知言の追抄(ちげんのついしょう)

天川裕司

知言の追抄(ちげんのついしょう)

「アーク‐切断(arc cutting)」

 無重力には人の脚力(ちから)が這入って行った。表情(かお)の動きがいっとき乏しい固陋を偽る無欲の定家(ていか)は、侏儒の行方を散々追いつつ、納言(おんな)の身元(もと)へと還って入(い)った。時折り忘れた文句(ことば)が暴れる。―

 人の無欲に本能(ちから)が生き付け、旧い教句(きょうく)に狂句を構える旧(むかし)凌ぎの女悪魔(あくま)が仕上がり、自己(おのれ)の未知から幾重(いくえ)も乖離(はな)れた個人ばかりの不毛の相図(あいず)は、事毎追われぬ不毛の論議に未来を先取る凡人など見た。何時(いつ)しか言葉が宙(そら)へと還る…。

 女の四肢(てあし)が真横に空転(ころ)がる。自己(おのれ)の活命(いのち)が自体(おのれ)に還る…。女の身重(みおも)が統制された。

 男の担ぎに女が絆され、遅れて来るのは私運の言語で、宙(そら)の真綿にはきはき発(た)つのは男性(おとこ)から成る荒鷲だった。―アークの切断。アークの切断。

 思潮の言語(ことば)に憂いを知るうち暑い季節は完璧(かべ)を成せ得ぬ。

 白亜(しろ)い海には山の恵みが概(おお)く暗転(ころ)がり、一女(おんな)の孤独へ真面に富むのは一男(おとこ)の虚無への回想だった。―幻(ゆめ)の真面にアークが零れる。幻(ゆめ)の一端(はし)からアーチが架かる。

 女が言う。

「意味を忘れず、解らぬ道理は、温厚(あつ)い身形を抱えた儘にて、男性(おとこ)の孤独へ煩悶して生(ゆ)く。…苦労の宮(みやこ)は一理に配して、暗黒(やみ)の許容(うち)より生体(からだ)を直せる。」

 男が傅く。

「そうそう、幻(ゆめ)の間際に孤独の炎情(マグマ)は異性に基づく活性から成り、手厚い看護を見立てに透せる人物(もの)の概(おお)くは駆逐を保(も)たない。」

 意味を信じて理解を通せる孤高の自覚(かくご)は追々生(ゆ)く内、歳(とし)を重ねて人生(いのち)を射止める小さな〝凄み〟に末路を観ていた。

 玄人ばかりの未刻の清閑(しずか)は気性に化け生(ゆ)く正茂(せいも)を生やし、漆黒(くろ)い嘆きに美醜を問うのが否応なしにも孤独を切り捨て、自体(おのれ)を透せる全理(ぜんり)の自然(あるじ)が過去を射止める見様の許容(うち)には、男性(おとこ)も女性(おんな)も孤独に住めずの五月蝿(あわ)い気色を大事に採った…。

      ☆

 金属などの切断法の一つ。アーク放電による高熱で溶かして切断する。

      ☆

 「終わり良ければ全て善し」など誰も信じぬ無適(むてき)の法だ。女に感ける一男(おとこ)の気色が、滑稽から成り俗世(このよ)で堕ちた。未来の気色は成果が創る。女性(おんな)の主(あるじ)は「従者」に従う…。くどくど、くどくど、くどくど、くどくど…。手厚(あつ)い審理は小春(はる)に蠢き、人間(ひと)の生果(せいか)を酔わせてあった。孤独の種から電子が跳んだ…。


「アークの灯(とう)(arc lamp)」

 木漏れ日から成る器用の光明(あかり)が、少女(おんな)の温(ぬく)みにぽんと巣立って、初歩(はじめ)から成る個録(ころく)の自覚(かくご)が幻(ゆめ)の内(なか)へと巣立って行った。温厚(あつ)い温味(ぬくみ)に人間(ひと)が表れ、幻(ゆめ)の概(おお)さに意味が付くのを街の中では認められずに、淡い小鳥が宙(そら)に駆けるは一幻(ゆめ)の王佐と相成り始めて、孤独ばかりが独歩を続ける現代人(ひと)の微温味(ぬるみ)を真傍(まよこ)に観るのは、事始(こと)へ息衝く矛盾の成果(かなた)が厚く撓める瞬間だった。一人(ひと)の初歩(はじめ)が宙(ちゅう)を駆け生(ゆ)く。一女(おんな)の性差が万物(もの)を観れども旧(むかし)の形見は概(おお)きく成らない…。距離を隔てて相(あい)した男女(だんじょ)は違う価値から自在を見貫(みぬ)き、一体(からだ)が概(おお)きな電子の傀儡(ツール)に幻想(ゆめ)の重さを測れなかった…。孤独と孤独が概(おお)きく連なる宙(そら)の安堵は熟々(じゅくじゅく)した儘、黄土(つち)の粘土が文言(ことば)を忘れて孤高の動作を翻(かえ)して生(ゆ)くのは、幻(ゆめ)の過程(さなか)へ沈従(ちんじゅう)して行く旧い自覚(かくご)の表れだった。

 無活発から忍従して生(ゆ)く女性(おんな)の暖炉は男性(おとこ)を迷わせ、白い軒から一夜(よる)を担わす無臭の生体(からだ)に感覚(いしき)を想わせ、身軽(かる)く相(あい)せる滑稽(おかし)な私運(はこび)は樞(しかけ)を忘れてふんと跳び退(の)き、概(おお)めに見て行く「次の動作」は男性(おとこ)の正気へ奪(と)られて行った。

