第29話「それぞれの試練」



六本杉神社の境内に、満月の光が降り注いでいた。樹齢数百年の杉の木々が、静かにそよいでいる。


「私の番ね」


蠍島アカネが古代の星霊カードを手に取る。カズマが試練に挑戦してから三日が経っていた。


「アカネ、無理はしないでね」

星川綺羅が心配そうに声をかける。


「大丈夫。自分の限界を知るんでしょ?」

アカネは強がりを言いながらも、その手は少し震えていた。


蠍座の彼女の力は、攻撃的な性質を持つ。それだけに、自分をコントロールすることの難しさを、誰よりも理解していた。


古代のカードが輝きを放つ。アカネの周りに、深紅の光が渦を巻き始める。


「この感じ...!」


彼女の蠍座のカードが反応する。しかし、いつもと違う。普段なら自由に操れるはずの力が、まるで重い鎖で縛られているかのよう。


「くっ...!」


汗が浮かぶ。古代のカードは、確かに彼女の力を制限している。しかし、それは単純な制限ではなかった。


「見えてくる...私の中の...」


アカネの目に、何かが映り始める。今まで気付かなかった、自分の内側の風景。


「私、いつも...全力で突っ走ることしか考えてなかった」


荒い呼吸が落ち着いていく。


「でも、それは...時として周りが見えなくなることだって...」


その時、遠くで何かが光った。神社の森の中から、黒い装束の人影が見える。


「完星会!?」

織部翔が身構える。


しかし、アカネは動かなかった。

「今の私には...追いかけることができない」


その言葉に、全員が驚いた。いつもなら真っ先に飛び出していくアカネが、その場に留まっている。


「それが...私の今の限界。そして、それを知ることも大切なんだって」


古代のカードが、優しく脈動する。アカネの気付きを、認めるかのように。


「アカネちゃん...」

天宮双葉が感動した様子で見つめている。その横で柊が静かに頷く。


「皆さん、見てください」

秋月みらいが空を指さす。


満月の周りに、薄い輪が広がっていた。月暈。それは何かの前触れのようにも見える。


「完星会の動きが活発になってきている」

星見凛が神社の森を見つめながら言う。

「彼らも、何かに気付き始めているのかもしれない」


「気付き始めている?」

綺羅が問いかける。


「ええ。完璧な調和を追い求めることの、本当の意味に」


その時、古代のカードの中から、かすかな音色が聞こえた。まるで、遠い過去の術士たちが、彼らを見守っているかのよう。


「翔」

アカネが声をかける。

「次はあなたの番よ」


「ああ」

翔はゆっくりと頷く。オリオン座の彼の力は、冷静な分析と戦略。しかし、それは完璧な読みを求めすぎることにも繋がっていた。


「己の限界を知ること...か」


満月の光の下で、新星霊団のメンバーたちは、それぞれの試練と向き合っていく。それは完璧な力を得るための試練ではなく、不完全な自分を受け入れるための試練。


そして森の中では、完星会の人影が、彼らの様子を見つめていた。


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