第16話
本当、知りたくない奴との思い出をべらべらと話すものだから初めは凄く嫌だったけど、先輩のことを知りたくて我慢して聞いていた。
そのうちに嫉妬を通り越して呆れてしまう気持ちが大きくなってしまったが、彼女を好きだという気持ちは止まらなかった。
その中でひとつ、気がついた。
先輩が奴との思い出話をしている時、とてもいい表情をするんだ。
瞳孔が開くというか、表情が愛らしくなるというか。
いわゆる恋する何とかってやつなんだろう。
先輩がそれと同じく見えるときは決まってドラムや音楽関連の話だった。
じゃあ、恋もしたことがないような俺が思いつくのはひとつだけ。
「スネア、買いたいと思ってるんすけど…」
「よっし!タケも心決めたね!応援するよ、その心意気!」
奴と同じような気持ちを向けてくれるのは、先輩の愛する世界に踏み入るしかないと思ったんだ。
「じゃあこれから買いに行こう!行きつけの楽器屋さんがあるから!」
「ちょ、まだ昼ですよ?」
「いーのいーの!どうせ学祭絡みの話し合いなんだから、放課後の部活に間に合えばいいでしょ?」
「えちょ、自分それの委員なんすけど」
「大丈夫だって、いつも真面目にしてるんだから、たまにはね?」
「・・・・・・」
ほら、やっぱりそれの話題になると愛くるしい表情を俺にも向けてくれる。
この笑顔は俺のもの。
奴を想って出た表情じゃない。
そんな小さなことでも、十分に俺の世界は華やいで見えたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます