第11話「強豪、現る」



「準決勝、開始まで15分です」


場内アナウンスが響く中、北斗学園の控室は静かな緊張に包まれていた。


「陽南学園か...」

織部翔が腕を組む。

「噂の"太陽楽章"を使うチームだ」


「知ってるの?」

天宮双葉が身を乗り出す。


「ええ」

蠍島アカネが説明を始める。

「去年の全国大会ベスト4。星霊波動を実体化させる特殊な戦術で...」


その時、控室のドアが開く。


「みんな、観てきたわ」

秋月みらいが息を切らして入ってきた。

「陽南の試合」


「どうでしたか?」

星川綺羅が立ち上がる。


「厳しいわ」

みらいの表情が曇る。

「あの"太陽楽章"、噂以上だった」


「具体的には?」

天宮柊が冷静に尋ねる。


「まず、スピードが段違い。それに...」


みらいの説明に、全員の表情が徐々に引き締まっていく。


「でも」

春野カズマが弓を握りしめる。

「私たちには、シンフォニーがある」


「そうだね」

綺羅が頷く。

「みんなの心が響き合えば...」


突然、まぶしい光が廊下から差し込んでくる。


「おや?士気が高いみたいだね」


声の主は、眩しいほどの金髪を持つ少年。陽南学園の制服に身を包み、太陽のような笑顔を浮かべている。


「日向晄(ひゅうがひかる)...」

アカネが呟く。

「陽南のエース」


「やぁ、噂の北斗学園さん」

晄が軽やかに一礼する。

「素敵な演奏、聴かせてもらったよ。月影戦での」


その言葉に、何か引っかかるものを感じる綺羅。


「でも」

晄の瞳が鋭さを帯びる。

「私たちの太陽楽章は、ちょっと違うんだ」


廊下に漂う緊張感。しかし——。


「本番で確かめさせてもらうよ」

晄は後ろを向きながら告げる。

「君たちの音色が、本物かどうかをね」


その背中から感じる圧倒的な存在感に、誰も言葉を発することができない。


「時間です」

審判が控室を訪れる。

「両チーム、準備を」




「準決勝、開始!」


場内が静まり返る中、両チームが向かい合う。


「星霊共鳴!」


陽南学園の変身は、まさに太陽の光のよう。金色に輝く装束が、眩しいほどの輝きを放つ。


「太陽楽章、第一楽章」

日向晄の声が響く。

「"光速運動部"」


その瞬間——。


「なっ!」

織部翔が驚きの声を上げる。


陽南チームの動きが、文字通り光のように速い。残像すら追えないほどのスピード。


「みんな、構え...!」

星川綺羅が警戒を呼びかける。

「シンフォニーの準備を...」


しかし、言葉が終わる前に攻撃が襲いかかる。


「くっ...!」

天宮双葉が吹き飛ばされる。

「速すぎる...!」


「第二楽章」

晄が腕を上げる。

「"絶対光壁"」


金色の光の壁が、空間を埋め尽くしていく。


「これは...」

蠍島アカネが目を見開く。

「私たちの動きを、完全に封じ込める気...!」


「カズマさん!」

綺羅が叫ぶ。


春野カズマの矢が放たれるが、光の壁に阻まれ届かない。


「通常の力じゃ、壁を破れないよ」

晄が静かに告げる。

「さぁ、フィナーレ。第三楽章...」


その時。


「待って!」

綺羅の声が響く。

「私たち...まだ、終わってない」


「ほう?」

晄が興味深そうに見つめる。


「みんな...聴こえる?」

綺羅は目を閉じる。

「この光の中にある...音が」


「音...?」

天宮柊が耳を澄ます。


「そう...この光の壁にも、ちゃんと音がある」

綺羅の声が通る。

「だから...私たちの音楽で、応えよう」


北極星のカードが、新しい輝きを放ち始める。


「星霊シンフォニー!」

「でも、どうやって...?」

双葉が不安げに尋ねる。


「光の壁に、閉じ込められたまま...」

アカネも躊躇う。


「大丈夫」

綺羅が微笑む。

「私たちの音楽は...心で奏でるもの」


その言葉に、全員が気付く。


体は動けなくても、心は自由に響き合える。


「み、みんな!壁が...!」

カズマが声を上げる。


光の壁が、微かに振動し始めていた。


「なるほど」

晄が感心したように呟く。

「壁の共振周波数を...見つけたか」


「フィナーレ!」

綺羅の指揮が、クライマックスへ。


六色の光が、一つとなって螺旋を描く。今度は、光の壁と同じ周波数で。


「スターリンク・ハーモニア!」


放たれた光は、壁を破壊するのではなく...溶け込むように同化していく。


「これは...」

晄の目が見開かれる。


光の壁が、虹色に輝き始める。そして、静かに消えていった。


場内が、深い静寂に包まれる。


「試合終了!」

「勝者...両者引き分け!」


予想外の結果に、観客からどよめきが起こる。


「面白い」

晄が綺羅に近づく。

「君たち...本物の音を持ってるね」


「日向さん...」


「決勝で」

晄が手を差し出す。

「もう一度、響き合おう」


綺羅は、その手を取った。


新たな音楽が生まれた瞬間だった。

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