世、妖(あやかし)おらず ー転生令嬢ー

銀満ノ錦平

転生令嬢 


「わたくしは、昔々のその昔の!とあるお城のお姫様でしたのよ!」


彼女は私に話をしてくる。


「わたくしは!それはもう立派なお城に住んでいたんですわ!豪華で華やかでとても綺麗で…!召使いさんもそれはもう顔が整っている方達ばかりでそれはもう目に入れても後悔しないような美男子さんばかりでしたのよ!」


「へえ…。それは凄いですわねえ…。」


私は、しれっとした態度で答える。


「あら!信じてませんわね!いつも話してるではないですか!お食事もね!それはもう豪華でして!カルガモの丸焼きにふわっふわとした大きいオムレツ!香りの良いモッツァレラチーズと地元に生えているモリーユ茸を炒めてこれまた香りの良いバジルを添えたカルボナーラ!!それから…!」


彼女は、まるでその昔の…所謂、ブルジョワな貴族が繁栄していた時代の令嬢のようなことを話し出す。


どうやら、その古き旧体制時代に生きていた令嬢だと思い込んでいるらしく、私の顔を見る度にその昔の旧体制時代に優雅に過ごしていたという妄想の類を話しかけてくる。


「あのね…。私にそんなことを話しても、はいそうですか…で終わる話よ?そもそもなんで自分がその旧体制時代のブルジョワな令嬢だと思い始めたの?」


私が淡々と話すと彼女はいつもの様に興奮しながら答えてくる。


「それはね!テレビでフランスの旧体制時代の生活再現ドラマをしていた番組があってね!それ見てふと頭に浮かび始めたのよ!その時の生活が!それてでね、色々と資料を見ていてピンときたのよ!あ、私は、この生活を知っている…いや!経験したことがあるって!」


「へぇ、それ思い込みってやつじゃない?貴方結構のめり込むタイプみたいだし。」


「いえね!その日の夜に夢を見たのですわ!」


「夢を?」


「そうですわ!そしたら夢にその光景が浮かび上がりましてね!それはもういつも話してるような生活をわたくしが実体験してるような感触でしたの!そして目が覚めた時に、わたくしはその時のことを完璧に思いだしましたよ!わたくしはあの時代に生きていた令嬢だって!エルザー嬢という名前も!わたくしがその後革命で若くして亡くなったのも!」


「はぁ…。そんな熱く語られてもねえ…。」


「そして今は完全にわたくしは、エルザー嬢として自覚することが出来ましたの!!」


彼女の本名は「佐藤 静香」なのにいきなり私はエルザー嬢なの!と言われても違和感しか無い。


「貴方には、佐藤 静香って名前があるじゃない。それはどうするの?」


「そんなチンケで捻りもなく、優雅さもないありきたりな名前なんて捨ててますわよ!当たり前じゃない!元々記憶を思い出す片鱗は見えておりましたのよ!この、隠しきれない優雅で上品なオーラ!この舞踏会で踊っていたら周りが魅了するような身体のライン!そして相手が見惚れてしまう程の魔性を秘めた顔!これらが証拠なのですわ!貴方もそう思いますわよね!」


「……まぁ、そうねえ。」


私は彼女の部屋の周りを見ながら言う。


「わたくしは!記憶を戻した今なら!きっと羽ばたけますわ!きっと今までわたくしのこの魔性の秘めた魅力のある容姿!声!動作!オーラ!そしてあのテレビ番組を見たその日にあの夢を見て記憶を思い出す…!転生したのですよわたくしは!この世に!きっと神様が与えてくれたんですわ!この世界でわたくしが!わたくしとして!再び周りを魅了する由緒正しい世界で一番に輝ける!圧倒する!誰でもいいなりになってくれる!この世界を革命しわたくしに誰もが跪く世界一の令嬢として!生きてくれとの神様のお導きなのですわよ!貴方もわかってくれますわよね!わたくしの話を唯一信じてくれる親友ですもの!わたくしと同じオーラを感じる!唯一の!」


彼女は正気とは思えない…何処を見てるかわからない表情で私に言い続けていた。


彼女の部屋は、転生貴族関連と実在した貴族関連の本や小説、資料が沢山置かれてあり彼女の寝るスペースと多少食料を置けるスペース以外の足の踏み場がほぼ無くなっていた。


彼女は焦点が揺れてる瞳で自分が転生令嬢だと言い続けている。


原因の一つはもしかしたら私だと思う。


彼女とは、昔ながらの付き合いでほんとはこんなことをいう娘ではなかった。


普段通りに私とお話して、普段通りに私とお遊びして、わたくしと同じく歳を共に重ねてきたのです。


私が…わたくしが思い出さなければ…それを彼女に話さなければ…彼女もこんな妄想に溺れ引きこもってしまうこともなかったでしょうに…。


あの時代は辛かった。


貴族制度も廃され、革命も起き…次々と身内は処刑され…わたくしもその一人でした…。


それを思いだしたのは中学の時の社会の授業中でした…。


あの日、あの革命の授業内容で何もかもを思いだし授業中倒れたのを憶えております。


そして全てを思いだしてしまいました…。


思いだした後は、もう一時期わたくしが引きこもってました…。


周りは、親切にしてくれて…彼女もとても親切に私を心配しておりました。


そして…ある時にこの頭に多い被っていた誰にも話せない…話しても信じるわけがない…そんな話を彼女にしてしまいました…。


ただ…その時彼女は、神妙に聞いておりそしてわたくしに


「信じるよ!友達じゃん!」


この一言ですべて救われました。


多分、冗談半分…いや、嘘言だと思ってたんだと思います。


それでも彼女は信じてくれました。


わたくしもその彼女の支えでなんとか学校に来れるようになり思い出す以前のように振る舞うことが出来ました。


彼女はその時も正気でした。


なのに…


何故、成人した今に彼女がこんな事になったのか全くわかりません…。


何故かわたくしの話した事が…記憶が彼女に移り変わってるかの様に話し始めたのが…。


親も心配してて近々病院に連れて行くそうです。


わたくしが話さなければ…わたくしが思い出さなければ…わたくしが転生なんてしなければ…。


神様は…何故わたくしをこの現代に転生させてしまったのでしょうか…。


使命があるなら早くお告げを聞かせて欲しい…とはもう思わない。


どんなお告げを聞いたとて、狂うた彼女を救えなければ…それが今何よりの優先なのだから…。


彼女を興奮しないように冷淡に話さなければいけないのもほんとは辛い…昔のように楽しく話したいのに…昔のように彼女の純粋な笑顔を見たいだけなのに…。


彼女の部屋に置いてある小説の一つに悪役令嬢と書かれている本がある。


少し読んだことはありますがそれは転生して悪役令嬢になった現代人がフラグというものをへし折ったりそれを利用したりするというよく考えれた設定の話だと関心しておりました…。


現実は…違いました。


もし、わたくしがその悪役令嬢と言われるなら…。


今、親友を狂わせてしまったことが最大の罪なのでしょう。


何故この世に転生させたのですか…なぜ…なぜ…!


わたくしはこの世に転生してしまったという罪… 


そして彼女を狂わせた罪を一生をかけて償わなければなりません…。


わたくしは、彼女の周りにある本の束を見ながら…悲しく瞳を閉じた。























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世、妖(あやかし)おらず ー転生令嬢ー 銀満ノ錦平 @ginnmani

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画