夕暮れ時に霞咲く夜花
氷夜
第1話 茜空
私と青衣の6年間が消えた。
ーーー
地元で有名な滝を青衣と見に来た。
隣で女性と男性のカップルが水飛沫ではしゃいでいる。
木漏れ日が綺麗。
滝の爽やかな音が心地良くて癒されると思いながら目を閉じていると。
「
青衣に呼ばれ、目を開けて隣に立つ。
22歳。
見た目はダークブルーのショートヘア。
琥珀色の瞳。
格好良い顔立ち。
身長は165cmで私より10cm高い。
彼女の服装は、淡い青の長袖のシャツにデニム。
格好良い。
「青衣とこうして一緒に過ごせるの凄く嬉しい。」
彼女の頬が桜色。
「あたしも嬉しい。」
可愛い笑顔を向けてそう答えてくれたのが嬉しくて
「青衣大好き。」
「わっ。夕茜、愛してる」
青衣に抱きついた私を包み込みながら背中に腕を回してくる彼女。
「私も青衣のこと愛してる。」
突然、青衣が私を見つめてくる。
「夕茜。」
「青衣......?」
眼差しが違って不安になってくる。
ザー......と滝の音が響く。
落ち着かない。
「
「そっか。」
目元を隠したら青衣が私の手を退かして
「ごめん。あたしバイだけど男の方が好き」
「ストレート寄りだったんだ。」
としか言えなくて黙り込むと
「そろっと帰ろう。」と青衣が優しく言う。
「うん......。」
青衣が、私と歩幅を合わせて歩きながら一瞬ちらっと私を見てすぐに前を向く。
※そろっと......新潟県の方言。
駐車場に着くと、彼女が淡いグリーンの乗用車の鍵のロックを解除して助手席のドアを開ける。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
戸惑いながら助手席に乗った途端、青衣が私を自分の方に抱き寄せる。
「!青衣......。」
彼女に結構長く抱きしめられてる。
青衣、遊馬君の事が好きなのに。
「夕茜ごめん。帰ろう」
「うん。」
窓の外を見ると、駐まっていた車が居ない。
空も、オレンジから幻想的な青へと変わってく。
フラれてから抱きしめられたのが複雑。
そう考え込んでたら、青衣が車を発進させる。
アパートに着いて青衣を見つめる。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
車から降りようとしたら青衣が私の手を握り
唇にキスをしてくる。
「っ!」
「夕茜とは今日で最後だから。」
青衣、私の事好きでもないのに。
という言葉を飲み込んで。
「うん。最後.....青衣、今までありがとう」
青いが涙目で私を見つめる。
頷いたのを見て助手席から降り、
ドアを閉める。
「......っ。」
2階の真ん中の部屋に着き、鍵を開け
玄関の電気を点けて消し、リビングの床に座った瞬間脱力する。
青衣に振られた瞬間を思い出して涙が星屑のように溢れてくる。
青衣の存在が大きかった。
彼女とは1歳の頃からの幼馴染で、付き合い始めた時の事も思い出して尚更涙が止まらない。
部屋の中で泣いてたら外が真っ暗になってるのに気づいてゆっくりと立ち上がり、キッチンへ向かう。
焼きそばを作り、ボーッとしながら食べてると
メタリックブルーのスマホが鳴る。
電話?
!
「もしもし。日凪久しぶり、どうしたの?」
[いや、夕茜と話したいなって。16日暇?」
いきなりどうしたんだろう。
日凪とは半年会ってなかった。
「うん。16日暇」
[一緒にご飯でも食べに行かない?]
一緒にご飯。
「一緒に食べに行こう。」
[やった!何時にどこで待ち合わせする?]
