ダンジョン配信者ランキング1位、ダンジョン攻略成績1位、冒険者美少女ランキング1位の美人先輩がヤンデレで卑しすぎる
ひつじ
第1話
20××年。ダンジョンが現実に現れ出し、人々に異能が発現するようになって早十数年。日本国家はダンジョン資源を求めて、優れた冒険者を育成する教育機関を設立した。
その名を冒険者高専という。
ダンジョン攻略のエキスパートを目指す若者が集う学舎で、僕もその中の一人として今日門戸を叩いた。
この学校は全寮制。普通科寮の入寮手続きを終えた新入生たちは皆学食に集められ、前でガイダンスをする先輩に憧憬の眼差しを送っていた。
「君たち、入学、入寮おめでとう。我々普通科の同胞が増えたこと、先輩としてよろこばしく思う」
絹のように艶やかな黒髪が特徴的な、美しい先輩が微笑んだ。
皆が見惚れ息を呑む。中には恍惚とした新入生すらいる。
それはただ美しいという理由だけではない。
東條エレナ。彼女は普通科に属する生徒の憧れなのだ。
宝物を見つけ一攫千金の富、人を魅せてやまない配信者としての地位、未開拓のダンジョンを踏破する名誉。それらを目指すことができるダンジョン冒険者には、選ばれし者しかなれないのが通説だった。
人は生まれながらにして職業が決まっている。魔法使いや戦士などがあり、経験値を積むだけで職業に応じたスキルが発現する。
しかしながら、そんな職業を得られるのはごくわずか。多くは普通の人間という職業を与えられ、経験値を積むだけでは何も覚えられない。血反吐はくほどの努力をしてようやく最下級のスキルを覚えられるかどうかだ。
だから職業のない人間は、砂漠で水を欲するほど焦がれても冒険者として生きていけないというのが一般的だった。
だがそれは彼女が現れるまで。
普通の人間にも関わらず、彼女は誰よりも優れた成績を収めた。
ダンジョンに入れば八面六臂の活躍。アイテムを駆使した戦い方が飛び抜けて上手く、ダンジョンをクリアする度に得られたアイテムを用いることで、実力は青天井で伸びていく。
そんな姿は映像として映え、抜群のルックスに、馴染み深い普通の人間という親近感が加わり、大人気のダンジョン配信者として成功。普通の人間が冒険者になれるという道を開拓したのだ。
さらにダンジョン配信者ランキング1位、ダンジョン攻略成績1位、冒険者美少女ランキング1位という三冠に輝いていて、今ここにいる新入生は皆、彼女に憧れて入学している。
僕もまたその一人だった。
***
ガイダンスが終わり、そのまま寮食で交流会として昼食。入学祝いとして振る舞われた豪華な食事だが、僕はまともに味わうことが出来ずにいた。
「あ、あの?」
「ん? どうかしたか?」
テラスの二人席テーブル、正面には憧れの東條エレナ先輩。
席は公平を喫するためクジ引きで決めたのだが、先輩が引き当てた相手は僕だった。
「ふふ、驚いたか?」
「は、はい。憧れの東條先輩と昼食をともに出来るなんて、夢にも思いませんでした」
「東條先輩、か。それはそれでクるけれど他人行儀じゃないか? 昔みたいに呼んでくれても良いんだぞ?」
「え? 昔みたい?」
「……覚えていない?」
「僕、先輩にどこかで会いましたっけ?」
先輩を覚えていないなんて失礼なことはできない。
必死に記憶を探るけど心当たりがない。
「……これは都合が良い。ではなく、ちょっと揶揄ってみただけだ。初めましてだよ」
「はあああ、良かった。先輩に恥をかかせるところでした」
「優しいところ、変わってないね」
「また冗談を。やめてください、心臓に悪いです」
「ふふっ、済まない」
先輩が笑って、僕も釣られて笑った。
「君、名前は何と言うんだ?」
「
「良い名前だね」
「ありがとうございます!」
「私は高専三年の東條エレナだ。よろしく頼む」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「うん。冷めてしまうのもなんだから、食べながら話そう」
緊張が少し解け、食べ物の味がわかるようになり箸をすすめる。
秋刀魚の塩焼き、和牛のステーキ、新鮮な鮪の刺身、彩豊な副菜の数々が食べやすいサイズで弁当箱に詰まっている。豪華な食事は何を摘んでも頬が落ちるほど美味しい。
ただ先輩はそんなおかずに目もくれず、白米が盛られた茶碗片手に僕の顔から目を離していなかった。
「……じーっ」
先輩はパクパクと白米を食べる。
「あ、あの、先輩?」
「何かな? あ、そうだ君、私を憧れって言っていたな? どうして憧れているか聞かせてくれるか?」
どうして僕をまじまじと見ながら白米を食べるのだろう。
と疑問を尋ねたかったけれど、先輩の質問に答えるのが第一だ。
「
「へえ」
「僕の住んでいた孤児院が虐待問題で閉鎖して、当てどない所を養父に引き取ってもらいました。それだけでなく本当の父親のように愛情を持って僕を育ててくれたんですよ」
「聞いて良い話かな?」
先輩は眉間に皺を寄せた。
「大丈夫ですよ! 重く考えてませんので!」
と明るく言って、続ける。
「それで父には深く感謝していまして、怪我をして断念した父の夢『白のダンジョンの踏破』を代わりに叶えたいな、と冒険者を志しました。ですが、僕は普通の人間ですので、冒険者になるのは難しいと色々苦しんでたんですけど……」
「私が、普通の人間でも冒険者になれる、と道を開拓したから、憧れているってことか?」
「はい!!」
僕は強く頷いた。
「はうっ! きゃ、きゃわ……」
先輩は片手で心臓を押さえたかと思えば、白米をかきこみはじめた。
「え、ど、どういう反応ですか?」
「ふふっ、そうか。なら親父さんのために頑張るしかないな」
食べ終えた先輩はほっぺにご飯粒をつけて笑った。
格好つかないけど、憧れの先輩に励まされた事実ばかり頭の中を占め、喜びが溢れる。
「はい!!」
「うん、応援してるよ……あ、もう昼食の時間は終わりか」
名残惜しい。だけど先輩の方が名残惜しそうな顔をしている。
しかし、ピキーン、という擬音が聞こえたかと思えば、先輩が笑顔になった。
「君に一つ言い忘れたことがある」
「言い忘れたこと、ですか?」
「ああ。この普通科寮には子犬が紛れ込むことがある。もし見かけたら、部屋に招き入れ満足するまで撫でてやってほしい」
「へえ、可愛がっているんですね」
「うん、よろしく頼むよ」
そんな言葉を最後に、先輩との昼食が終わった。
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