      ☆

 向かい合った二本の炭素棒に電流を通じ、その間に白熱の光を出す電灯。映写機などの強い光源として使われていたが、高圧ガス放電灯に置き換えられてきている。アークライト。弧光灯。

      ☆

 旧(むかし)に好く見た「街の明かり」に牛歩を通じ、一女(おんな)の初歩(でかた)を意味に付し得る温厚(あつ)い苦力(くりょく)にその実(み)を遣られ、創作して生(ゆ)く男の日蓋(ひぶた)は一女(おんな)の手許に新しかった。一女(おんな)の一声(こえ)から男児が失(き)えた…。白い闇から無影(むえい)が跳び発(た)ち、手厚(あつ)い震えを惜しく乞うのは余程に熟れ生(ゆ)く未完(みじゅく)の信仰(めいろ)で、女性(おんな)の独語(かたり)に新参足るのは、男の孤独へ埋没して行く秘密の迷路の暁だった。夜桜から散る翌朝(あさ)の仕種は凡庸ながらに、過去の生気へその芽を射止めた無機の本能(ちから)は躍起を灯され、慌てて逃げ行く男女の精気は小春(はる)の温味(ぬくみ)に凡庸(ふつう)を知り貫(ぬ)き、端正(きれい)に纏まる一体(からだ)の概(おお)くは、男女を寝かせて陶酔していた。

 女の禿(かむろ)が独りでに発(た)つ。男の向きから精気が垂れる…。暗い鈍(にぶ)りが凡庸ながらに独義(ドグマ)の背中を小開(アーク)に見て取り、矮小(ちいさ)な手許が白亜へ差し込む未完(みじゅく)の熟れから転生を見た。一女(おんな)の逃避が清閑(しずか)に成った。


「アーク放電(arc discharge)」

 厚い気色は一女(おんな)の景色で活き活きして行く群象(ぐんしょう)から成り、言葉の多くを一男(おとこ)に遣わす微温(ぬる)い小敗地(アジト)を充分見せ付け、夜半(よわ)の身辺(あたり)で人間(ひと)を迷わす行李の在り処を探して行った。一人(ひと)の記憶が曖昧ながらに旬を想わす人間(ひと)の奈落は自ずと規則が曖昧ながらに、真白(しろ)い長(ちょう)から感覚(いしき)が遠退く女性(おんな)の体裁(かたち)を自由に取り次ぎ、明日(あす)の形成(かたち)へ「自分」を挿(い)れ込む旧来(むかしながら)の偽装を採った。

 田舎に産れた未知の道標(しるべ)は昨日の辺りに初歩を見付けて、独人(ひとり)に始まる旧(むかし)の主宴(うたげ)を宙(そら)に投げ掛け不問を問う内、明日(あす)の生気へその実(み)が割かれる「宙(そら)の界(かぎり)」が私算(しさん)に気付き、明日(あす)と現行(いま)との滑稽(おかし)な空転(まろび)は、宙(ちゅう)へ向くまま安全でもある。紫陽(しよう)に割かれた静寂(しじま)の奥義(おく)には人間(ひと)の一界(かぎり)が散乱して活き、温厚(あつ)い毛布にその実(み)が縮まる旧来独曰(むかしがたり)に女性(おんな)が活き貫(ぬ)き、言霊(こだま)の概(おお)くが成果(はて)を識(し)れない「夢見上手」の男・女(だんじょ)の人陰(かげ)には、真白(しろ)い孤独が呆(ぼ)んやり浮かべる事始(こと)の成就が概(おお)きく鳴った。

 男性(おとこ)が揃える一女(おんな)の一界(かぎり)は宙(そら)へ根付ける脆(よわ)い信途(しんと)だ。

      ☆

 気体内での低電圧、大電流による放電。強い光と熱を発生する。アーク溶接・高圧水銀灯・アーク炉などに応用。

      ☆

 形が無いのを乏しく思い、女の景色はそれから独歩(ある)いて男性(おとこ)の身許へ縋って行った。

 子供の目をした女の表情(かお)には無垢に見詰める孤独が囁き、未知に佇む一女(おんな)の理性(はどめ)に感覚(いしき)を打ち立て瞬時に失(き)えた…。―、放浪するまま功労する儘、女の感覚(いしき)は翻(かえ)って行った。男の孤独は熱を追い掛け流行(ながれ)を追い掛け、女の用途を瞬時に捉える未活の雲母を背負(おぶ)って行った。過去の記憶に揚々(ようよう)灯れる旧(むかし)の主観(あるじ)は功(こう)に動かず、旧い熱から背後を護らぬ「浮き足」ばかりが通って行った。

 記憶の通底(そこ)から孤独が仕上がり、明日(あす)を呑むうち女の動作は経過(とき)を仕留めぬ淡さを識(し)った…。

 孤独の周囲(まわり)で元気が成るうち孤踏(ことう)の気取りは矢庭に仕上がり、真白(しろ)い形成(なり)から伽藍を観て生(ゆ)く生茂(せいも)の辺りで踏襲している…。何へ対して踏襲するのか、よくよく分らぬ一女(おんな)の生屍人(ゾンビ)が宙(そら)へ跳び立ち巣立って入(い)った。気色の変らぬ発熱(ねつ)の動作が〝日々〟を追い掛け無き物とも成る…。

 生憶(きおく)違いの滑稽(おかし)な老苦(ろうく)が女の貌(かお)から鈍って仕上がり、これまで観て来た生気の哀れは旧(むかし)に返って温存された…。


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