【中編版】Bloom story(『アドバンッ!!』スピンオフ作品)

麻田 雄

第1話


 ――私は幼い頃から地味だった。


 人前に立つのは苦手だし、人を笑わせるなんてまず出来ない。


 だからなのか、”変身願望”は強かった。

 魔法少女や、お笑い芸人に憧れていた頃があった――



 成長するにつれ、子供じみた”変身願望”は薄れていったけど、無くなったわけじゃなかった。



  ◇  ◇  ◇



 そうして、今日は楽器店に来た。

 ある決意を胸に――



  ◇  ◇  ◇



 下調べは終えている。

 ネットで買った方が安かったけど、親にバレるのが嫌だったのだ。

 私は所詮そんな小心者です――。


 マスクを付けて帽子も被っているし、私がこんな所に居るとは、私を知る人なら誰も思わないだろう。

 音楽系の部活をしている訳でも無いし……。

 そもそも、どこに居たとしてもそんなに気にされないだろうなぁ……私なんて。

 と、考えると急に虚しくなる。



 店員さんに話をして、お目当ての商品が入っているガラスケースの前で店員さんが来るのを待っていた。

 あまりにソワソワしていて挙動不審。

 万引きGメンでも居たら疑われそうだ……。



 「あれ?遠月とおつきさん?」


 唐突に名前を呼ばれ、驚き過ぎてその場から走って逃げ出しそうになった。


 『えっ!?何っ!?どういう状況!?』と、完全にテンパっていた。

 そんな私から出た言葉は――



 「すすすすっ、すみません。見逃してください」


 私は深々と頭を下げた。

 おそらく、傍から見たら完全な”黒”。



 「えっ!?ええ!!!」


 声を掛けてきた人の驚く声が聞こえた。

 急いで深々と頭を下げた為、声を掛けてきたのが誰だかは分からない。

 ただ、声の感じからして女の子……だよね?



 「お待たせしました~」


 と、今度は男性の声が聞こえてきた。

 多分、店員さんだ。



 尚も、私は下げた頭を上げられない。


 「すいませんっ!!」


 そう言って、頭を下げたまま声とは逆方向に走り出した。



 ――が、すぐに商品棚に足を引っ掛け、激しく転倒。



 「大丈夫ですかっ!?」と、慌てて声を掛けてくる店員さん。

 そちらに目線を移したと同時に視界に入った少女は……えーっと、確か、同じクラスの前澤まえざわさん?だったかな?



  ◇  ◇  ◇



 暗い表情でお目当ての商品を買った私は、前澤 穂乃花ほのかさんと歩いていた。



 「まさか遠月さんとあんなところで会うとは思わなかったわ」


 前澤さんは嬉々として話し掛けてくる。

 既に私はこの世の終わりすら感じているのに……。



 「うっ……うん」


 私は俯いたまま頷いた。


 「遠月さんって、なんか配信とかやってるの?」


 前澤さんは訊ねてくる。

 買ったモノを知られている以上はそう思われてもおかしくない……。

 でも、正直には言い辛い。



 「かっ……家族に頼まれて……」


 やや的外れな返答になっているうえに、家族に頼まれて配信初心者セットとして販売されていた、オーディオインターフェイスやコンデンサーマイク等(どちらも録音用機材です)を買いに来るのはそこそこ不自然ではある……。


 ……が、そこまで頭は回っていなかった。



 「そうなんだ。じゃあ、家族の人がやってるの?」


 尚も喰いついてくる。

 配信以外にも使い方あると思うけど……?

 とにかく今は、この話題から離れて貰いたい。


 「か……家業の関係で……」

 「えっ!?家業!!?もしかして、音楽関係の仕事とか?もしかして有名配信者!?」


 逸らすつもりがどんどん興味を持たれてるっ!?


 素直に”自分が配信を始めようとしている”と言った方が楽なのかな?

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