騒ぎになっているとは知らずに。

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