「12時に駅前の本屋さんの前で待ち合わせする?」
[うん。12時に駅前の本屋さんで待ち合わせしよう......夕茜、何か辛い事とかあったら甘えて」
「うん。え?日凪ありがとう......おやすみ」
[おやすみ。]
安心する。
電話のあとお風呂に入り、日凪と土曜日の事を考えながら目を閉じる。
土曜日。
待ち合わせ場所の書店の前まで歩いてくと日凪が立っている。
「夕茜久しぶり!」
「久しぶり。」
1歳の頃からの幼馴染。
オレンジがかった茶髪のふわふわのショート、珈琲色の瞳。
162㎝。
可愛い顔立ちをしている。
セクマイの間で有名。
尻尾を振って喜ぶわんちゃんに見え、思わず日凪の頭を撫でると顔が赤くなる。
「わっ。夕茜、恥ずかしいからやめて」
「ごめん。」
「大丈夫だよ。嫌ってわけじゃないからね! 」
「うん。」
「お昼何処で食べる?」
高校生の頃、日凪と2人で食べに行っていた
オムライスの専門店を思い出す。
「Rainbow tearとか。日凪は?」
「Rainbow tearにしよう。」
「うん。」
駅前の書店から3件隣のRainbow tearに入って
店内を見る。
レトロな内装から白と緑を基調とした爽やかな内装に変わってる。
「いらっしゃいませ。2名様でしょうか」
黒髪のショートボブの中性的な顔立ちで、20代前半くらいの女性の店員さん。
『はい。』
「席にご案内いたします。」
窓際の街並みがよく見える個室。
「夕茜とこうしてまた一緒にRainbow tearに来れて嬉しい。」
可愛い表情と言動。
青衣と別れたばかりだから日凪に恋愛感情を抱いてるわけじゃない。
「私も日凪と久々に来れた事が嬉しい。」
顔が熱くなってきた。
さっきの黒髪のショートボブの店員さんが
おしぼりとお冷を持ってくる。
「失礼いたします。こちら、お冷とおしぼりでございます」
『ありがとうございます。』
「お決まりになりましたらそちらのボタンでお呼びくださいませ。」
『はい。』
日凪と店員さんが見つめ合ってる。
面白くない。
「失礼いたします。」
「
「いいよ。」
淡い月のような"月舞“さんがふわっと微笑む。
「ありがとう。月舞、仕事中に声掛けてごめんね」
「気にしないで。」
「うん......。」
彼女と月舞さんってどんな関係なんだろう。
メニュー表を見てたら日凪と目が合った。
「夕茜、月舞と私の事で何か引っ掛かってる?」
「引っ掛かってない。」
「そっか......。」
「うん。」
デミグラスソースオムライスとアップルジュースにしよう。
日凪も決まり、彼女が確認してボタンを鳴らしたら同じ店員さんが来てデミグラスソースオムライスとアップルジュース、ほうれん草と舞茸のオムライス、レモンティーを注文する。
「夕茜、今日何時くらいまで大丈夫?」
「17時まで大丈夫。日凪は何時まで大丈夫?」
「.....明日まで大丈夫だよ。」
「日凪は明日仕事?」
「休みだよ。夕茜は明日仕事なの?」
「明日休み。私ん家に泊まってく?」
いや、何で日凪を誘うの?
「いいの?」
彼女の頬が桜色に染まる。
「いいよ。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
「夕茜の事放っておけない。」
「え?」
注文してたオムライスのセットやきのこのオムライス、レモンティー、アップルジュースが来た。
「お待たせいたしました。ほうれん草と舞茸のオムライスとレモンティーのお客様」
「ありがとうございます。」
「デミグラスソースオムライスとアップルジュースのお客様。」
「ありがとうございます。」
「以上でお揃いでしょうか?」
『はい。』
「ごゆっくりどうぞ。」
日凪と月舞さんがまた見つめ合った。
店員さんが離れて厨房の近くへ歩いてく。
デミグラスソースのオムライスを食べ終え、
アップルジュースを飲んでると日凪と目が合った。
「日凪?」
「な、何でもないよ。」
「そっか。」
「うん。」
彼女の頬が茹でダコのように真っ赤っか。
席から立ち、割り勘をしてRainbow tearから出たらなぜか月舞さんも外に出てきた。
日凪が月舞さんの手を握って「月舞またね。」なんて私に見せた事も無い笑顔で声を掛ける。
「うん。日凪またね」
「......。」
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
『ごちそう様でした。』
Rainbow tearから5分歩いてアパートに着き、ドアの鍵を開ける。
「お邪魔します。」
「どうぞ。」
日凪がそわそわしてる。
気になりつつカフェオレを淹れる。
キッチンから移動し、カフェオレの入ったコーヒーカップをテーブルに置き日凪の隣に座る。
彼女が「夕茜。」と呼びながら両頬に触れてくる。
「日凪?」
日凪が私の両頬から手を離す。
「夕茜ごめんね。いただきます」と言い、カフェオレを飲んで黙り込む彼女。
「日凪、怒ってないから。」
彼女に近づき、日凪が顔を上げると同時に頭を撫でる。
「ゆ、夕茜っ。」
日凪が顔を赤くして照れてるのが可愛い過ぎて
もっと撫でたくなる.....って何考えてるんだろう。
彼女の事を撫でてるのが恥ずかしくなって手を離すと、日凪がそっぽを向く。
彼女の顔が凄く赤い。
日凪の前に移動して彼女の反応を伺う。
「お返し。」
「わ.....。」
今度は私が日凪に頭を撫でられ、なぜかドキドキして下を向く。
まともに見れずにいると。
「そういえば私が夕茜に電話した日、何があったの?」
「デートしてた時に青衣に振られた.....。」
泣きそうになってると少し黙り込んでた日凪が申し訳無さそうに
「夕茜、思い出させてごめんね。」
「大丈夫。」
「夕茜の事守りたい。」
「ありがとう......。」
日凪の眼差しに胸が高鳴り顔が熱くなる。
「いえいえ。」
日凪の事を見れない。
そういえば高1の頃、彼女の格好良い一面にドキドキした。
日凪が近づいてきて切なそうな表情をする。
「夕茜。」
「どうしたの?」
「何でもないよ。」
日凪?
「そっか。日凪、一緒にアルバム見ない?」
不自然な提案をしたら彼女が嬉しそうな顔をする。
「うん!夕茜、一緒に見よう。」
立ち上がり、アルバムを取りに行く。
さっきの切なそうな表情が気になってしょうがない。
日凪が私に伝えようとした事と切なそうな表情をしてたのが分かるのは、白い月が見える時なのかも知れない。
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